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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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贈り物の相談

「おお。これこれ。これを見ると、毎年の事だけど降誕祭が近くなったんだなあって思うよ」

 通された部屋を見るなりそう言って笑ったルークの言葉に、レイはもう言葉も出ないくらいに驚いていた。

 昼食を終えて、ルーク達と一緒にやって来たのは、普段はあまり使わない一番広い会議室だ。

 そこには、レイの友人であるクッキーのいるポリティス商会を始め、宝石の専門商会であるドルフィン商会や、天体関係に強いハンドル商会のシャムが、それぞれに並べられた幾つもの広い机の上一杯に、様々な品物を所狭しと並べて待ち構えていたのだった。



「クッキー! 忙しいのに来てくれてありがとう」

 一番近くにいたクッキーに、レイが目を輝かせて駆け寄る。

「レイルズ様、本日はお呼び頂きありがとうございます。降誕祭の為の贈り物選びとの事でしたので、色々とご用意して参りましたので、どうぞご覧ください」

 笑顔だが他人行儀な挨拶に、ちょっとレイの眉が寄る。

「だから、デカい図体して毎回拗ねるなって。他の商会だって来ているんだから、そこは聞き分けてくれよ」

 顔を寄せてごく小さな声で呆れたようにそう言われて、小さくため息を吐いたレイは口を尖らせつつ頷いた。

 確かに、他の商会の人達も大勢来ているここで、ポリティス商会のクッキーがレイに対して敬語を使わないのは問題があるだろう。

「うう、それは分かるけど、でもやっぱり嫌だなあ」

 悔しそうに小さな声で呟いたレイを見て、クッキーが苦笑いしながら慰めるようにレイの背中をポンポンと叩いた。



「それで、どなたへの贈り物をお考えですか?」

 改めてクッキーにそう尋ねられて、レイは無言で右手で指を折りながら数え始める。

「えっと、まずジャスミンとティミーの分と、ディーディーとニーカの分。マークとキムにも何か贈りたいな。それから、アルジェント卿のお孫さんの、マシューとフィリスとソフィーとリーン、それからパスカル。えっと、エルは赤ちゃんだけど、贈っても構わない……よね?」

 さすがに赤ん坊の時に、自分が降誕祭の贈り物を貰ったかどうかは覚えていない。

「もちろん構いませんよ。小さなお子様の為の品物もご用意してありますのでご安心を」

 笑顔のクッキーの言葉に、レイも笑顔で頷く。

「えっと、それからゲルハルト公爵閣下のところのライナーとハーネイン……かな?」

 直接レイと交流がある未成年の子はそれくらいだ。

 降誕祭の贈り物は、基本的に普段から何らかの交流がある成人から子供への贈り物とされているので、レイの場合はこの程度で済む。

「まだその程度なのですね。それならば、大丈夫ですね」

 苦笑いするクッキーの言葉の意味が分からなくて首を傾げる。

「えっと、何が大丈夫なの?」

 不思議そうなレイの質問に、クッキーが苦笑いしながら部屋の中を振り返る。ドルフィン商会のところにはロベリオとマイリーが、それぞれの担当者と一緒に早速選び始めているし、ルークもハンドル商会のシャムと顔を突き合わせて並べられた品物を前にして、手帳を手に真剣に相談を始めている。

「それなりの年齢になってくると、ご友人方やお知り合いにお子様が生まれてきますからね。そうなると、当然それらのお子様方に贈り物をする事になりますから、相当の数になってくるんですよ。レイルズ様の年齢ならば、ご友人はまだ成人して間も無い年齢の方や、未婚の方がほとんどでしょう?」

 笑ったクッキーの言葉に頷く。確かに、精霊魔法訓練所での知り合いや友人には、結婚していたり子供がいると言う話は聞いた事がない。

「なので、送り先に漏れが無いようにしっかりとチェックしなければなりませんから、こちらとしても大変なんですよ」

 苦笑いするクッキーの言葉にレイも納得する。

 そりゃあ子供にすれば、父上や母上の友人である竜騎士様から降誕祭の贈り物が無ければ、もしや自分は嫌われたのかと思って涙に暮れる事になるだろう。

「そっか、確かに漏れがないようにしないといけないね。気をつけます」

 うんうんと頷いたレイは、小さなため息を吐いてクッキーを見た。

「それで、誰に何を贈ったらいいのかなんて全然思いつかないんだけど、どうしたらいいですか?」

 またして眉を寄せるレイの言葉に、クッキーが吹き出しかけて誤魔化すように咳き込む。

「失礼しました。もちろんいくらでも相談に乗りますよ。そうですねえ。では順番に考えましょう」

 そう言って、自分の担当する広い机の上に並んだ品物を見る。

「例えば、十代のお嬢様に贈るのなら、身につける宝石や髪飾りなどの装飾品はおすすめですね。仮にどなたかと贈り物が被ったとしても、これらは数がある方が良いものですから、なんであれ喜ばれる贈り物の代表ですね。今ならドルフィン商会が来ていますから、宝石の付いた装飾品は選び放題ですよ」

 笑顔でドルフィン商会の方を見ながら、最後は小さな声で教えてくれる。

「逆に、坊っちゃま方の場合はご家庭やご本人の性格によって贈り物は大きく変わりますね」

「どういう事?」

「例えば、活発で軍人の家系の坊っちゃまの場合は、ナイフや簡単な武具などが喜ばれますね。ですが逆に文官の家系の方でおとなしい内向的な方あれば、本や装飾品、事務用品などの方が喜ばれる事が多いですね」

「ああ、確かにそうだね。えっと、アルジェント卿のところの子達は皆活発だよ」

「ああ、確かにアルジェント卿のお孫さん方はとてもお元気ですからねえ。それならばナイフや短剣、金剛棒や訓練用の革製の防具なども喜ばれるでしょうね」

「あれ、クッキーはマシュー達を知っているの?」

 驚くレイに、クッキーはにっこりと笑って頷く。

「はい、アルジェント卿にもご贔屓にしていただいておりますから。坊っちゃま方やお嬢様方の馬具や革製品のほとんどは、当商会がお世話させていただいております」

「ああ、そうなんだね。へえ、凄い」

 無邪気に感心するレイを見て、クッキーは苦笑いしている。

「マークやキムには、去年は万年筆を贈りましたからねえ。それなら今年は文箱や革製の手帳カバーなども良いかと思いますね。あとは、正装の際に使う襟飾りやカフリンクスなどの装飾品もオススメです」

「えっと、襟飾りとカフリンクスは以前一度贈った事があるよ」

「ああ、そうなのですね。それなら二年続けて贈る必要はありませんね」

 不思議そうにしているレイに、クッキーが襟元を指差す。

「まあ、正装の装飾品は個人装備ですから、彼らのように市井の出身の場合、簡単な金属製の物を使うのが一般的です。石の付いた装飾品は、自分で買うにはかなり高い物ですからね。ですが逆に言えば、良い物が一つあれば、そうそう何度も使う物ではありませんから贈り物の優先順位としては少し下がりますね。もしもまた贈られるのならば、何年かしてからですね。その頃ならば昇進祝いやあるいは結婚祝いなんて事もあるでしょう。それなりの価格のする物ですから、いざという時の贈り物として置いておくべきですね」

「分かりました。じゃあそうします」

 笑ったレイの言葉にクッキーも笑顔で頷く。

「では、お分かりいただけたようですので、いくつかおすすめを見ていきましょうか」

 恭しくそう言ったクッキーは、軽く一礼してから最初の木箱の蓋を開けた。

 二人の周りでは、先程から呼びもしないのに勝手に集まってきたシルフ達が、もううるさいくらいに大はしゃぎしながら、机の上に置かれた木箱や包みの周りを飛び回ったり紐を引っ張ったりして遊んでいたのだった。

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