さあ帰ろう
「ごちそうさまでした。ちょっと甘いのが欲しかったから大満足です」
飲み終えたカップを片付けてくれている執事に笑顔でそう言い、レイは一つ深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がった。
手早く後片付けをしてくれる執事達の手際の良さを感心して眺めていると、あっという間に出していた机も椅子も、それから皆で楽しく遊んだ組み立て式のゴールの木枠や網も、綺麗さっぱり片付けられてしまった。
「うわあ、すごい。あんなにたくさん持って来ていた色んな道具が、あっという間に片付けられちゃったよ。ラプティポームのスティックも球もゴールも、それから釣りの道具も持って来ていたよね」
感心するようなレイの呟きに、同じ事を思っていたカウリとタドラも苦笑いしている。
「来るまでは心配していたけど、結局女の子達も元気にラプトルを乗りこなしていたから、あの馬車に乗って帰る子はいないのか。大したもんだな」
馬車の上部に荷物を積み込んでいるのを見ながら。カウリが感心したようにそう言って頷いている。
「確かにそうだね。僕もびっくりしたよ。ちなみに今あの年頃の女の子達の間では、さっきの人形遊びと、このラプティポームが流行っているみたいだよ」
「へえ、男の子じゃあなくて、女の子に?」
笑ったタドラの説明に、驚いたカウリがそう尋ねる。
「いやいや、ラプティポームは男女関係無しに流行っているみたいだね。だから男の子達はもっとすごいよ。きっとマシュー達だったら、さっきのヴィゴと二人の対決とまではいかなくても、それに近いくらいの賑やかな戦いになっていると思うよ。そんなだから、逆に男の子と女の子は、ラプティポームでは危ないから一緒には遊べないんだってさ」
「はあ、成る程ねえ。でもまあ、未成年の男の子達にラプティポームをやらせるのは、ラプトルを制御する技術向上には確実になるだろうから、確かに良い考えだろうな」
腕を組んだカウリは、うんうんと頷きながらラプトル達を眺めていた。
「ヴィゴから聞いたけど、あのラプティポームって軍の兵士達の間でもやるって本当?」
タドラが興味津々でカウリに尋ねる。
「おう、何処の部隊でも皆暇つぶしにやってるなあ。特に、一番最初の新兵の頃はラプトルに乗る訓練も兼ねてよくやるよ。入隊前の訓練所では、訓練の一環として教官から一通りやり方を教わるから、やるやらないは別にして確実に全員が知ってるよ。もちろん俺も散々遊んだよ」
「僕は知らなかったなあ。だけど、確かに面白いよね。初めてヴィゴと一対一で対決した時は散々だったけどね」
「うわあ、あのヴィゴと一対一で対決したってか。タドラ君、勇者だねえ」
呆れたようなカウリの言葉に、横で一緒に話を聞いていたレイも驚いて目を見開いている。
「ほら、棒術や剣術とかみたいな直接対決と違って、ラプトルに乗ってしかもスティックで球を打つんだから同じ条件でしょう。それなら体格差もあんまり関係ないかなって思ったんだ」
「いやあ、それは考えが甘い。本気のラプティポームは格闘術に近いから、体格差はそのまま実力差になるぞ」
「うん。ヴィゴに思い切り弾き飛ばされて落馬して、気がついたらノーム達に助けられていたんだ。それでこれはある種の格闘技だなって思い知ったよ」
「あはは、そりゃあ大変だったな。でもまあ、お嬢さん方のあれは可愛いもんだったなあ」
「そうだね。だけど彼女達も教えてもらって楽しかったみたいだよ。ヴィゴから初得点だったらしいからね」
「お役に立てたなら何よりだよ。お、もう出発かな」
のんびりとそんな話をしていたら、もう綺麗に片付けられて少女達が順番にラプトルに乗り始めている。
「それじゃあ俺達も帰るとするか。今日は誘ってくれてありがとうな。冗談抜きで楽しかったよ」
笑ったカウリにそう言って背中を叩かれて、レイも笑顔になる。
「僕もとっても楽しかったです。また行こうね」
「そうだな。まあ機会があればまた誘ってくれよ」
執事が引いて来てくれたそれぞれのラプトルの手綱を受け取り、レイ達も騎乗する。
「さあ、戻るとしようか」
来た時と同じようにアミーを前に乗せたヴィゴの言葉に、また少女達を真ん中にしてゆっくりと進み始めた。
『もう終わりか? なかなかに賑やかな一日だったな』
のんびりと草原を進んでいると右肩に現れたブルーのシルフの言葉に、レイは笑顔で頷きながら草原を見る。
「そうだね。すっごく楽しかったよ。色々勉強にもなったしね」
『帰ったら、アメジストの主に例のドワーフの男爵が作った人形の事を聞いてみると良い。彼のところにもドワーフの男爵から人形の見本が送られているよ』
笑ったブルーのシルフの言葉に、レイは驚いて目を見開く。
「ええ、もしかしてマイリーも人形を持ってるの? まさか、あれで遊ぶの?」
意外な趣味だと割と本気で驚いたら、それを聞いたブルーのシルフだけでなく、二人の会話が聞こえたらしいカウリまでが思い切り吹き出している。
「別に野郎が人形好きでも俺は全然気にしないけど、マイリーがあの人形を持って遊んでいたら、二度見どころか三度見してしまうだろうし、真顔でいられる自信は無いなあ」
「それは僕もびっくりすると思う」
真顔のレイの答えに、二人とブルーのシルフは揃ってもう一度吹き出したのだった。




