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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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郊外でのお茶会

「では、お嬢様方の独楽遊びも終わったようですし、お茶に致しましょう」

 一礼した執事の言葉に少女達が歓声をあげて拍手をしている。

 レイも一緒になって拍手をした後、立ち上がって皆と一緒に、すっかり用意の整ったテーブルへ向かった。



 順番に用意されていた折りたたみ式の椅子に座る。

 折りたたみ式とは思えないくらいに大きくて立派なテーブルの上には、レースのテーブルクロスが敷かれ、華やかな幾つものお菓子や果物が、大きなお皿に綺麗に並べられている。

「まあ、美味しそう!」

 ジャスミンの言葉に、皆嬉しそうにうんうんと頷いている。

「あ、マーク達と一緒に選んだお菓子もあるね」

 西の離宮で、マークとキムの資料作りのお手伝いをした時に一緒に選んでもらった見覚えのあるお菓子が並んでいる。

「ええ? これってマーク軍曹が選んでくださったんですか?」

 レイの呟きが聞こえたジャスミンが、驚いたようにそう言って振り返る。

 その瞬間にジャスミン以外の全員の目がきらりと輝いたのに、レイとジャスミンは全く気付いていない。

「えっと、この栗のパイ、オレンジ風味のマドレーヌ、チョコとナッツのビスケット……えっと、それから……ああ、このベイクドチーズケーキもマーク軍曹が一緒に選んでくれたものだね。それ以外に、僕とキム軍曹はこのアップルパイも選んだよ」

 それを聞いて、唐突に真っ赤になるジャスミン。

 黄色い歓声をあげる他の少女達を見て、レイも内心でかなり慌てていた。

 いくら人の心の機微に疎い彼でも、この状況は分かる。要するにジャスミンとマークの恋は、彼女達も知っているのだろう。

「何度も、お屋敷や神殿宛にお花を贈ってくださっているんですものね」

「それから、月初めの祭礼の際にも、わざわざジャスミン宛にお花と一緒にお菓子を届けてくださっているのよね」

「先月は、そろそろ寒くなったから冷やさないようにって、お手紙付きで綿兎のスリッパと靴下も届けてくださったそうだしね〜〜!」

「マーク軍曹、素敵だわ〜〜!」

「ああ、恋っていいものよね〜!」

 両手を胸元で握って、うっとりしながらソフィーやリーン達が口々にそう言っては黄色い歓声をあげて笑っている。

 ジャスミンも真っ赤になりつつ、ちょっと得意げで嬉しそうにしているのを見たレイは、もう口も利けないくらいに驚いていた。

「うわあ……もしかして、僕なんかよりマークの方が女性とのお付き合いに関して詳しかったの? 定期的なお花のお届けだけじゃあなくて、お菓子やプレゼントの手配までしていたなんて……凄いや」

 出かける前に、勝手にマークとジャスミンの事まで心配していたが、これはどうやら余計なお世話だったみいだ。

 密かに感心して、今度色々詳しく教えてもらう気満々になっているレイだった。



 ジャスミンは、それはそれは真剣な顔でお菓子を見て、執事に栗のパイとオレンジ風味のマドレーヌ、チョコとナッツのビスケットをそれぞれ一つずつと、ベイクドチーズケーキはかなり小さめに切ってもらったのを果物と一緒にお皿に盛り付けてもらっていた。

 いつもは少食な彼女にしては、これはかなりの量だ。

 それを見て笑って、お互いを突っつきあってはまた笑っていた少女達も、ジャスミンと全く同じメニューを選んで盛り付けてもらっているのを見て、レイはもう笑いを堪えられなかった。

「じゃあ僕は、せっかくだから一通りもらうね」

 誰にも選んでもらえくて何だか寂しそうなアップルパイを見て、レイはお菓子を用意してもらっている間、もう我慢出来なくなってずっと笑っていた。



 レイや竜騎士達の前にはカナエ草の茶が、それ以外の少女達には紅茶が用意される。

 お菓子はそれ以外にもいくつも用意されていて、ちょっとお腹が空いて来ていたレイはお菓子のお代わりをしてカウリ達に呆れられていたのだった。

「この、栗のパイは美味しいね」

「確かに、これなら小さいから俺でも食べられるなあ。まあ今の季節限定だけど、そういえば栗のお菓子って、竜騎士隊の本部でもよく出るよな」

 半分に切った栗のパイをそのまま指で摘んで食べていたカウリが、そう言って食べかけの栗のパイを見る。

「ああ、それは確実に僕のせいだと思います。僕が栗が好きだって事は商人の方達の間でも有名みたいで、いろいろ栗のお菓子を用意してくれているみたい。カウリも欲しいお菓子があれば、言っておけば用意してくれると思うよ」

 三個目の栗のパイを平らげたレイの言葉に、納得したように笑ったカウリはまだまだ机の上に用意されているお菓子を見た。

「いやあ、俺はそこまでお菓子にこだわりがあるわけじゃあないから、別に何でも構わないよ。それより、俺がこだわるならこっちだな」

 そう言って飲む振りをする。

「飲む時は、いつでも誘ってくださったら喜んでご一緒しますよ」

 笑って胸を張るレイの言葉にカウリだけでなく、横で面白そうに聞いていたヴィゴとタドラも吹き出していた。

「確かに、そっちならいつでも付き合うぞ」

「はあい、僕もいつでもお付き合いしますよ」

 笑ったヴィゴとタドラの声に、カウリとレイも顔を見合わせてまた吹き出した。

「ううん、そろそろ個人的に色々と入り用だからなあ。差し入れのお酒だったらいつでも受け付けているぞ〜〜!」

 カナエ草のお茶の入ったカップを掲げながら、カウリがふざけたように笑ってそう言う。

「そうだよね。カウリもお父さんになるんだから、いい機会だし禁酒にすれば?」

「それは勘弁してくれ〜〜〜! 禁煙だけで充分だろうが。これ以上俺をいじめるな〜〜!」

 うんうんと頷いたレイの言葉にカウリが情けない声でカウリがそう返し、ヴィゴとタドラだけでなく、一緒になって聞いていた少女達までが揃って吹き出し大笑いになったのだった。

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