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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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寝癖見学会の騒動とその報酬

『ランランラ〜〜〜ン』

『ランランラ〜〜〜ン」

『三つ編み三つ編みランランラ〜〜〜ン』

『楽しい楽しい』

『ランランラ〜〜〜ン』

『ふわふわ』

『ふわふわ』

『サラサラ』

『サラサラ』

『大好き大好き』

『ランランラ〜〜〜ン』

『三つ編み三つ編み』

『クルクルル〜〜〜』

『三つ編み三つ編み』

『クルクルル〜〜〜』




 翌朝、夜明け前頃から集まってきたシルフ達はまたしてもご機嫌で即興の歌を歌いつつ、今日もレイの赤毛を嬉々として三つ編みにして遊んでいた。

 まずは細かい三つ編みを頭頂部から後頭部に全体にかけて細かく編み込み、またそれ同士をより合わせて何本かの太い角状に仕立て、左右のこめかみ辺りのやや短めの毛は、また別の子達が小さな手でくるくると何重にも巻き巻きして遊んでいた。

 そこに呼びもしないのに集まってきたウィンディーネ達までが一緒になって、シルフ達と協力して巻いた髪を濡らしてはすぐに乾かすのを繰り返し、見事な巻き毛を作り上げていた。

 その結果、シルフ達とウィンディーネ達の協力により、これまた新しい個性的な髪型に発展していたのだった。



「おはようございます。レイルズ様、朝練に参加なさるのならそろそろ起きてください」

 軽いノックの音と共に白服を手にしたラスティが入ってくる。

「お、おう……今朝はまた、新たな髪型が……」

 勢いよく吹き出しそうになったところを腹筋総動員で何とか堪え、横を向いて何度か深呼吸をして笑い出しそうになるのを我慢をする。

 枕元に座ったブルーのシルフは、一人芝居をするかのようなラスティのその様子を、おもしろそうに黙って眺めていた。



「レイルズ様、起きてください。レイルズ様」

 肩の辺りに手を当ててそっと揺すってやる。

「う、うん……」

 眉間に皺を寄せたレイが、小さく唸りながら少しだけ目を開く。

「おはようございます。朝練に参加なさるのなら、そろそろ起きていただかないと色々と大変な事になりますよ。今朝もまた、なかなかに個性的な髪型になっておりますので」

 最後はもう、笑いを堪えつつ必死で平静を装っての言葉だったので、横向きで枕に抱きついていたレイは、情けない悲鳴をあげて枕に突っ伏す。

「うわあ、またやられた〜〜〜」

 手をついて起き上がり、恐る恐る自分の頭を触る。

「あれ? 何だこれ。なんていうか……ゴワゴワしているんだけど柔らかくて……何だこれ?」

 耳の上辺りの髪の毛を撫でながらそう呟くレイを見て、必死になって笑いを堪えるラスティはもう呼吸困難一歩手前だ。

「えっと、洗面所へ行ってきます。何だこれ?」

 首を傾げつつ起き上がったレイが洗面所へ向かうのを見たラスティは、口元を押さえてギュッと目を閉じた後、一つ大きな深呼吸をしてから軽くベルを鳴らした。

 控えの間で待ち構えていた執事が二人、ブラシと櫛を持って入ってくる。

 ラスティと顔を見合わせて頷き合い、揃って洗面所へと向かった。




「おはようさん。今朝の寝癖はどうなったんだ?」

 軽いノックの音がして、白服に着替えたロベリオとルーク、それからカウリとティミーが入ってきた。

「おはようございます。今からまさに本日の寝癖を解くところでございます。ご覧になるのであれば、すぐにどうぞ。あれは何と申しますか……なかなかに芸術的な仕上がり具合にございます」

 開いたままだった扉から、執事が一人出て来てそう言って一礼する。

 洗面所からは、レイの笑う賑やかな声が聞こえている。

「おはよう。今朝の寝癖見学会に来たぞ」

「おはようございます! 僕も寝癖見学会に参加させていただきます!」

 笑ったロベリオの言葉に、ティミーが嬉々として宣言する。

「駄目〜〜〜〜! 来ちゃ駄目です〜〜〜〜!」

 洗面所からレイの笑った声が聞こえ、その直後にティミーの背後から覗き込んだカウリとルークが揃って吹き出す。

「ちょっ、お前なんだよその頭! 前回よりもさらに磨きがかかっているじゃないか!」

 吹き出したまま膝から崩れ落ちたカウリの叫ぶ声に、ティミーとロベリオの吹き出す音が重なる。

「なあ、ちょっと待ってくれよ! これ、マイリーが見て笑うかどうか賭けようぜ!」

 いい事思いついたと言わんばかりのルークの声に、カウリとロベリオがまたして揃って吹き出し、ラスティともう一人の執事の腕を少しだけ掴む。

「なあ、冗談抜きでちょっと待ってくれ。呼んでくる!」

 ルークはそう宣言すると、本当に走って部屋を出て行ってしまった。

「ちょっと待ってよルーク! 人の頭で遊ばないで〜〜〜!」

 流し場の縁に手を突いたレイの笑いながらの抗議の叫び声に、とうとうラスティが堪えきれずに吹き出す。その横で執事二人は、一歩下がって必死で笑いを堪えて震えていた。ティミーとロベリオとカウリは、もう笑い崩れて呼吸困難になっている。

 そして、ラスティと執事の手が離れた事で、またしてもシルフ達が集まって来てこめかみの巻き毛状態になった髪を引っ張って遊び始めていた。



「連れてきたぞ!」

 嬉々としたルークの声と、引っ張って来られた白服のマイリーが、洗面所にいるレイを見るなり盛大に吹き出すのはほぼ同時だった。

「ああ、これは駄目だ。参った。ルーク、お前の勝ちだよ」

「よっしゃ〜〜! グラスミア産の四十五年もののウイスキー貰い!」

 ルークの腕にすがったまま肩を震わせて首を振るマイリーの言葉に、ルークが拳を握って勝利宣言する。

「うっわあ、すっげえ! 四十五年もの!」

「お願いします! 俺にも一口飲ませてくれ〜〜〜!」

 ロベリオとカウリの声がレイの吹き出す音と重なる。

「はい! それをもらう権利は僕にあると思いま〜〜〜す!」

 何故か胸を張って叫ぶレイの言葉に、とうとう洗面所は全員揃っての大爆笑になったのだった。



『楽しい楽しい!』

『皆笑ってる』

『素敵素敵!』

『主様達笑ってる〜〜!』

『三つ編みのモギュモギュでクルクルなの〜〜〜!』

『モギュモギュなの〜〜〜!』

『クルクルなの〜〜〜!』

 お互いに縋るようにして大笑いしている彼らの頭上では、ご機嫌なシルフ達が大はしゃぎで手を取り合って輪になって踊っていたのだった。

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