午後からの時間
「だけど、後半って? 僕が蒼の森へ帰るのと一緒に二人も行くんじゃあないの?」
不思議そうなレイの質問に、ルークが笑って答える。
「おう、俺達が行くのはお前の休暇後半の三日間、二泊三日でお世話になるよ。ちなみに、十一の月の十日から十六日までが言ったようにヴィゴとユージンとタドラが休暇に入っている。それで十七日から二十三日までお前とロベリオとティミーが休暇に入る。カウリはお前よりも早く十五日から二十一日まで休暇で、その後俺と一緒に二泊三日で蒼の森へ行くわけだ」
「で、戻ってきたら、すぐに降誕祭が始まるからな。今回はお前の遠征訓練と重なったから、休暇の日程調整が大変だったんだよ」
ルークの言葉をカウリが引き継いで説明してくれたが、レイは少し考えて無言で指を折って何やら考え始めた。
「ん? どうかしたか?」
不思議そうなカウリの言葉に、顔を上げたレイは、カウリを見てからルークを見た。
「えっと、今の説明だと……殿下とルークとマイリーの休暇の予定が入っていないですけど?」
「ああ、殿下は俺達が休暇を取っている間に、数日単位でお休みを取っていただいて奥殿でゆっくりしてもらう予定だよ。俺とマイリーも同じで、お前達みたいに長期の休みを一度に取るんじゃあなくて、一日か二日ずつに分けて七日分のお休みを取らせてもらうんだ。俺はまあ、帰る実家も故郷も無いからさ。それにマイリーも、竜騎士になってから殆ど実家へは帰っていないから、まとめて休むよりもそっちの方が有り難いんだよ」
「えっと……」
確かマイリーのご実家とは、特に仲違いなどしているわけではないと聞いた覚えがあるが、それならば、他に何か帰れない理由があるのだろうか?
不意に心配になって慌ててルークを見ると、笑ったルークが顔の前で手を振った。
「違う違う、変な事考えるなって。マイリーとご実家との関係は良好だって言っただろう? そうじゃなくてさ。以前、竜騎士になってすぐの頃に長期の休暇をもらってうっかり実家に帰ったら、知り合いや地元の商人達がこぞって挨拶に押しかけて来て酷い目にあった事があるらしい。そのせいで、ここにいた時よりも忙しくて全然休みにならなかったらしいぞ。それでそれ以来、家の方々も了承済みで、それこそ誰かが亡くなるか、家族の誰かが結婚するくらいじゃあないと、もう帰らないって事にしたらしいよ」
「ええ、そんなあ。せっかくご家族がいらっしゃるのに」
眉を寄せるレイに、ルークは苦笑いして肩を竦める。
「まあ、そこはお互い納得しての事だから、俺達が横から何か言うようなものじゃあないって。とまあそんな感じで、俺達が休みを取るのは降誕祭以降か年が明けてからになる予定だからよろしくな。一の月から二の月にかけては、いつもだいたい大雪が降って皆家に閉じこもる事が多いから、夜会や食事会の開催も最低限なんだよな。だから、この時期はいつもゆっくり出来るんだよ」
「ああ、確かにそうですね。二の月ってだいたい大雪が降っている記憶があります」
納得したレイの言葉に、カウリも苦笑いしていた。
「誰かさんは確か結婚後に大雪が降って、そのおかげで休暇が延長されていたよな」
「ああ、そうでしたね。雪のおかげでチェルシーとゆっくり出来たんですね」
からかうようなルークの言葉と無邪気なレイの言葉に、カウリが吹き出して咳き込む。
「ま、まあ休暇延長は確かに有り難かったよ。そこは否定しない」
「ああ、開き直りやがった!」
笑ったルークが、隣に座るカウリの脇腹を突っつき、まるでいつものレイみたいな情けない悲鳴をあげてソファーに転がるカウリを見て、レイとルークは揃って吹き出し大笑いになったのだった。
「じゃあ、お二人が来てくれて、そのままの僕も一緒にオルダムへ帰るんですね。楽しみにしてます。あれ? だけどその予定だと、僕は行きは一人で蒼の森まで帰る事になってますよね? 必ず二人ひと組で動くって今言っていたんだけど……誰かと一緒じゃなくて良いんですか?」
少し考えてそう尋ねたレイの言葉に、ルークとカウリが揃って笑う。
「まあ、お前の竜は古竜だからな。一応ラピスに一人でも大丈夫か確認したけど、何ら問題は無いって即答されたんだよ。って事で、お前は特別扱いなんだよ」
「分かりました。じゃあ、先に帰ってお二人が来てくれるのを待ってますね」
机に置いた書類をそっと撫でたレイの言葉に、二人も笑顔で頷く。
ソファーに座って一緒に話を聞いていたブルーのシルフも、満足そうに頷いていたのだった。
事務所に戻ったレイは、時々ルークやカウリに助けてもらいつつ報告書の下書きとメモ書きの追加をして過ごした。
少し遅くなった夕食は揃って食堂へ行き、その後は休憩室でカウリに陣取り盤の相手をしてもらって過ごした。
ルークは手にした陣取り盤の攻略本を眺めながら一人で陣取り盤の駒を動かし、隣の席でロベリオとティミーが陣取り盤で対決しているのを横で眺めては、時々横から口を出してロベリオを助ける振りで、さらに混乱させて遊んでいた。
「お待たせ。ちょっと遅くなって悪かったな」
その時、夕食の後に所用で出かけていたマイリーが帰ってきた。
「おお、俺のウイスキーが帰ってきた〜〜〜!」
マイリーを見たルークの喜びの叫びに、真剣な顔でそれぞれ陣取り盤を挟んで対決してた四人が同時に吹き出す。
「おいおい、ロベリオ君。教育係の面目丸潰れだなあ。どうやったらこんなみっともない陣形が出来るんだ? しかもこれ、もう次の手でどこも完全に詰みだろうが」
横からロベリオとティミーの対決している陣取り盤を覗き込んだマイリーの呆れような言葉に、またしても全員揃って吹きだす。
「だよなあ。これ、もうどこに打ってもやっぱりその次で詰みだよなあ。うああ、マイリーの悪名高い多面攻めを引き継ぐ奴が現れたぞ〜〜!」
情けないロベリオの悲鳴に、レイとカウリが揃って立ち上がりかけて慌てて座る。
「えっと、これってもう、ほぼ僕の負けですよね」
「だなあ、まあこの後ひっくり返せる可能性はないわけじゃあないけど……」
「じゃあもうここで投了にしましょう。参りました!」
笑ったレイの言葉にカウリも笑って頷き合い、お互いに一礼して、二人は大急ぎで隣の盤を見に行ったのだった。




