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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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街の城壁とヴィゴからの招待

「ああ、大変だ。すっかり暗くなっちゃったよ」

 坂道の上から見事な夕焼けと御使いの梯子をずっと眺めていたせいで、気がついた時には日がとっぷりと暮れて辺りには夜の闇が一気に降りてきていた。

「えっと、ウィスプ達、灯りをお願いします」

 レイが胸元のペンダントに向かって小さくそう呟くと、三人の光の精霊達が飛び出して来た。

 そしてそのうちの一人はレイの目の前で明るい光を放ち、もう一人は先頭にいるヴィゴの少し前へ飛んで行ってそこで同じく光を放つ。そして最後の一人はふわふわと後ろの方へ飛んでいき、執事達の頭上で同じく明るい光を放った。

 そして、それを見て呼びもしないのに集まって来た何人もの光の精霊達が、まるで三人の光の精霊達の真似をするようにぼんやりとした光を放って一行の周囲を好きに飛び回り始めた。

 ジャスミン以外の少女達は、突然始まった光の乱舞に揃って口を開けて呆然と頭上を見上げている。

「ウィスプ、出て来てくれるかしら?」

 そんな彼女達を見て笑ったジャスミンも、指輪に向かって話しかけた。すると、レイの光の精霊達よりもかなり小さな子が指輪から出て来て、少し恥ずかしそうにジャスミンの頭上で小さな光を放って飛び回り始めた。

 それを見て今度は歓声を上げる少女達。

「おお、光の精霊か。これは素晴らしい、ありがとうレイルズ、それにジャスミンも。では、行くとしようか」

 同じく頭上を見上げたヴィゴが嬉しそうに笑ってそう言い、光の精霊達に守られた一行はゆっくりと坂道を下り始めた。



「この辺りまで来たら、戻って来たって気がするなあ」

 街を迂回する形になっている道を進んで大きな城壁を越えて一の郭に入ったところで、鞍上で器用に伸びをしたカウリが笑いながらそう言って、光の精霊達が照らしてくれた巨大な城壁を見上げている。

「ああ、あそこって夏の工事で穴を開けたところだぞ」

 カウリの言葉に、レイがいきなり振り返る。

「ええ、どこどこ?」

「おお、すげえ食いつきだなあ。ああそうか。確か城壁の何処に穴を空けるのかって選定を、竜に乗ってルークと一緒にしたって言ってたなあ」

 笑ったカウリが納得したようにそう言って、少し先の城壁を指差しながら教えてくれる。

「ほら、あそこの城壁の上側のちょっと凹んだところ。羽根を折り畳んだ風車が見えるだろう」

 鞍上で伸び上がるようにして見上げた先には、確かに城壁に窪みらしきものがありそこから風車の羽根が見える。しかしすっかり暗くなっている為にほとんど何も見えない。

「ううん、確かに風車の羽根っぽいのは見えるけど、暗くて全然見えないね」

 苦笑いしたレイがそう呟くと、レイの頭上にいた光の精霊が一瞬で消えて次の瞬間その城壁のすぐ横に現れ、一気に光を強くして城壁を照らしてくれた。

 ここが街側の城壁の横だったなら、突然の光に何事かと人々が集まって来て大騒ぎになったかも知れないが、もうここは貴族達の住まいである一の郭側に入っている。その為、ごく近く屋敷の執事達や護衛の者達が数名、突然の光に気付いて何事かと出て来たくらいで、殆ど問題にならなかった。

 ただし城壁の守備に付いていた兵士達は、こちらも突然の城壁を照らす謎の光に驚き慌てて駆け出して来たが、先ほど城壁を通った一行が誰だったのかに気が付いて、顔を見合わせて苦笑いして、すぐに担当部署へ戻って行ったのだった。



「今日は本当にありがとうございました。とっても楽しかったです」

 一の郭の道を進み、アルジェント卿の屋敷に到着したところで、ソフィーとリーンがお付きの者達と共に一行から別れる。

 出迎えに来てくれた執事に彼女達を託し、そのまま揃ってヴィゴの屋敷へ向かった。

「俺の屋敷で夕食の用意をしている。せっかくだからレイルズも一緒に食べていきなさい。チェルシーも呼んでいるから久し振りに会えるぞ」

 ヴィゴの言葉に驚いてカウリを振り返ると、苦笑いしつつ頷く。タドラも笑って頷いているので、彼らも一緒に招待されているのだろう。

「まあ、そんな堅苦しい場じゃなくて気軽な夕食会らしいから、チェルシーもそれならって事で来てくれるんだってさ。ヴィゴのご家族には本当に世話になっているんだ。おかげで安心して留守に出来る」

 カウリの言葉にディアとアミーも笑顔で頷く。

「えっと、僕はチェルシーに会えるのは嬉しいけど……確か、赤ちゃんが産まれるのは年が明けてからだって言っていたよね。動いても大丈夫なの?」

 カウリの屋敷とヴィゴの屋敷は、通りが一つ違うだけなので、実は距離的にはかなり近い。もちろん、貴族の人達はそんな事はしないが、レイの感覚だと歩いてでも行けるくらいの距離しかない。

「おう、元気にしているよ。まあ、始めの頃は悪阻が酷くて色々と大変だったみたいだけど、最近はかなり落ち着いているし食欲も戻ったみたいだからな。少しくらいなら出掛けても大丈夫だと、先生から聞いているよ」

「へえ、そうなんですね。僕、その辺の事は全く知らないです」

 何しろ赤ちゃんを見たのもアルジェント卿のお孫さんのエルが初めてと言うくらいで、今までのレイの周りには、赤ちゃんも妊婦さんも全く存在していなかったのだから仕方あるまい。

「まあ、話を聞く限りお腹の赤ちゃんの様子も安定しているようだし、彼女も少しくらいは気晴らしが必要だよ」

 笑ったヴィゴの言葉に、レイも笑顔で頷くのだった。

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