今日の報告と人形の事
「へえ、釣りに始まり昼食にはその自分達で釣った魚を捌いて食べて、昼寝の後はどんぐりの独楽で遊んで、午後のお茶会の後に女の子達は人形で遊んで、その後にラプティポーム? なかなかに盛り沢山な一日だったんだな」
嬉々として今日の遠乗りでの出来事を報告するレイの話を聞いて、ルークが指を折って数えながら感心したようにそう言って笑う。その隣では、マイリーとティミーも感心したように笑っている。
「それで、一の郭まで戻って来てソフィーとリーンを送った後、ヴィゴのお屋敷で夕食をいただいたんです。久し振りにチェルシーに会えて嬉しかったです」
そう言って罪作りを乗せたチーズを口に入れたレイの言葉に、ルーク達も笑顔になる。
「赤ちゃんの産まれる予定は、確か年が明けてからって言っていたよな。となると、もうかなりお腹も大きいだろうから色々と不自由だと思うんだけど、出かけても大丈夫なんだ」
友人達にそろそろ子供が産まれている年齢の者達が多いので、色々とそういった事に詳しいルークがちょっと心配そうにレイを見る。
「うん、容体は安定しているから少しくらいなら出かけても良いって、先生に確認してるって言ってました。えっと、確かにお腹は大きくなっていたけど、締め付けないようなふんわりしたドレスを着ていたよ」
「そりゃあそうさ。妊婦さんがお腹を締め付けるようなドレスは着ないって」
笑ったルークの言葉に、ティミーも笑顔で頷く。
「いいなあ、僕もチェルシー様にお会いしたかったです」
ティミーの言葉に、マイリーとルークが顔を見合わす。
「一応カウリからは、子供が産まれたら銀鱗の館のお披露目会を兼ねて俺達を屋敷に招待してくれると聞いているよ。まあ、チェルシーや産まれた赤ちゃんの様子によっては時期が少し変わるかもしれないが、そういう事だから楽しみにしていなさい」
苦笑いしたマイリーの言葉に、ティミーが嬉しそうに大きく頷く。
「そうなんですね。分かりました。ではその時を楽しみにしています」
「赤ちゃん、可愛いだろうね」
アルジェント卿のところで見たあの小さな赤ちゃんを思い出してレイも笑顔になり、ティミーと顔を見合わせて何度も頷き合った。
グラスに残ったワインを飲み干したところで、レイは不意に思い出してマイリーを見た。
「そうそう! えっと、マイリーにちょっと質問です!」
右手を上げるレイに、こちらはワインではなく新しいブランデーの瓶の封を切っていたマイリーが驚いたように顔を上げる。
「ああ、どうした?」
「さっき話した、彼女達が遊んでいた人形なんですけど、それってバルテン男爵が作った人形で、王都で大人気なんだって言ってました。マイリーのところにも人形の見本が届いているって聞いたんですけど、もう誰かにあげちゃいましたか?」
予想外の質問だったらしく、マイリーの手が止まる。
「バルテン男爵のところから来た……人形?」
困ったようにそう呟き無言で天井を見上げて考えていると、ルークが納得したように頷いた。
「ああ、ほら、少し前に他の荷物と一緒に届いていた謎の人形ですね。後でバルテン男爵にこれは一体何をする物なのか確認しようって言って、そのまますっかり忘れていましたね。へえ、あれがそんなに人気なんだ」
「ああ、小箱に入っていたあれか。確かにすっかり忘れていたな。へえ、あれがねえ」
二人揃って感心したようにうんうんと頷く。
「えっと、よかったら後でちょっと見せてもらえますか。僕、彼女達に革の鞄や革鎧くらいなら作れるんじゃないかなって言っちゃったんです。そうしたら彼女達が全員揃ってもの凄く食いついてきて、一応何か作ってみる約束をしたんです。なので大きさの確認をしたいので貸してもらえますか。カウリは、ルークが支援している技術訓練校にいる職人見習いの器用な人なら、何か簡単に作れるんじゃあないかって、上手くすればこれは一大産業になるって言ってました」
レイの言葉に、マイリーとルークが揃って驚く。
「へえ、カウリがそこまで言うって事は相当だな。シルフ、ちょっとカウリを呼んでくれるか?」
ルークの言葉に、空になったワイングラスの横にシルフ達が並ぶ。
『おうどうした?』
先頭のシルフが口を開く。
「ルークだよ。マイリーとレイルズ、それからティミーもいるよ。ちょっとレイルズから面白そうな話を聞いたんでね」
笑ったルークがそう言うと、先頭のシルフは大きく頷いた。
『おうあの件だな』
『冗談抜きで女の子達の食いつきっぷりがそりゃあ凄かったんだよ』
『降誕祭までに何か作れたらあれは間違いなく売れるぞ』
笑ったカウリの言葉に、ルークが真顔になる。
「へえ、カウリがそこまで言うって事は、本当にそうなんだ」
半ば呆れたようにそう言って頷いたルークは、ニンマリと笑った。
「良い情報を感謝するよ。早速訓練校の子達に何か考えてもらおう。レイルズも何か作るって言っているから、彼にも協力してもらうとしよう。いざとなったら、彼女達を訓練校の子達と合わせて欲しい物を直接聞いてもらった方が早いかもな」
ルークが話をしている間に、マイリーの指示を受けた執事が一旦下がり、木製の小箱を持って戻って来た。
「確か一緒に届いた手紙に、これは試作だって書いてあった覚えがある。実際の販売品と大きさや形に違いがあってはいけないから、明日にでもバルテン男爵に確認してみよう。その上で、これに合わせて何か作って貰えばいいんだな」
小箱の蓋を開けたマイリーの言葉に、ティミーが興味津々で箱を覗き込む。
「うわあ、精密に出来ているんですね。これは確かに女の子達が喜びそうですね。男性の方は、それこそ防具を一通り作って装備させて武器も持たせれば、男の子でも遊べそうですよ」
「確かに、それなら僕も欲しい。飾っておくだけでも格好良いよね」
目を輝かせたティミーの言葉に、確かにそう思っていたレイも一緒になって何度も頷いたのだった。
そんな二人を見て驚くルークとマイリーだったが、いきなり真顔になって相談を始めたのだった。




