ヴィゴ対レイとカウリ
「はあ、驚かせてごめんなさい。もう大丈夫です」
「ごめんなさい。私も、もう大丈夫だから心配しないでね」
執事達から温かいお茶をもらって少し落ち着いたソフィーとジャスミンは、少し恥ずかしそうにしながらそう言って、心配そうにこっちを見ているレイやカウリ達に揃って頭を下げた。
「ねえレイルズ。じゃあ、もう私達は見学させてもらうから、あと一点ヴィゴ様から取って見せてくださいな」
お茶の入ったカップを両手で持ったジャスミンが、ちょっと上目遣いに笑顔で隣に座るレイを見る。
「えっと、もちろん喜んでって言いたいところなんだけど、僕はラプティポームは全くの初心者なんだけどなあ……」
そう言いながら、レイも隣に座っているカウリを何か言いたげに見る。
「よし、じゃあ俺が入ってやるよ。二対一ならどうだ?」
「あはは、ありがとうカウリ。それならなんとかなるかな。えっと、ヴィゴ。あとひと勝負お願いします!」
笑って立ち上がったレイを見て、ヴィゴも苦笑いしつつ立ち上がった。
「よし、ではここからは本気で行かせてもらうぞ」
ニンマリと笑ったヴィゴの言葉に、わざとらしく揃って悲鳴をあげたレイとカウリだった。
「じゃあ、また僕が審判役だね。一応言っておくけど、程々にね。怪我は駄目だよ」
「はあい」
「うい〜〜っす」
「ああ」
元気なレイの返事に、気の抜けたカウリの返事と笑ったヴィゴの返事が重なる。
カウリが進み出て、草原の中央辺りでラプトルに乗ったヴィゴと向かい合わせの位置でラプトルを止めた。
レイは、カウリから少し離れた位置で止まる。
「ゼクス、今度は本気でやるみたいだから、頑張って走ってね」
小さな声でそっとゼクスの首元を叩いてそう話しかけると、ゼクスは分かっていると言わんばかりに甘えた声で鳴いて軽く飛び跳ねて見せた。
「じゃあ、始めますよ」
片手で球を持ったタドラが、先ほどと同じように向かい合うヴィゴとカウリの目の前で、手にした球を空に向かって高々と放り投げた。
即座に二人が動き、同時に落ちてきた球に向かってスティックを振る。
「レイルズ、受けろよ!」
カウリの大声と同時に、鈍い音がしてレイのいる方へ球が飛んで来る。
即座にゼクスを走せ、落ちてきて跳ねたところを力一杯打つ。
「よし!」
カウリの乗るラプトルが一気に駆け出し、ヴィゴの乗るラプトルとぶつかり合うようにしながらゴール目指して走る。走る、走る。
「よっしゃ! 真正面!」
レイの打った球が綺麗な放物線を描いて落ちてきたところへカウリが駆け込んで行く。
「そうはさせるか!」
大声で叫んだヴィゴが、カウリの前に落ちる直前にその長い腕を伸ばして、落ちてきた球をスティックの先に引っ掛けるようにして自分の側へ引き戻して大きく弾いた。
「ああ、小細工しやがって!」
一瞬でラプトルを反転させたカウリが、弾き飛ばされた球を追って駆け出す。
「レイルズ! 追え!」
「もちろん!」
レイも、球が飛んできたのを見て即座にゼクスを走らせていた。
ヴィゴの乗るラプトルが、もの凄い勢いでこっちに向かって走って来るのが見えて、レイは左手の手綱を短く持ち直して足を踏ん張った。
「ゼクス! 踏ん張れ!」
体当たりしてくるヴィゴのラプトルは、レイの乗るゼクスよりも一回り大きい。
ぶち当たられた瞬間、ゼクスは見事に踏ん張ってみせてヴィゴの乗るラプトルをいなした。
一瞬体が泳いで体勢を崩したヴィゴのラプトルの横を抜け、ちょうど落ちてきて地面から跳ね返った球をゴール目掛けて力一杯打ち込んだ。
見ている少女達の歓声が上がる。
「よし! 入った〜〜〜!」
喜んで走ってくるカウリと手を伸ばして叩き合い、頑張ってくれたゼクスの首元を撫でてやる。
『なかなかに激しい戦いだったな。見事な一点だったぞ』
「うん、初得点だったね」
笑ったレイも、嬉しそうにそう言って笑いながら歓声を上げて手を振る少女達のところへゼクスをゆっくりと走せて行った。
「ふむ、初めての敗北だなあ」
ラプトルの上で腕を組んだヴィゴは、残念そうにそう言っているがその顔は楽しそうに笑っている。
「あのえげつない体当たりを踏ん張っていなすか。レイルズの乗るラプトル、それ程大きくはないけど、相当優秀なラプトルなんだなあ。いやあ、いいもの見せてもらったよ」
こちらもラプトルに乗ったまま感心したようにそう呟いたカウリは、自分が乗るラプトルの首元をそっと叩いた。
「お前さんも頑張ってくれたよな。ヴィゴの乗るあのデカいの相手に一歩も引かなかったんだから、見事なもんだよ」
褒められた事が分かるのか、カウリの乗るラプトルも甘えたように鳴いてその場で飛び跳ねて見せカウリの笑いを誘っていた。
「父上、残念でしたね」
ラプトルに乗ったディアが笑顔でヴィゴの元に駆け寄ってくる。
「ふむ、見事な連携だったからなあ。これは完敗だよ」
「レイルズ様のラプトル、見事でしたね」
「ああ、弾き飛ばしてやるつもりだったのだが、逆にこちらがいなされてしまったよ」
笑うヴィゴを見て、ディアは小さく首を振ってため息を吐いた。
「父上が、いかに私達の時に手加減してくださっているのか、今の対決でよく分かりました。あんなスピードで来られたら、私達全員で受けても弾き飛ばされる結果しか見えませんわ」
「いくらなんでも、女の子達相手にそのような無茶はせんよ。だが、この遊びがラプトルを御する良い訓練になると言った意味が分かったであろう?」
笑ったヴィゴの言葉にディアも笑顔で頷く。
「そうですね。確かにとても良い訓練になると思います。もっと頑張りますので、また遊んでくださいね」
タドラと婚約したとは言ってもまだまだ子供な娘の反応を見て、ヴィゴは内心で密かに安堵しつつ笑顔で頷く。
少し離れたところで、そんな二人をタドラは愛おしげに見つめていたのだった。




