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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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レイの成長の片鱗

「何をしているんですか。貴方達は」

「ほら、遊んでないでさっさと荷物を運んでください」

 笑いながら揃って坂道を転がるように駆け降りてきたレイとギードを見て、何事かと振り返ったタキス達は呆れ顔だ。

「レイが腹ペコらしいから、俺はスープを温めてくるよ」

「はあい、よろしくお願いしま〜す!」

 その後ろを追いかけて来たニコスが笑いながらそう言って台所へ走って行き、レイがその後ろ姿に大喜びでそう声をかける。

 それを見送ってからレイも手伝って、台車に積んだ大きな木箱を順番に居間へ運んだ。



「えっと、この青いリボンの掛かったのには僕の着替えが入ってるって聞いたよ。じゃあ、これは僕の部屋行きだね」

 台車に積んでいたやや小さめの青いリボンが掛かった木箱を軽々と抱えたレイが、そう言ってそれを自分の部屋に運んで行く。

「すぐに戻って来いよ。来ないと全部食っちまうぞ。実はワシらも腹ペコなんじゃ」

「それは駄目〜〜すぐ戻ります!」

 笑ったギードの言葉に、笑い声と共にレイの元気な返事が返る。

「レイが変わっていなくて嬉しいのう」

 笑いながらごく小さな声でそう呟いたギードが、台車に残っていた一番大きな木箱を持ち上げようとして固まる。

「うん? ふむ、これは相当重いぞ。音から察するに中身は瓶と見た。おお、もしやまた酒を届けてくださったのか。これは嬉しいのう」

 嬉しそうに目を細めるギードの呟きに、もう一台の台車を運んでいたタキス達も思わず吹き出す。

「おやおや、前回頂いたお酒が、まだ何本も残っているんですけれどねえ」

「まあ、腐るもんでなし。大事な時用に幾つか置いておけば良いわな。な、例えば今ならレイと一緒に飲めるぞ」

「ああ、そうですね。確かに、今のレイなら一緒に飲めそうですね」

 嬉しそうなタキスの言葉に、アンフィーも笑顔になる。

「あの体格ですから、相当お飲みになるのでは?」

「どうであろうな。まあ、その辺りはゆっくり話を聞いてからかな?」

「何であれ、あの子となら美味しいお酒が飲めそうですよ」

「確かにそうだな。まあ、それは今夜のお楽しみじゃな。では、これは重くて一人では無理なので……」

「重いの? それなら僕が運ぶよ」

 本当に駆け足で戻ってきたレイは笑ってそう言うと、ギードが諦めた大きな木箱を両手でゆっくりと持ち上げた。

「あ、確かにこれはちょっと重いね。手伝ってくれる?」

 たったそれだけのレイの言葉に集まって来た大勢のシルフ達が、当然のように一斉に木箱を下から持ち上げて支える。

「うん、ありがとうね」

 笑ってそう言うと、後はもう軽々と一人で一番大きな木箱を居間へ運んで行った。

「ええと、もしや今のって……シルフ達の助けを借りたんです、よね?」

 アンフィーの呟くような質問に、呆然と見ていたギードがギクシャクと頷く。

「まあ、確かに運ぶのにはシルフ達の助けを借りたようだが、そもそもあれを一人で持ち上げおったな」

「そうですね。持ち上げる時にはシルフ達は手伝っていませんでしたよ。しかもあの子が手伝ってってお願いしただけで、シルフ達は当然のように荷物を下から支えましたね」

 同じく呆然とレイを見つめていたタキスがそう言い、真顔で首を振る。



 本来であれば、持っている木箱が重いから下から持ち上げるのを手伝って居間まで運んで。もしくは、一緒に持ち上げて居間まで運ぶのを手伝って。くらいに詳しく言わないと、彼女達は何をどう手伝えば良いのか分からないはずなのだ。

 それなのに、たった一言だけでシルフ達がレイの言葉の真意を即座に読み取り手伝えたという事は、彼がシルフ達を完全に自分の制御下に置いているからに他ならない。



 レイの目覚ましいまでの成長ぶりを目の当たりにして、ため息を一つ吐いたタキスがいきなり吹き出して笑い出した。

「おやおや。私達の息子は、ちょっと見ない間にどうやら相当成長したようですよ。あの身長に見合うだけの力と技量、そして精霊を御する能力も相当のようですねえ。いやあ、まだ十六歳ですよ。末恐ろしい子ですねえ」

 泣き笑いのタキスの言葉に、ギードもまだ呆然としつつも言葉も無く頷いていたのだった。

「ねえ、どうかしたの?」

 その時、荷物を置いて来たレイが、三人が居間に来ないのを不思議に思って戻って来た。

「あれ、タキス……どうしたの?」

 振り返ったタキスの目が潤んでいるのに気付いて、心配そうに駆け寄って来る。

「ああ、何でもありませんよ。ちょっと目に埃が入ったみたいです」

 誤魔化すように目を擦るタキスを見て、レイが慌てる。

「ええ、擦っちゃダメだよ。ねえ、ウィンディーネ! お願い!」

 すると、タキスの右肩に大きなウィンディーネが現れた。


『大丈夫だよ』

『特に問題なし』


 笑ったウィンディーネは、それだけ言うとタキスのこめかみの辺りにキスを贈ってすぐに消えてしまった。

「えっと、大丈夫みたいだね。良かった。ほら行こうよ」

 消えていくウィンディーネを見送り笑顔になったレイが、二人が押していた台車を代わりに押して居間へ向かう。

「え、ええ……ありがとう、ございます……」

 ギードと顔を見合わせたタキスはもう一度吹き出し、唯一精霊が見えない為に今の様子がよく分からなかったアンフィーの背中を叩いた。

「後で詳しく説明しますね。まずは食事にしましょう。私もお腹が空きましたよ」

「そうですね。では行きましょうか」

 苦笑いしたアンフィーも笑ってそう言い、台車を押したレイの後を慌てて追いかけて行ったのだった。




『主様は相変わらずだねえ』

『相変わらずだねえ』

『まあそこが可愛いんだけどね』


 廊下に吊り下げられたランタンの金具に座ったニコスのシルフ達が、揃ってそう言いながら笑い合っている。

『あそこまで自分の能力に無自覚というのもどうかと思うが、まあ良いではないか。そんな彼を守る事こそ我らの役目ぞ』

 ブルーのシルフの言葉に笑いを収めたニコスのシルフ達は、それぞれ真顔で一斉に頷いたのだった。

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