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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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レイルズの再戦と暴れどんぐり?

「へえ、なかなか難しいですねえ」

「姉上。上手く回せません」

 意外に上手に回せたディアとジャスミンと違い、アミーとソフィーとリーンの三人は、何度教えてもらってもほとんど回せずにいた。

 タドラは最初こそ何度か失敗したが、その後は案外上手に回せたようで、出してもらった小さなお皿の中で嬉しそうに何度も小さな独楽を回して喜んでいる。

「どれ、見てやろう」

 すっかり拗ねてしまったアミーの側にヴィゴが座り、手を取って回し方を教えている。

 それを見て苦笑いしたレイは、同じく全然回せずに苦労しているソフィーとリーンにもう一度教え始めた。

『おやおや、案外苦労しておるようだな』

 だが、何度やってもどうにも上手く出来なくてすっかり拗ねてしまったリーンとソフィーを前にレイが途方に暮れていると、面白がるような笑い声と共にブルーのシルフが来てくれた。

「ブルー、ねえどうやったら上手く回せると思う?」

 困ったレイが、焦ったように少し小さな声でブルーのシルフに話しかける。

『ふむ、見る限り持ち方はそれで良いと思う。どちらかと言うと指の力が足りないようだな。もう少し心棒の長い駒を作ってやり、両手を擦り合わせて回す方が良さそうだな』

「心棒を長くって、どれくらい?」

 思わぬ提案に、首を傾げたレイがそう尋ねる。

 手を止めた少女達も揃って振り返り、伝言のシルフと話をするレイを見ていた。

「レイルズ様、もしかして……そちらの伝言のシルフは、ラピス様ですか?」

 恐る恐るソフィーが尋ねると、顔を上げたレイはにっこりと笑って頷いた。

「えっと、ブルーがソフィー達にも回せる独楽の作り方を教えてくれたから、もう少しだけ待っていてね」

 まだ集めたどんぐりはいくつもあるので、急いでどんぐりを置いてあった場所へ行ったレイは、ブルーのシルフに見てもらって丸くて大きそうなどんぐりを幾つか取ってきた。

「手伝うよ。何をしたらいい?」

 手の空いていたカウリとキルートが来てくれたので、穴開けを二人に頼んで、レイは残っていた串の先の部分だけを削り始めた。

「えっと、こんな感じかな。それで、この細い部分を穴に押し込むんだって」

 渡した10セルテほどの長さの串の先は、先端部分の1セルテほどだけが細く削ってある。

「ああ、成る程な。それでこうやって回すわけか」

 串を見てブルーの言いたい事を理解したカウリが、両手を擦り合わせるように動かしながらそう言って笑う。

「成る程ねえ。それなら確かに指先の力が足りなくても回せるね」

 レイの言葉に目を輝かせる少女達を見て、大人達は密かに安堵のため息をこぼしていた。

 そして、新しく出来た心棒の長い駒のおかげで、アミーやソフィー達もなんとか上手に回せるようになったのだった。



「よし、じゃあ勝ち抜き戦と行こうじゃないか」

 笑ったカウリの提案に、少女達が揃って拍手をする。

「ああ、待って! その前に、キルートと再戦させてください!」

 大きな声でそう言って秘蔵の独楽を取り出すレイを見て、吹き出したキルートが進み出て来てくれる。

「ええ、いいですよ。受けて立ちましょう」

 苦笑いしたキルートも、持っていた先程の二連勝した独楽を取り出す。

「レイルズ様の独楽と、そちらの独楽は全然形が違いますね」

 身を乗り出すようにして、二人の手元を覗き込んだジャスミンの言葉にレイはにっこりと笑った。

「ふふふ、これはすっごく強い独楽の……はずだよ」

「はず、ですか?」

 小さく吹き出すジャスミンを見て、レイは苦笑いしている。

「一応、これは丸くて重心が低いから、当たった時に細長いどんぐりよりは倒れにくいはずなんだよね。まあ、やってみないと分からないけどね」

 先程の大きなお皿がおかれ、レイとキルートがお皿を挟んで座る。

「一発勝負ですね」

 にんまりと笑ったキルートの言葉に、レイも負けじと笑いながら頷く。

「いくよ」

「はい、いつでも」

 頷き合って、同時に独楽を回す。

 離れた位置でそれぞれ綺麗に回ったどんぐりは、ゆっくりと移動しながら真ん中へ集まってくる。

 少女達は息を殺して真剣にどんぐりを見つめている。

「あ、当たった!」

「あ、でもまた戻って当たりましたね」

「わあ、また当たった!」

 どんぐり同士が何度も当たっては戻るのを繰り返すが、何故かなかなか勝負が付かない。

「ううん、これは引き分けかなあ」

 レイが小さくそう呟いた直後、キルートの独楽が一気に揺らぎ始め、もう一度当たった瞬間に弾き飛ばされて転がった。

「よし! 勝った!」

 拳を握ったレイの声に、苦笑いしたキルートも拍手をしている。

「いや、お見事。これは素晴らしい出来ですねえ。ううん、まだあれだけ回っているなんて完璧だ」

 まだ一つだけお皿の真ん中で安定して回り続けているレイの独楽を見て、キルートがそう言うのを聞き、少女達が揃って笑顔になる。

「いくわよ!」

 満面の笑みのジャスミンの掛け声と共に、少女達が持っていたどんぐりの独楽を一斉にお皿の中で回し始めた。

 ある意味小さな手の少女達だったからこそ出来た事で、一つのお皿でこんな人数の独楽を普通は一度で回せない。

 それぞれ上手に回り始めた独楽達は、ゆっくりと真ん中に集まっていく。

 レイが吹き出すのと、真ん中で当たり合ったどんぐりの独楽達が一斉に弾けて跳ね飛ぶのはほぼ同時だった。

「きゃ〜〜!」

 自分達目がけて飛んできたどんぐりの独楽を見て、悲鳴をあげる少女達。

 咄嗟にタドラがディアを抱き寄せ、同じく咄嗟にヴィゴがアミーを抱き上げソフィーとアミーの前に体ごと前に出て左手を差し出して庇う。ジャスミンは、同じく咄嗟に飛び出して来てくれた護衛のケイティに庇われていて無事だ。

 当然のようにシルフ達が飛んできたどんぐりの独楽を即座に止めてくれたおかげで誰も怪我ひとつせずに済んだが、空中に留まったままの幾つものどんぐりの独楽を見て、安堵のため息を吐いたカウリとヴィゴが吹き出し、遅れてタドラも吹き出す。

「父上、助けてくださってありがとうございます。でも笑うなんて酷い!」

 アミーはヴィゴの大きな腕の中でヴィゴの腕を叩きながら怒っているが、残念ながら笑いながらだったので文句には全く聞こえない。

「あ、ありがとうございます……ちょっとびっくりしました」

 一方タドラにいきなり横から抱き寄せられた形になったディアは、戸惑うように小さな声でそう言い、振り返ったせいでタドラとごく近い位置で顔を見合わせてしまい、二人揃って唐突に真っ赤になっていた。

 ヴィゴの軽い咳払いの直後に、慌てたように手を離して飛び離れる二人を見て、カウリとレイが同時に吹き出す。

 驚きから立ち直った少女達も、口々にお礼を言った直後に、揃って吹き出しその場は大笑いになったのだった。

 まだ、掴んだどんぐりの独楽を持ったままだったシルフ達も、大笑いする皆の様子を見てご機嫌で一緒になって笑ったり独楽を回す振りをしたりしていたのだった。

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