この後の予定
『かしこまりました』
『では準備万端整えてお待ちしております』
伝言のシルフが優雅に一礼してから消えていくのを、ラスティは満足気に頷いて見送る。
実は、まだこの後に他にも早急に準備しなければならない要件があるので、ある意味レイが離宮にお泊まりしてくれるのはラスティにとっても好都合だった。
頭の中で今後の段取りを考えながら安堵の息を吐いたところで、残りのカナエ草のお茶をゆっくりと飲み干した。
「ねえラスティ、えっと、午後からマークとキムと一緒に西の離宮へ行きたいんだけど、構わないよね? それで今夜はそのまま三人で離宮に泊まりたいんだ」
その時、少し焦った様子のレイがラスティのところへ来て、何やら申し訳なさそうにそう報告する。どうやら泊まる予定を勝手に決めて良かったのか、今になって心配になってしまったらしい。
「かしこまりました。では、戻り次第お泊まりの準備をしておきます。レイルズ様、今日と明日はお休みなんですから、好きに過ごしていただいて構わないのですよ。どうぞお二人と好きなだけお話をして、お好きなだけ本を読んでゆっくりとお過ごしください」
にっこりと笑ってそう言ってやると、安心したのかレイは笑顔で大きく頷いた。
「ありがとうね。それじゃあ準備をよろしく!」
嬉しそうにそう言うと、元の席へ戻って二人と手を叩きあって笑っていた。それからマークとキムは揃って立ち上がってラスティに向かって深々と一礼して、改めて座ってからまたレイと楽しそうに話を始めた。
そんな三人を見て、ラスティも満足そうに頷くのだった。
「おう、お疲れさん」
「あれ? 今日と明日はお休みなんだろう?」
休憩室には、ヴィゴとカウリが書類を捌きながら陣取り盤を挟んでいたが、昼食を終えて部屋に入ってきたレイに気付いて揃って顔を上げた。
「お疲れ様です。えっと、今からマークとキムと一緒に西の離宮へ行って来ます。一晩お泊まりして明日の夕方に戻って来ます」
カウリの隣に座ったレイの説明に、納得した二人が揃って頷く。
「そう言えば、この後の予定は聞いたか?」
書類を置いたヴィゴの言葉に、レイは不思議そうに首を振る。
「ルークから後程詳しい説明があると思うが、五日後、天気が良ければ以前約束していた娘達との遠乗りに行こうと思うのだが、どうだ?」
「ああ、女の子達で一緒に遠乗りに行こうって言っていた、あの話ですね」
レイが目を輝かせてヴィゴを見る。
「おう、今回は俺もご一緒させてもらうよ」
笑ったカウリが、隣で手を挙げている。
「一緒に行くのは俺とカウリ、それから予定外だったがタドラも誘った。ディアとアミー、アルジェント卿のお孫さんのソフィーとリーン、それからジャスミンだよ」
笑ったヴィゴの言葉に、レイはもう満面の笑みでうんうんと何度も頷く。
「今回は、未成年の女の子が大勢いるからな。まあ少々大人数になるがこれも経験だ。貴族の生活を体験するといい」
笑ったヴィゴの言葉に、レイは前回のティミーをはじめとした男の子達と一緒に遠乗りに行った時の事を思い出していた。
「えっと、僕が何か用意しておく事ってありますか?」
女の子が喜ぶ事なんて、正直に言って何をしたら良いのか全く分からない。困ったレイは、ここは素直に助けを求める事にした。
「ああ、それなら向こうで食べるお菓子の用意をお願いしても構わないかな?」
笑顔のヴィゴの言葉にレイは内心ではひどく慌てつつも頷く。
大変だが、まだそれならば自分にも何とか用意出来そうだ。
「分かりました。じゃあラスティに相談して考えます」
真剣な表情でそう答えるレイを見て、ヴィゴとカウリは笑いながらも期待しているよと言ってくれた。
その時、レイの目の前に伝言のシルフが現れた。
『お待たせ致しました』
『準備が出来ましたので今から厩舎へ向かいます』
直立した二人のシルフが言葉を届けてくれるのを聞き、レイは嬉しそうに頷いた。
「分かりました。じゃあ僕も今から厩舎へ行くね」
敬礼してから消えていく二人のシルフを見送り、レイは笑顔で二人を振り返った。
「それじゃあ、準備が出来たみたいなので行ってきます!」
「ああ、行っておいで」
「二人によろしくな。あんまり夜更かしするんじゃあないぞ」
笑ったヴィゴとカウリの言葉にレイは笑顔で頷き、駆け足で休憩室を出て行ったのだった。
「相変わらず元気だねえ。遠征訓練明けのお休みに、友達とお泊まり会って……若いってすげえなあ」
「確かに、ちょっと感心するなあ」
苦笑いしつつ書類を束ねるカウリの言葉に、ヴィゴも同意するように頷きながら笑っていたのだった。




