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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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来年の予定?

「お疲れ様でした。温かい飲み物をご用意いたしましたので、少しお休みください」

 笑顔の執事の言葉に、レイ達も笑顔で頷きラプトルから降りて用意してくれていた椅子に座った。

 午後のお茶の時に使った折りたたみ式のテーブルには、今は甘い香りを漂わせた温かなホットチョコレートが用意されている。大きなお皿に並べられたお菓子は、塩味のクラッカーと刻んだハーブがたっぷりと入った小さめのビスケットだ。甘いホットチョコレートのおともにはちょうど良い組み合わせなのだろう。

 ヴィゴ達の前には、ホットチョコレートでは無く香りのいい紅茶が用意されている。

「レイルズ様は、ホットチョコレートでよろしいでしょうか? 紅茶がよければ、すぐにご用意いたしますが」

 甘い香りのホットチョコレートの入ったカップを置きながら、年配の執事が小さな声でそう尋ねる。

「うん、ホットチョコレートをいただきます。甘いのが欲しかったから嬉しいです。ありがとうね」

 笑顔でカップを手に取るレイの言葉に、その老執事は笑顔で一礼してそっと下がった。

「美味しい」

 ホットチョコレートを一口飲んだレイの思わずといった呟きに、少女達も笑顔で頷いている。

「秋の日暮れは早いからな。これを頂いたらそろそろ引き上げるとしよう。なかなかに楽しい一日だったな」

 紅茶を一口飲んだヴィゴの言葉にカウリとタドラも笑顔で頷く。

「確かに思っていた以上に楽しかったな。久し振りにどんぐりの独楽なんかで遊んだりも出来たし」

「そうだね、確かに楽しかった。そういえば竜舎の裏側に樫の木が何本かあるから、あそこならどんぐりが拾えると思うよ」

「ああ、確かにあるなあ。よし、帰ったらロベリオ達にも教えてやろう」

 タドラとカウリの言葉に、レイは目を輝かせる。

「その時は僕も誘ってください!」

「もちろん。こういうのってティミーはどうだろうなあ。多分まだ知らないと思うから、作り方を教えてやったら喜ぶんじゃあないか?」

「ああ、そうだね、それならティミーの分は僕が教えながら作ってあげます」

 笑顔で胸を張るレイの言葉にカウリ達も笑って紅茶を口にした。



「ねえ、レイルズ様。このどんぐりの独楽って、頂いて帰っても構いませんか?」

 ホットチョコレートが半分ほどになった頃、遠慮がちなアミーがそっとレイに声を掛けてきた。手には先ほど対決する時に使った平たいお椀があり、そこには使っていたどんぐりの独楽が全部まとめて山盛りに入れられている。

「アミーはこれが気に入ったみたいなんです。短い芯の独楽も回せるようになるんだって言って張り切っているので、いただいて帰っても構いませんか?」

「ああ、それなら私も欲しいわ」

「私も!」

「それなら私も欲しいです!」

 ディアの笑った言葉に、ソフィーとリーンだけでなく、ジャスミンまでが目を輝かせている。

「えっと……」

 無邪気な少女達を見て、答える前に思わず執事達を振り返って見てしまう。

 何やら言いたげにしつつも頷いてくれた老執事を見て、レイは改めて少女達を見る。

「えっと、持って帰るのは全然構わないんだけど……それなら、ちょっとそのどんぐりの独楽を貸してくれるかな」

「はい、どうぞ」

 不思議そうにしつつも渡してくれたアミーから、どんぐりの独楽が入ったお椀を受け取る。

「えっと、凍れ」

 手をかざしてそう呟く。複雑な術式を必要としない、対象のものを凍らせるだけの簡単な精霊魔法だ。

 一瞬で真っ白に凍ったどんぐりの独楽を見て、少女達は首を傾げている。

「ああ、成る程なあ。それなら確かに、中に虫がいても死んじまうから安全だな」

 それを見ていたカウリの遠慮のない言葉に、少女達が驚いて揃って振り返る。その目はまん丸に見開かれてる。

「いや、だって落ちたどんぐりを拾ってそのまま持って帰ったら、下手すりゃ夜中に中から芋虫が這い出してきたりするぞ」

 笑ったカウリの言葉に、その状況を実体験で知っているヴィゴとキルート達が吹き出し、虫を怖がる少女達の悲鳴が重なる。

「大丈夫だよ。これでもう、もしも中に虫がいても全部死んだからね」

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

 涙目になったディアの言葉に、レイは笑いを堪えつつ頷く。

「大丈夫だよ。まあ作る時に一応穴の無いのを選んでいるけど、ちょとしたひび割れや、もっと小さな時に入られていたら分からない事もあるからね。だからこれは、万一を考えての用心の為って事。このまま放っておけば氷はすぐに溶けるから、そうしたら水気を拭って乾かして貰えば大丈夫だよ」

 レイの言葉に、先程何か言いたげにしていた老執事が深々と一礼した。

「レイルズ様のお気遣いに感謝いたします。あのままお持ち帰りになるようなら、夜の間に煮沸消毒の処置を行うところでございました」

「ああ、確かにそれも効果的ですね。でももうこれで大丈夫だと思うので、あとはよろしくお願いします」

 笑ったレイから凍ったどんぐりの独楽が入ったお椀を受け取ったその老執事は、改めて一礼してから下がっていった。

「じゃあ、頑張って回す練習をしてね。来年の秋に、もう一度遠乗りに来られるかなあ」

「レイルズ様。秋の紅葉の時期も綺麗ですが、次に来るなら春の新緑の時期が良いですよ」

 笑顔のディアの言葉に、レイも周りを見回して笑顔になる。

「じゃあ、女の子達とは次は春の遠乗りの予定で、ティミーやマシュー達を秋にここへ連れて来て、どんぐりの独楽の作り方を教えてあげるべきかな?」

「ああ、いいんじゃあないか? それならその予定で考えておくとしよう。きっと喜ぶぞ」

 レイの思いつきにヴィゴも同意してくれたのを聞き、少女達は歓声を上げて大喜びしていたのだった。

「えっと、また大変だと思うけど、よろしくお願いします」

 苦笑いしたレイは、小さな声で近くにいた執事にそう言っておく。

「もちろん、お出かけの際には万全の準備を致しますので、どうぞ我等にご遠慮なくお楽しみくださいませ」

「ありがとうございます」

 笑顔でお礼を言ったレイは、残っていたホットチョコレートをゆっくりと飲み干したのだった。



『おやおや、これはまたずいぶんと先の予定が決まったものだな。楽しみだな』

「そうだね。楽しみがいっぱいだよ」

 笑ったブルーのシルフにそう言われて、口直しのクラッカーを口に入れたレイは笑顔で頷き、そっとブルーのシルフにキスを贈ったのだった。

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