いつもの朝の光景
「それじゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
疲れていた事もあって眠くなって来たので、同じく眠そうにしていたティミーと一緒に一足先に休ませてもらう事にしたレイは、まだ飲んでいるマイリーとルークに挨拶をしてから部屋に戻った。
廊下でティミーと別れて部屋に戻ると、剣帯を外して上着を脱いだレイは、大きなため息を吐いてソファーに倒れ込んだ。
「はあ、長い一日だったね。男の子達の時みたいなラプトルで走り回っての大騒ぎって訳じゃあなかったけど、何だかものすごく疲れました」
ブルーの色のクッションを抱えたレイの言葉に、上着をハンガーに掛けたラスティも苦笑いしている。
「確かに盛り沢山な一日でしたからねえ。お疲れなのは当然かと。湯の用意は出来ておりますから、まずは汗と埃を流して来てください」
「はあい、そうします」
腹筋だけで軽々と起き上がったレイは、着替えを受け取り湯殿へ向かった。
それを見送ってから上着にブラシをかけていたラスティは、袖口のところに小さく丸めて押し込まれて引っかかっていた枯れ葉を見つけ、小さく吹き出してから誰もいない部屋を見回した。
「これはシルフの皆様の悪戯ですね。ううん、枯れ葉には気を付けていたのですが、見事にしてやられましたねえ」
指で丸まった枯れ葉を摘み出して屑入れに落とし、もう一度吹き出す。
悪戯が成功したシルフ達は、ラスティには見えないがそれでも彼にキスを送って大喜びしていたのだった。
翌朝、いつもの様にシルフ達に起こされたレイは大きな欠伸をしながら被っていた羽布団と毛布ごと起き上がった。
「ふああ。おはようブルー、うう、まだちょっと眠いよ……」
もう一度欠伸をしてから、パタンと枕に倒れ込む。
『おやおや、ずいぶんとお疲れの様だな』
普段ならすぐに起き出すのに、今朝はまた眠ってしまったみたいだ。
『まあお疲れの様だし、従卒の彼が起こしにくるにはまだ少しある様だ。眠らせてやるとするか』
笑ってそう言うと、横になった拍子にずり落ちたふわふわの羽布団と毛布を引き上げて肩まで掛けてやる。
それを見たシルフ達も毛布や羽布団を引っ張って真っ直ぐに戻してついでにまたレイの髪の毛で遊び始めた。
『あっちとこっちを』
『ぎゅってするの〜〜!』
『ちょっとだけちょっとだけ』
『ちょっとだけだもん』
『ね〜〜〜!』
『ね〜〜〜〜〜!』
ご機嫌でそう言っては大はしゃぎするシルフ達を見て、ブルーのシルフは楽しそうに笑ってレイの胸元に潜り込んで眠る振りを始めた。
それを見て、何人かのシルフ達が同じ様に髪の毛の間に潜り込んだり腕の隙間に潜り込んだりして眠る振りを始めた。
『朝だけどおやすみなの〜〜』
『ちょっとだけなの〜〜〜』
『眠いの眠いの』
楽しそうにそう言って眠る振りをする子達と髪の毛で遊ぶ子達と楽しそうな笑い声が、レイの寝息が聞こえる静かな部屋に響いていたのだった。
「おはようございます。朝練に行かれるのならそろそろ起きてください」
それからしばらくして、軽いノックの音の後に白服を手にしたラスティが入って来た。
「おや珍しい、まだお休みですか?」
こんもりと盛り上がった羽根布団の隙間からわずかに真っ赤な髪の毛がはみ出して見える。
「レイルズ様、今朝の朝練はお休みですか?」
「うん……行きます……」
もぞもぞと塊が動いてゆっくりと起き上がる。
「うう、一気に寒くなってきたね」
まだ羽根布団に潜り込んだまま、小さく笑ったレイがもう一度欠伸をする。
「お疲れなら、今朝の朝練はお休みなさいますか?」
確かに今朝はかなり冷え込んでいるし、もう少し休みたい気もする。
しかし、何か言いたげなラスティを見てレイは首を傾げた。
「えっと……どうしようかなあ」
「今朝は、マイリー様とルーク様が朝練に参加なさると聞いていましたが、それならレイルズ様はお休みだと……」
「もちろん参加します!」
慌てた様にそう叫んで、ベッドから飛び降りる。
「顔洗ってきます!」
直立してそう言うと、駆け足で洗面所へ駆け込んで行った。
「おやおや、今朝はまたなかなかに豪快な寝癖ですね。レイルズ様、お手伝いいたしましょう」
「お願いラスティ! もう、何この頭! そろそろ日常に戻ったって言っていたのに!」
洗面所からはにぎやかな水音と共に、笑ったレイの声が聞こえる。恐らくシルフ達に文句を言っているのだろう。
目の荒いブラシを手にしたラスティは、笑いを堪えてレイの後頭部の辺りに出来た髪の毛の塊を解し始めた。
しかし、これもいつもの様にあっという間に塊が解れて綺麗に戻り、簡単に戻す事が出来た。
「ありがとうね」
笑ったレイが空中に向かって話しかけるのを見て、髪の毛にオイルを擦り込んでいたラスティも笑顔でその方角に向かって一礼した。
「シルフの皆様、いつもお手伝いいただき感謝いたします」
「だけど、その寝癖はシルフ達の仕業なんだけどね!」
笑ったレイの言葉に、ラスティは堪えきれずに咄嗟に横を向いて吹き出したのだった。




