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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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恒例行事?

「はあ、なんだか眠くなってきちゃったや」

 マークとキムが交代で湯を使っている間、レイはソファーに座って大きなクッションを膝の上に乗せて先ほどまで読んでいたインフィニタスの精霊魔法理論に関する本の続きを読んでいた。

 しかし壁に作り付けられた暖炉には火が入れられていて、部屋の中はすっかり暖かくなっている。その上湯上がりで体が温まっているものだから、だんだんと眠くなってきたのだ。

『疲れているのだから、もう休んだらどうだ?』

 呆れたようなブルーのシルフの声に、レイは笑って小さく欠伸を噛み殺した。

「ええ、せっかくマークとキムと一緒のお泊まりなんだから、枕戦争したいよ」

 無邪気な理由に、ブルーのシルフは堪える間も無く吹き出した。

『成る程、それは重要な要件だな』

「でしょう。だから我慢するの!」

 ケラケラと笑ったレイは抱えていたクッションを下ろして立ち上がり、湯から上がった後もまだ、何冊もの本を開いて拾い読みしながら机に向かっているマークを見に行った。

「どう、何か僕でもお手伝い出来るものはある?」

「おう、大丈夫だよ。もうこっちの作業も終わる。ああ、だけどそれなら、こっちのまとめてある資料に簡単でいいから目を通してくれるか」

 書いていた資料から顔を上げたマークは、横に無造作に積み上がっていた書類の束を渡した。

「ああ、さっき書いていた分だね。了解。ちょっと読ませてもらうね」

「一応大丈夫だとは思うんだけど、不自然な文章や誤字脱字もあれば、それもご指摘ください!」

 割と本気のお願いにレイも吹き出しつつ頷く。

「了解、じゃあ、気をつけてそこも見ておくね」

 笑いながらソファーに座ってまたクッションを膝の上に置く。ニコスのシルフ達が少し離れた所に置いてあったミニテーブルを軽々と運んできてくれた。

「ああ、ありがとうね。じゃあこれはここに置いて、まずはこっちからだね」

 クッションの上に資料を置き、真剣な様子で読み始める。

 それを見たブルーのシルフはふわりと飛んでレイの右肩に座ると、一緒になって書類を覗き込んだ。

 レイの右腕にニコスのシルフ達が並んで座り、こちらも真剣に資料に目を通し始めた。




「はあ、温まったよ。いつもながらここの湯殿は最高だなあ」

 温まって頬を赤くしたキムが湯殿から戻って来て、一休みしたらそのままマークの隣に座り、こちらも真剣に魔法陣に書き込む計算式の検算を始めた。

「はあ、これで一段落かな」

「だな。これでなんとか全部まとまったな」

 マークとキムがそう言って二人揃って大きく伸びをする。

「そっちは終わった? えっと、綴りの間違いが幾つかあるよ。それからこっちの計算式もね。これは単に書き間違えだと思うけど、一応検算しておいたよ」

「ええ! どこだよ!」

 焦った二人が同時に叫んで駆け寄ってくる。

「えっと、ほらこことここ。それからこっちもだね」

 印をつけた箇所を指差しながらレイが詳しく説明していく。

「待って待って。すぐに書き直すよ。ええとまずはここだな!」

 修正用の白いインクを取り出しながらそう言い、二人が指摘された箇所を確認しながら順番に書き直していく。

 間違いを見つけたブルーのシルフとニコスのシルフ達は、それぞれ笑ってお互いを突っつき合いながら、間違った部分をせっせと修正している三人を楽しそうに見つめていた。



「はあ、今度こそこれで終わり! ありがとうな。まさか校正作業までやってくれるとは」

「本当に持つべきものは働き者の友人だよ。いや、本当に感謝するよ」

 満面の笑みの二人の言葉に、レイも満面の笑みで頷き、三人で手を叩き合った。

「じゃあ、お仕事は終わりって事だね!」

 嬉々としたレイの言葉に二人が同時に吹き出す。

「やるのか?」

「やっぱりやるのか?」

 にんまりと笑った二人がそう言ってベッドへ走る。

「もちろんやるよ!」

 満面の笑みのレイがそう叫んで、二人と同時にベッドへ走る。

「いっちば〜〜〜ん!」

 一番にベッドに飛び込んだレイが、両手に枕を掴んで振り返りざま大きく振り回す。

「ぶふぉ〜!」

 まともに枕に殴られたマークが悲鳴と共に吹っ飛び、ベッドから転がり落ちる。

「よし! 捕まえるぞ!」

 毛布を引っ掴んだキムの叫びに、レイは即座に枕を離して毛布の反対側を掴む。

「捕まえた〜〜〜!」

 起きあがろうとしたマークの上へ広げた毛布を投げ、そのまま飛びついて押さえ込む。

「よし、そのまま押さえててくれよな!」

 毛布の端を結ぶキムの笑う声に、マークのくぐもった抗議の声が重なる。

「せ〜の〜で!」

 毛布でぐるぐる巻きにされたマークは、レイとキムの二人がかりで床に蹴っ飛ばされて転がり、悲鳴を上げて転がるその様子に二人が揃って吹き出す。

 しかし、転がったおかげで結び目が緩み、なんとかマークが毛布からの自力の脱出に成功する。

「よくもやったな〜〜〜!」

 広げた毛布を持って飛び掛かってくるマークに向かって、笑ったレイが枕を振り回す。

「くすぐりの刑だ!」

 毛布に覆われて暴れるレイにマークとキムが飛びつき、左右から脇腹と首筋をくすぐる。

「そこは駄目〜〜〜!」

 ベッドに押し倒されていたレイが、悲鳴を上げながら腹筋だけで飛び起きる。

 鈍い音がして二人が吹っ飛ぶのと、レイがベッドへ逆戻りするのはほぼ同時だった。



「またやられた〜〜〜!」

「このミスリルの頭蓋骨〜〜〜」

 額を押さえた二人の悲鳴と抗議に、同じく額を押さえて倒れたレイが吹き出し、三人揃って大爆笑になったのだった。

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