資料整理とそれぞれの役割
「はあ、お腹いっぱいです」
揃って食堂へ行き、しっかりと山盛りの朝食を食べたレイは、ご機嫌でそう言ってカナエ草のお茶をゆっくりと飲んだ。
「えっと、今日は事務仕事のお手伝いで良いんですよね?」
「おう、誰かさんの予備机の上が大変な事になっているから、とにかくあれを早く片付けてやってくれ。いつ俺の方へ雪崩れて来るのかと、毎日戦々恐々だったんだからな」
「ついでに言うと、ルークの予備机の散らかり具合も相当なもんだと思うぞ」
二人の会話を聞いていたカウリの言葉にルークは誤魔化すように笑い、レイは呆れたようなため息を吐いてルークの腕を思い切り叩いた。
「要するに、僕が留守の間はちゃんと自分で片付けるって言っていたのに、二人とも片付けが出来ていなかったって事ですね」
「あはは、まあそうとも言うな。良いじゃあないか、頼りにしてるよ。当てにして待っていたんだから、しっかり頑張ってくれ。夜には俺の奢りの四十五年もののウイスキーだ」
いっそ開き直るマイリーの言葉に、またしても大笑いになる一同だった。
「ああ! 思ってた以上に二人とも酷い!」
事務所に来るなりそう言ったレイの言葉に、ルークとカウリが揃って吹き出す。
「まあ、今日は一日事務仕事だからゆっくりやってくれ」
にんまりと笑ったルークの言葉に、レイも笑って諦めのため息を吐いてから、積み上がった資料の山を整理し始めた。
「おお、山が無くなってるぞ」
しばらくして、ティミーとロベリオが戻って来て、積み上がっていた資料の山が半減しているのを見て、感心したようにそう言って笑った。
「もう、笑い事じゃあないです。どうやったら、こんなに散らかせるのか、僕にはそっちの方が不思議です!」
二台の台車に整理して積み分けながら文句を言うレイだが、その顔は笑っている。
「あはは、頼りにしてるよ」
開き直って笑って自分の仕事をしているルークとマイリーを見て、レイも笑いながらも二人に向かってあっかんべーをしてまた笑いを誘っていた。
「次は、これを資料室に戻して来ないと駄目ですね」
追加で持って来てもらった台車の分も合わせると、全部で四台分にもなった二人の大量の資料を、レイは手際よく片付けてはそれぞれの台車に乗せた木箱の中へ突っ込んでいく。
ひとまずそれらをルークとマイリー、それからカウリに手伝ってもらって資料室へ運ぶ。
整理が壊滅的に下手なマイリーはひとまず事務所に戻ってもらい、レイはルークとカウリに手伝ってもらって持って来た資料をそれぞれの場所に順番に戻していった。
「いつも思うんだけど、片付けのお手伝いをしてると、二人が普段どれだけすごい量のお仕事をしているのかがよく分かるや。こんなの僕には絶対に無理だと思うなあ」
過去の国境地帯での、戦闘終結後の後始末と戦後交渉に関する資料の分厚い束を見ながら、レイがため息と共にそう呟く。
「だけど、どんな仕事をしているかくらいは分かるようになっただろう? 資料を見ただけで、何の資料か分かって整理出来ているんだからさ」
振り返ったルークの優しい言葉に、レイは一瞬だけ手を止めて小さく頷く。
「まあ、確かにそれくらいは分かるようになったけどさあ……」
「今はそれで充分だよ。そもそもこの辺りの資料は、それこそロベリオやユージンでもあまり目にしないような資料だぞ」
「ええ? そうなの?」
驚くレイに、カウリも苦笑いしつつ頷く。
「今の竜騎士隊の中では、ロベリオとユージンそれからタドラは生粋の貴族だろう?」
その通りなので、当然とばかりに頷く。
「まあ、タドラは色々あるけどさ。だけど、ここにいる三人とマイリーは、そもそも全員が貴族の生まれじゃあない」
「えっと、庶子は貴族じゃあないの?」
無邪気な質問に、ルークとカウリは苦笑いしつつ顔を見合わせる。
「まあ、その辺りは大人の事情とか、家の事情とか、その他にも色々あるから大変なんだよ」
面白がるようなカウリの言葉に、ルークも頷く。
「まあ、そんな感じだから、彼らにはどちらかというとこういった裏方の事務仕事よりも、表向きの貴族達との面倒な交渉事や顔繋ぎなんかを任せる事が多いんだよ。実際、彼らが出ていけば元老院の気難しい爺い達でも、ちゃんと話を聞いてくれるからな」
「へえ、そうなんですね」
「まあ、これも適材適所だよ。だから俺としてはレイルズには、俺達みたいなこういった裏方の仕事にもっと詳しくなって欲しいんだよな」
笑ったルークの言葉に、レイが困ったように笑う。
「そういう意味では、ティミーにはロベリオ達側に立ってもらって、彼らみたいに貴族達との表向きの仕事を任せられるようになると良いんだけど、その辺りはどうなんだろうなあ」
カウリも、そう言いながら手にした資料の束を棚に書かれた名前を確認しつつ整理していく。
「ティミーは、俺としては将来はマイリーの後継になってくれるんじゃあないかと期待しているよ」
「政治経済に詳しくて戦略と兵法にも優れ、さらには自分で貴族達との交渉も出来る。おお、それって最強じゃん!」
ルークの言葉に振り返ったカウリが指折りながらそう言い、最後に嬉しそうに笑いながら小さく拍手をした。
「へえ、確かに言われてみればティミーってすごいよね。じゃあ将来は彼が副隊長になるのかな? それとも参謀?」
「さあ、どうなんだろうな。まあその辺りはそれこそ精霊王のみぞ知るって事じゃね? さてと、これが最後だな。これでよしっと」
話をしながらもせっせと片付けたおかげで、持って来た資料の山は無事にそれぞれの決められた位置に戻す事が出来た。
「じゃあ、戻って僕は報告書の下書きをしないと。ああ。書く事がいっぱいだけどまとめられるかなあ」
「頑張れよ。まあ、困った事があればいつでも相談に乗るからな」
笑ったルークにそう言われて、レイは乾いた笑いをこぼしつつ何度も頷いていたのだった。




