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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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どんぐりの独楽と少女達

「うわあ、また負けた〜〜〜!」

「よし、二連勝!」

 なかなかに健闘したレイの独楽だったが、結局最後は先ほどと同じようにキルートの独楽に弾き飛ばされて勝負はあっけなく終わってしまった。

「うう、もう一つ作る!」

 口を尖らせたレイの言葉にキルートが吹き出し、揃ってもう一度林の中へどんぐりを拾いに向かった。

「お嬢様方も遊ばれるかもしれませんから、数を作っておきましょうか」

 にっこり笑ったキルートもそう言って手伝ってくれたので、レイはキルートの手元をチラチラと見ながらそれはそれは真剣に自分のどんぐりを選んでたのだった。



「おおい。こっちにはまた別の木があるから硬くて丸いどんぐりがあるぞ。こいつは強いんだよなあ」

 カウリの呼ぶ声に、レイが驚いて顔を上げる。

「キルートに二連敗したんだって? そりゃあ勝ちたいよなあ」

 にんまりと笑いながらそう言われて、レイはブンブンと音がしそうな勢いで頷く。

「じゃあ、強い独楽の作り方を教えてやるよ」

 指で小さく招かれ、レイは嬉々として駆け寄っていった。

「うわあ、本当だ。まん丸に近いね」

 先ほど作ったどんぐりとは全く形状が違うほぼまん丸に近いどんぐりを見たレイが目を見開く。

「もっと小さいのは森の近くにあったから作ったことがあるけど、こんなに大きいのは初めて見るや。へえ、確かに強そう」

 そこからカウリが教えてくれるどんぐり選びのコツを真剣に聞きつつ、幾つかのどんぐりを選んで先ほどの場所に戻った。

 キルートは、先ほどと同じような縦長の形のどんぐりをいくつも選んでいて、独楽を量産中だ。

 レイはカウリと並んでその場に座り、まずはナイフを取り出して削ろうとしたところでカウリに止められた。

「削るのはこの真ん中のところをちょっとだけでいいんだ。ナイフの先を使ってこんな風にな」

 にんまりと笑いながら小さな声で教えてくれる。

「うん、分かった」

 これまた真剣な顔で頷き、教えてもらった通りに小さく削り始めた。

「レイルズ様、よければお使いください」

 声を掛けられて顔を上げると、護衛の一人が先の細いキリを差し出だしてくれていた。

「いいの? ありがとうね。じゃあお借りします」

 カウリも別の護衛の兵士から同じようにキリを借りるのを見て、レイは小さく笑って先ほど削っておいた何本のも細い串を見て小さく笑うと、改めてどんぐりを持って丁寧に穴を開け始めた。



「レイルズ様、何をしていらっしゃるんですか?」

「父上やカウリ様も、何をしておられるんですか?」

 声に顔を上げると、お昼寝を終えたようで日除けの帽子を被ったディアとアミーが揃って不思議そうにレイの手元を覗き込んでいた。

 今のレイは、自分用の独楽を作り終えて、追加の少女達用の独楽を作っているところだ。

 ディアの背後には、こちらも興味津々なタドラの姿もある。

 ジャスミン達は、起きてはいるようだがまだ敷布の所にいて揃ってこっちを気にしている。

「皆起きたんだね。ねえ、どれくらい作れた?」

 カウリの足元には十個以上の大小のどんぐりの独楽が転がっているし、キルートもかなり作ってくれたみたいだ。

「じゃあ、向こうで再戦といく?」

 笑ったレイの言葉に、顔を上げたキルートが笑って頷いた。

「もちろんです。では皆の前でもう一度レイルズ様を叩きのめすとしましょうか」

「うう、悔しい。今度は負けないもんね!」

 笑って胸を張るレイの言葉に少女達が驚いてキルートを見た。

「もしかして、私達がお昼寝していた間に、何かあったんですか?」

「レイルズ様、負けたって……お怪我は?」

 ディアとアミーが、二人の会話を聞いて慌てたようにそう言ってレイの腕や背中を叩く。

「ああ、違うよ。ごめんね驚かせて。キルートと対決したのはこれ」

 笑って先ほど二連敗したどんぐりの独楽を見せる。

「どんぐりですね。ええと、棒が突き刺してありますけど、これは何ですか?」

 不思議そうなアミーの言葉に、ディアが目を見開く。

「レイルズ様! これってもしかしてどんぐりの独楽ですか?」

「ディア正解です。ええ、驚かせようと思ったけど、知っていたんだね」

 笑ったレイの言葉に、ディアは照れたように笑って首を振った。

「いいえ、見るのは初めてです。私がアミーよりもまだ小さかった頃にお城の図書館へ連れて行っていただいた時に読んだ絵本の中に、どんぐりの独楽達が負けないように頑張って訓練をするお話があって、大好きだったんです」

「へえ、どんぐりの独楽が訓練をするの?」

「はい、でも重いものを持ち上げようとして転がってしまったり、張り切りすぎて転がったり、要するに転がってばかりなお話でしたね。それで最後は、その独楽を作ってくれた男の子が頑張ってとても上手く回してくれて、いじめっ子の独楽に勝つんです。挿絵がとても可愛らしかったんです」

「へえ、そんな絵本があるんだ。今度お城の図書館へ行ったら探してみようっと。えっと、これは僕が作ったどんぐりの独楽だよ。それで、キルートと勝負したんだけど二連敗なんだ。悔しいからもうひと勝負してもらうところ。たくさん作ったから、良かったらディア達も一緒に遊ぼうよ。回し方は教えてあげるからさ」

 レイの言葉に、少女達だけでなくタドラまでが嬉しそうに目を輝かせる。

「へえ、面白そう。僕にも出来るかなあ?」

 男の子なのに、やった事がないのかと聞きそうになったレイは、タドラの子供の頃の話を思い出して一瞬だけ眉を寄せて、それから小さく深呼吸をしてからにっこりと笑った。

「もちろん。簡単だからタドラだってきっとすぐに出来るよ。じゃあ教えてあげるから一緒にやってみようよ」

 笑ったレイの言葉にカウリ達も立ち上がって来てくれたので、全員分の出来上がった独楽をお皿の中へ入れて、レイ達は揃って敷布を敷いてある場所へ移動した。



 もちろん、レイは新しく作った最高の出来栄えの独楽だけは自分で持ったままだ。

 そんなレイの手元を見たキルートは、お皿の中に山盛りになった大小のどんぐりの独楽を見て苦笑いしつつ先ほど二連勝した自分の独楽をそっと握ってため息を吐いた。

「ううん、どうやら三連勝はちょっと厳しそうですねえ」

 嬉々として独楽回しのやり方を説明を始めたレイの周りには、目を輝かせた少女達が集まり、それはそれは真剣な様子で自分の独楽を選び始めたのだった。

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