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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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故郷へ出発!

「うわあ、荷物がたくさんだね。手伝ってくれてありがとう」

 準備の出来たブルーを見上げて笑ったレイは、整列している第二部隊の兵士達に笑顔でお礼を言った。

 それから、ラスティから渡された遠征用の荷物が入った鞄に、お土産の入った巾着を突っ込んだ。

「レイルズ様、青いリボンのかかった木箱にお着替えが入っています。それからカナエ草のお茶とお薬も多めに入っていますので、忘れずにお飲みください」

「了解です。準備をありがとうね。じゃあ、行ってきます!」

 笑顔で直立して敬礼すると、控えていた第二部隊の兵士達も揃って敬礼してくれた。

 ブルーの背中を見上げて小さく笑ったレイは、胸元に掛かっているベルトを腕を伸ばして軽く掴むとその場で思い切り飛び上がった。その際に腕を引いて体を上に持ち上げるようにする。

 当然、シルフ達に補助をお願いしているので大きく飛び上がったレイの体は、あっという間に高いブルーの背中まで一度で飛び上がり、そのままひらりと鞍にまたがった。

 突然の事に驚きに目を見開いてこっちを見上げているラスティと第二部隊の兵士達を見下ろして、レイは満面の笑みになった。

「よし、成功!」

 鞍上から手を振るレイに、ラスティは小さく吹き出した。

「これはお見事です。うん、格好よかったですよ」

 恐らく、レイが言って欲しいであろう言葉を口にすると、鞍上のレイは大喜びで拍手をしていた。

「じゃあ行こう。ブルー」

 そっと手を伸ばして首元を撫でてやる。

「ああ、では行くとしようか」

 嬉しそうに喉を鳴らしたブルーが大きく翼を広げて軽く羽ばたく。それだけでブルーの巨体はまるで綿のようにふわりと浮き上がってゆっくりと上昇した。

『気をつけてな!』

 その時、手元に伝言のシルフ達が集まって現れて笑いながら手を振っているのに気付いて、レイも笑顔になる。

「はあい、行ってきます。来てくれるのを待ってるからね!」

 伝言のシルフ達に笑顔でそう話しかけると彼女達も笑って手を振り、次々にくるりと回っていなくなっていった。

 そのまま一気に上昇したブルーは、ゆっくりと西を目指して飛び去って行った。



「うう、寒いよう」

 出発してしばらくすると、レイは小さくそう呟いてマントの前を合わせて掴んだ。

 一応寒くないようにしっかりと着てきたつもりだったが、上空は思っていた以上に気温が低い。

「晴れているのに、こんなに気温が低いってずるい!」

 小さく笑ってよく晴れた空を見上げる。

 その時、火の守り役の火蜥蜴がするりと出てきてレイの胸元に潜り込んだ。

 ほんのりと胸元が温かくなる。

「ああ、ありがとうね。おかげで寒くなくなったよ」

 笑ってそっと胸元を服の上から撫でてやる。

『ピイ』

 甘えたようなごく小さな鳴き声が聞こえて、レイが目を見開く。

「また君の声が聞こえたね。良い声だよ」

 胸元に向かって優しい声でそう話しかけて、それから一つ深呼吸をして顔を上げると周囲を見回す。

「えっと、あれがオルダムからブレンウッドへ続く街道かな? 上空からでも線になっているのが見えるね」

「ああ、そうだよ。今は街道の南側の森の上空を飛んでいるからな。昼前には蒼の森に到着出来るから、のんびりと待っていなさい」

「楽しみだなあ。皆、元気かなあ」

 まだ見えもしないのに、伸び上がるようにしてはるか先の西の空を見るレイだった。




「今頃、オルダムを出発している頃でしょうかね」

 暖炉に薪を継ぎ足しながら、タキスが嬉しそうにそう呟く。

「そうだな。そろそろ出発している頃じゃあないか? 何時ごろに到着するんだろうな? 昼は食べるかな?」

 夕食の仕込み用のじゃがいもを手にしたニコスの言葉に、ギードとアンフィーも笑顔で顔を上げる。

「きっと逞しくなっておるのだろうなあ。背がどれくらい伸びているか、楽しみだわい」

 笑ったギードの呟きに、ニコスがじゃがいもの皮剥きをしていた手を止める。

「聞くところによると、ヴィゴ様より大きくなったらしいぞ」

 いつもレイのシャツの型紙を送ってくれているガルクールから、レイがいかに大きくなったかの報告は聞いているし、タキス達にも話している。

 しかし、ちょっと信じ難いので実際の目で見ないと納得出来ないのだろう。数日前から、彼らは飽きもせずにレイの身長がどれくらい大きくなったかや、どれくらい逞しくなったのだろうと言っては笑い合っていた。

「しかし、ヴィゴ様よりも大きくとは……聞いてもちょっとにわかには信じられませんねえ。私の知るレイルズ様は、まあそれなりの大きなお身体でしたが、そこまでではありませんでしたよ?」

 ニコスを手伝ってじゃがいもの皮むきをしていたアンフィーが、苦笑いしながら小さく首を振る。

「我らが知っておる一番最初のレイは、それこそニコスの背丈よりも遥かに小さかったのだぞ。ここへ来た時に着ておったあの服を見れば、どれだけ小さかったかがよく分かるだろうさ」

 笑ったギードの言葉に、全員揃って小さく吹き出す。

 実は昨夜、タキスが自室の引き出しから持ってきた、レイがここへ初めて来た時に着ていた服を見て、もうそれはそれは皆で大笑いしたのだ。しかも丁度仕上がったところだった新しいシャツをニコスが持ってきて重ねて置き、その大きさの余りの違いに、もう四人揃ってしゃがみ込んで息が切れるくらいに大笑いになっていたのだった。



「なんであれ元気でいてくれるなら、もうそれだけで充分じゃよ」

 降誕祭のツリーの為の木彫りの星を作っていたギードの呟きに、それを聞いた三人は笑顔で何度も頷き合っていた。

 そんな彼らの周りでは、呼びもしないのに集まってきたシルフ達が、木箱の中に綺麗に並べられた木彫りの星を叩いたり引っ張ったりして、大はしゃぎしながら遊んでいたのだった。

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