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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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報告書作り

「さてと、それで今どんな感じなんだ?」

昼食から戻りメモ書きを再開したレイだったが、始めた頃は調子良く書けてメモが増えていたのだが、だんだん手が止まりがちになり、もう先ほどからはメモを書く手がすっかり止まって無口になっている。そしてレイの眉間には、やや深めの皺まで寄っている。

周りにいるシルフ達までが、レイの様子を伺うようにしながら少し離れてヒソヒソと声をひそめて話をしている。

自分の仕事が一段落したルークは、しばらく様子を見ていたのだがこれは助けが必要そうだと判断して声を掛けた。

「ううん……もう、何が何だか分かりません……」

世にも情けない声の答えに、吹き出しそうになるのを必死で堪えて散らかるメモを見る。

「まあ、メモ書きはとりあえずこれくらいにして、まずはこのメモを時系列単位で並べ替えてみる事だな」

「時系列単位で……」

考え過ぎて口元がアヒルのくちばしみたいになっているのを見て、とうとう堪えきれずに横を向いて吹き出す。

「ルーク〜〜」

拗ねたようなその物言いに、横でこっそり聞き耳を立てていたマイリーとカウリも、笑いそうになるのを必死で堪えていた。

「あとは、こんな感じで考えた事とか感想とかは、一旦別に分けておくのさ。その上で、出来事単位でまずは時系列で並べる。ああ、出来れば日にち単位で整理すると楽だぞ」

メモを指差しながら笑ったルークはそっと手を伸ばしてレイの真っ赤な赤毛を突っついた。

「今までだって、それなりに上手くまとめていたじゃあないか。しばらく現場に出ていた間に、まとめのやり方を忘れたか?」

からかうようなその言葉に、ようやく頷き小さくため息を吐く。

「そっか、確かにそうだね。全部書かないといけないって思って、ちょっと意地になっていました。追加はいつでも書けるんだから、とりあえずここまでで一度整理してみます。えっと、後で相談に乗ってください」

「おう、いつでも遠慮なく聞いてくれ。じゃあしっかり頑張ってな」

笑ってそう言うと、自分の書類を反対側に置いた予備机に積み上げた。マイリーの横にあった予備机の上にも、すでに半分近く書類と資料の束が占領している。

「もう、二人とも散らかし過ぎです」

口を尖らせたレイの言葉に、マイリーとルークは揃って吹き出し、誤魔化すみたいに咳き込んでいたのだった。



『どんな具合だ?』

眉間に皺を寄せながらメモの整理をしていると、苦笑いしたブルーのシルフが現れてレイの肩に座った。

「ブルー。うん、なんだか頭の中がごちゃごちゃになっちゃってね。これ、どこから手をつければいいと思う?」

ため息と共にそう言われて、苦笑いしたブルーのシルフはレイが手にしていたメモを覗き込む。

「ふむ、見る限りそれ程難しい作業だとは思わんがなあ」

ふわりと飛んだブルーのシルフは、机いっぱいに広がる重なったメモの一つの上に降り立ち、そのうちの一枚を手に取った。

「まずは時系列に並べた。日にち単位。前半と後半に分け、最後の勝ち抜き戦と表彰式。まあ最後の表彰式は詳しく書く必要は無いが、たとえばこれなどは入れるべきだろうな」

そう言ってレイに見せたのは、第六中隊のラスク少尉やグッドマン大尉など、言ってみれば最前線に立つ現役の軍人が何故、新人士官達の訓練が主目的の勝ち抜き戦にわざわざ出て来たか、についての考察だ。

『こういったさまざまな出来事に関する個人の考察などは、出来れば入れるべきだな。こっちの夜襲に関する不文律についてもな』

「夜襲の際には、カードではなくある意味実力行使的な部分がある事について」

思わずレイが声に出して自分の書いたメモを読み上げると、横で聞いていたルーク達がほぼ同時に吹き出した。

「おお、そこを突っ込むか。いいぞ、是非書いてくれ。これに関しては、皆思うところがあるからなあ。出来れば明文化して欲しいんだよなあ」

「あれ? そうなんですか?」

「おう、遠征訓練中の夜襲に関しては、皆色々とあるんだよなあ」

腕を組んだルークの言葉に、メモを戻したレイが無言になって考える。

「えっと、それってつまり……叩きのめされた側?」

その無邪気な言葉にマイリーとルークだけでなく、少し離れたテーブルでティミーに資料の見方の説明をしていたロベリオまでが吹き出し、大笑いになった。

「お前なあ、ちょっとこう柔らかく表現するって気遣いはないのか?」

必死で笑いを堪えるロベリオの言葉に、レイはにんまりと笑った。

「ええ、僕は叩きのめす側だったからさあ。よく分からないです〜〜〜〜」

「ああ、この野郎。人の古傷を抉りやがって!」

笑ったロベリオが、レイの横まで走って行って、握った拳でこめかみの辺りをグリグリする。

「痛い痛い。参りました〜〜!」

「何をやってる。事務所で騒ぐな」

呆れたようなマイリーの言葉に、揃って誤魔化すみたいに笑った二人だった。

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