抜き身のナイフ
「びっくりしました」
「まさか、どんぐりが攻撃してくるなんてね」
「私も驚いたわ。それにディアは、私達とはまた違う意味でもびっくりだったわね」
ソフィーとアミーの言葉に続き妙に嬉しそうなジャスミンがそう言い、またしてもディアとタドラが二人揃って真っ赤になる。
「な、なんの事かな?」
「そ、そうよ。何を言ってるのか分からないわ」
揃って焦ったようにそう言っては、お互いの顔を横目に見て仲良く真っ赤になるばかりの二人を見てまた少女達が揃って吹き出して大喜びしている。
アミーを抱き上げたままだったヴィゴは、嬉しそうにアミーが笑ってるのを見て少々複雑な顔で苦笑いしつつもそっぽを向いて、そんな二人を見ない振りをしていたのだった。
「お父上は、恋する娘を見て少々複雑なようだなあ」
そんなヴィゴを見て、カウリは面白がるように小さく笑ってそう呟き地面に落ちていた小さなどんぐりの独楽を拾った。
その後は皆で仲良くお皿の周りに集まり、レイ達が回した時よりも遥かにゆっくりふらふらと回るどんぐりの独楽同士を戦わせて、ぶつかった瞬間に倒れてしまうのを見ては、勝った負けたと大喜びしながらずっと笑っていた。
「よかった。頑張って作った独楽は楽しんでもらえたみたいだね」
途中からは少し下がって少女達が遊んでいるのを見ていたレイはそう言って笑い、敷布の端に座って安心したように小さなため息を吐いた。
「まあ、物珍しいってのはあるだろうな。女の子があれを自分で作る事はまず無いだろうからさ」
隣に座った笑ったカウリの言葉に納得したように頷いていたが、レイは急に黙り込んで何やら考え始める。
「ん? どうした。腹でも壊したか? どうするんだよ。この後は午後のおやつがあるのに食えないぞ」
不思議そうなカウリの言葉に顔を上げたレイは、笑ってカウリの上を突っついてから首を振った。
「別にどこも壊してませんから、午後のおやつはしっかりいただきます! 違う! そうじゃあなくてさ。えっと、マシューやフィリス、それからパスカルはこういう事をして遊んだりしないのかなあ? って思ったんです」
自分の作ったどんぐりの独楽を見せながら笑ったレイの言葉に、カウリも納得したらしく笑って頷く。
「ああそういう事か。ううん、どうだろうな。少なくともこれを作ろうとしたら、キリやナイフは絶対に必要だからなあ。もしかしたら護衛の者が作ってくれたりする事はあるかもしれないけど、恐らく自分ではやらないと思うぞ」
「ええ、これくらい簡単なのに。僕、かなり小さい頃から、これは自分でやっていたよ」
驚いたようなレイの言葉にカウリが肩を竦める。
「いやいや、お前無茶言うなよ。ラプトルに乗ったりするのと違って、刃物は何かあったら洒落にならないから、小さなナイフ程度であっても、ある一定年齢くらいまでは例え男の子でも勝手に触ったりは出来ないようにしていると思うぞ」
「ええ、刃物なんて慣れなんだから、出来るだけ触るようにしないと幾つになっても使えないよ」
納得出来ないとばかりに口を尖らせるレイの言葉に、カウリが呆れたように首を振る。
「じゃあ聞くけど、お前、自分のナイフで指を切った事は?」
「もちろん、何度もあるよ。初めて指を切った時はすっごく血が出てびっくりしたけど、ちゃんと手当てしたらすぐに治ったよ。母さんからナイフで怪我をした時の手当ての仕方とかを、怪我したついでだって言って実地で一から教わったよ」
当然のように答えるレイの言葉に、カウリも苦笑いしつつ頷く。
「もちろん俺だってあるよ。確かに俺も怪我した時に、ついでに覚えとけ、とか言われて手当ての仕方を習ったなあ」
「血さえ止まれば、手当は簡単だしね。それに刃物の傷って化膿さえしなければ、軽く切った程度なら擦り傷なんかより治りが早いんだよね」
レイが笑ってそう言い、自分のナイフを腰のベルトに取り付けてある鞘から抜いて顔の前まで持って来て、刃の部分を横からそっと撫でる。
「こっち向きに触れば、どんなに切れる鋭いナイフだって怪我なんてしないよ。そんなの経験して覚えるしかないでしょう?」
いっそ無邪気なその言葉に、カウリは小さなため息を吐いて自分のナイフをそっと抜いた。
「確かにお前さんの言う通りなんだけどさあ。農家出身の常識と貴族の常識はかなり違うんだって」
「へえ、そうなんだ。じゃあマシュー達はナイフを使った事なんて無いのかなあ? 便利な道具なんだけどね」
呟きながら、抜き身のナイフを器用にクルクルと手の中で回すレイを見て、カウリも同じようにナイフを回して見せる。
「男の子は、初めてナイフを持つと、必ずこれをやるよなあ。俺も初めて兄貴からお下がりの刃の欠けたナイフをもらった時、夜中にこっそりこれの練習したよ。指を切って叱られたっけ」
「確かに僕も初めてエドガーさんにナイフを作ってもらった後、バフィーに回し方を教えてもらって母さんに内緒で必死になって練習したよ。だけど僕は怖かったから、ナイフの刃の部分に濡らした葉っぱをくっつけてから回してました」
「あはは、こんなところでも性格って出るもんだな。俺は気にせずそのままやって指を切ったぞ」
「そこは威張って言わないでください。僕は慎重な性格なんです〜〜!」
胸を張って見せながらそう言ったレイは、回していたナイフを一瞬で持ち替え、ちゃんと片刃になったナイフの刃の向きを裏返しにしてから、カウリに向かって構えてみせる。もちろん座ったままだ。
それを見たカウリも、ほぼ同時に回していたナイフを一瞬で持ち変え、同じく座ったままで刃を逆向きにした状態でレイに向かって構えみせた。
そのまま動かずに互いの顔をナイフ越しに見つめ合う。
「へえ、なかなかやるねえ」
「お前さんも、なかなかの腕前だねえ」
しばらくの沈黙の後、二人揃って構えを解きわざとらしい口調でそう言って頷き合う。
それから同時に吹き出した。
「これもやったよなあ」
「確かに。二人いたらここまでがお約束だよね」
顔を見合わせたレイとカウリは嬉しそうにそう言って頷き合い、ちゃんとナイフを鞘に収めてから笑って手を叩き合った。
『何をしておるか。子供か? 其方達は』
右肩に座ったブルーのシルフの言葉に、もう一度顔を見合わせたレイとカウリは揃って吹き出し大笑いしていたのだった。




