精霊王に感謝と祝福を!
「うわあ、マジだ。すっげえ。マイリーの多面攻めそのまんまだ〜〜!」
「すごいティミー! ねえ、これって何をどうしてどうやってこの展開になったの?」
横から覗き込んだカウリとレイの感心したような言葉に、ロベリオが情けない悲鳴上げて隣に座るルークに倒れ込んだ。
「あはは。いやあ、面白いくらいに引っ掛かってくれたなあ」
同じく笑いながら横から覗き込んだルークの言葉に、寄りかかって倒れていたロベリオがものすごい勢いで起き上がる。
「何、もしかしてお前らグルだったのか?」
ルークとティミーの顔を交互に見て叫んだロベリオの言葉に、レイとカウリとルークが揃って吹き出し、ティミーが慌てたように首を振る。
「いえ、僕はただマイリー様が以前見せてくださったのを思い出して、それをそのまま真似ただけです! グルだなんて、そんな!」
「おいおい、ロベリオ君。ティミーを怯えさせてどうする。言っておくが俺が勝手に横から口出しして遊んでいただけで、引っ掛かったのはお前だぞ。ティミーとは一切打ち合わせも何もしていないって」
笑いを堪えるルークの言葉に、決着がついたばかりの陣取り盤の盤面を見たロベリオが無言になる。
「ええと、あそこがこうなって……その前はこうで……」
小さく盤面を指差しながら、ロベリオがぶつぶつと何やら呟きながら真剣に考える。
「ああ、ここか! ルークに教えてもらったこれを展開したところで引っ掛かったのか。うわあ、いくらなんでもこれは酷い! ルーク、これは苛めだと思うぞ!」
「わはは、やっと気が付いたか。ってか俺は、ロベリオが俺の悪戯に引っ掛かったのに気付いて、即座に攻撃方法を変えたティミーに驚いたよ」
笑ったルークの言葉に、ティミーが嬉しそうに笑ってそっと僧侶の駒を撫でた。
「ロベリオ様がこの駒を動かしたのを見た時、以前マイリー様がやって見せてくれた多面攻めの展開と同じになっているのに気が付いたんです。それでもしかして出来るかなって思って……この後の配置も上手く引っ掛かってくれて、声をあげそうになるのをもう必死で我慢したんですからね」
ロベリオの側の騎士の駒を指差しながら得意げにそう言うのを見て、手にしていたウイスキーの瓶を机に置いたマイリーが無言で拍手をしていた。
「いやあ、お見事。確かに俺はやり方を教えはしたが、これを実際の対決で再現出来る奴はそうはいないぞ。さすがはティミーだな」
「ありがとうございます!」
マイリーに褒められて嬉しそうなティミーが、満面の笑顔でそう言って立ち上がった。
「お酒が出るのなら、僕はそろそろ退散しますね」
正直に言うと、まだ眠くはないしもう少し陣取り盤をやりたい。だけどお酒が飲めない自分がいては、皆の邪魔になるだろう。そう考えての言葉だったが、全員が驚くようにティミーを見た。
「ええ、もう戻っちゃうの? マイリーとの対決は?」
レイの言葉に、ティミーも驚いてレイを見上げる。
「ええと、いいんですか? 僕はまだ未成年だからお酒は飲めませんよ?」
「もちろん。ティミーの為に、美味しいと評判の葡萄のジュースを持ってきたから、これを飲むといい」
マイリーの言葉に机の上を見ると、明らかにお酒ではない瓶が置かれているのが見えてまたティミーが嬉しそうな笑顔になる。
「ありがとうございます! ではもう少しお付き合いさせていただきます!」
そう言って座り直すティミーを見て、マイリーも満足そうに笑った。
「って事でほら。約束のグラスミア産の四十五年ものだ。言っておくが俺の秘蔵の逸品なんだからな。心して飲めよ」
マイリーがそう言いながら勿体をつけてワゴンに置かれたカゴの中から取り出して見せたのは、やや小振りな丸みを帯びたガラスの瓶で、手書きのラベルが貼られていて口の部分は蝋でしっかりと固められている。中には琥珀色の液体が入っている。
ティミーまで一緒になって、それを見た全員で拍手喝采になった。
進み出て来た執事にそれを渡し、ティミーの向かい側に座ったマイリーを見て立ち上がっていたティミーが慌てて座り直す。ロベリオは一つずれてマイリーの横に並んで座った。
ウイスキーの封を開けた執事が改めて一礼してから皆にラベルを見せて、用意されていた氷の入ったグラスにゆっくりと注いでいく。
ティミーには葡萄のジュースの入ったグラスが、レイルズには少し水で割ったウイスキーの入ったグラスが渡され、全員がグラスを手にしたところでマイリーがそれをゆっくりと頭上に掲げた。全員がそれに倣う。
「精霊王に感謝と祝福を! そして未来ある若者達に乾杯」
「精霊王に感謝と祝福を!」
全員の声が重なりそれぞれがお酒を口にする。そしてそのまま全員が無言になる。
「うわあ、全然違う。何この香り」
最初に口を開いたのはルークだ。
「三十年もの以上になると、この最初に口に含んだ時の香りが格別なんだよな。こればかりは、贅沢だと思うがやめられないな」
笑ったマイリーの呟きに、全員が苦笑いしつつも頷く。
「えっと……マイリーがわざわざ贅沢って言うくらいだから……これって高いの?」
小さな声でこっそり隣に座るルークに尋ねたレイだったが、残念ながら全員の耳に届いていた。当然全員がこのお酒の価値を知っているので、ティミーまで含めて全員が面白そうに二人の会話を聞いている。
「まあ、そうだなあ……」
レイの質問に、にっこりと笑ったルークは、自分のグラスをレイに見せる。
「いつもお前が好きだって言ってる貴腐ワイン。値段は知っているだろう?」
マーク達に贈り物をする際に、伝票を見せてもらっているので値段は知っている。正直に言うととんでもない値段だと思うけれども、とても美味しいし手間のかかる作り方を聞いて納得もしている。
「大体これ一杯分で、一番高い貴腐ワインのボトルが買えるな」
無言で目を見開くレイの表情を見て、全員揃って吹き出したのだった。
「精霊王に感謝と祝福を! そしてこれを飲む機会を与えてくれた、レイルズ君の素晴らしき寝癖に感謝と祝福を! シルフ達もありがとうな〜〜!」
笑ったルークの乾杯の言葉に、またしても全員揃って吹き出し大爆笑になったのだった。




