ロベリオの提案!
「おいおい。一体何の騒ぎだ?」
夕方から夜会の予定が入っていた為に着替えに戻って来ていたロベリオとユージンが、突然聞こえた大声に驚いて廊下に顔を出した。
「おいおい、一体何の騒ぎだ?」
「今のって、レイルズの声じゃあなかった?」
二人は揃って首を傾げてレイルズの部屋の方を見る。
「ん? レイルズの部屋に執事が三人も入って行ったぞ?」
「本当だね。あ! もしかして……」
無言で顔を見合わせた二人は、ほぼ同時に揃ってにんまりと笑う。
「なあ、着替える前にちょっとだけ見に行かないか?」
「行く行く! きっとそうだよね!」
「だよなあ。朝練にも食堂にも来ていなかったみたいだから、絶対に今起きたところだよな!」
「って事は!」
「絶対見よう! シルフ達の力作!」
揃って頷いたロベリオとユージンは、満面の笑みで廊下へ出てレイルズの部屋へ向かった。
「ん? 何だ?」
同じく夜会の準備の為に部屋に戻ってきたルークと廊下ですれ違う。
「ほら、ルークも一緒に行こう!」
「シルフ達の力作を絶対に見ないとね!」
腕を掴んだ満面の笑みのロベリオとユージンの言葉に、ルークも何の事なのか理解して小さく吹き出す。
「あはは、やっと起きたか。よし、じゃあ揃って見学に行くとしようか!」
笑ったルークの言葉に三人揃って頷き合い、揃ってレイルズの部屋を覗いた。
部屋には誰もおらず、レイの賑やかな笑い声が洗面所から聞こえてくる。
「なあ、もう解いちゃったか?」
周りをふわふわと飛んで集まって来ているシルフ達に、ルークが自分の前髪を引っ張りながら小さな声で質問する。
『まだまだ〜〜〜!』
『そう簡単には解けないよ!』
『解けない解けない!』
『皆笑ってる〜〜〜!』
『楽しい楽しい!』
『我らの力作〜〜!』
『あっちとこっをぎゅ〜〜〜!』
『ぎゅ〜〜〜!』
『ぎゅ〜〜ってするんだよ〜〜!』
『ね〜〜〜!』
『ね〜〜〜!』
ご機嫌なシルフ達の身振り手振りを交えた説明に、もう三人は笑いが止まらない。
「おや、ルーク様、ロベリオ様にユージン様も。いかがなさいましたか?」
笑い声に気づいた執事の一人が、扉を開けたままの洗面所から出てくる。
「起きたんだろう? シルフ達の力作を見に来たんだけど、今どんな状態?」
ロベリオが自分の髪を指差しながらそう言うと、その執事は軽い咳払いをしてから洗面所を示した。
「それはどうぞ、皆様ご自身の目でご確認ください」
恭しく一礼されてまたしても揃って吹き出した三人は、そのまま洗面所へ駆け込んで行った。そしてその直後に、レイの悲鳴と勢いよく吹き出した三人の笑い声が聞こえて来たのだった。
「お、お前……」
三人が入って来たのに気付いて頭を両手で隠すようにして笑いながら悲鳴を上げたレイだったが、残念ながらその頭は手で隠せるような程度の状態ではなかった。
いっそ左右のこめかみがいつものように綺麗な三つ編みにされているのが不自然に見えるほどに、レイの頭は複雑怪奇な様相を呈していた。
予想以上の豪快な頭を見て何か言いかけたルークだったが、そのまま膝から崩れ落ちて、しゃがみ込んでひきつけを起こしたかのように大笑いしている。
同じく、揃って吹き出してしゃがみ込んで笑い崩れているユージンを支えていたロベリオは、突然いい事思いついたと言わんばかりに目を輝かせて親指を立てて見せた。
「なあ! そのまま今夜の夜会に一緒に参加しようぜ! 絶対に流行の最先端の髪型だって言われるぞ! きっとご婦人方がこぞって真似をしてくれるって!」
「あはは、それ最高! なあ、行こうって!」
「絶対嫌です〜〜〜〜!」
洗面台にしがみついたレイが笑いながらも必死になって首を振る。しかし、絡まって束になった前髪がバタバタと奇妙な音を立てて左右に振れるのを見て、また三人揃って吹き出して笑い崩れる。
「もう、勘弁してくれ……腹が痛い……」
「駄目だ……笑い、過ぎて……息が、出来ないって……」
「俺達を、笑い、殺す……つもり、かよ……」
「絶対にヤダ〜〜〜!」
とうとうレイまでその場に崩れ落ちて笑い転げてしまい、とうとう我慢出来なくなったラスティまでが吹き出したのを誤魔化した為に奇妙な音を立てしまい、それを聞いた四人がまた揃って笑う。
普段は冷静な執事達までもが、もう笑い出しそうになるのをそれぞれに必死で我慢して堪えている為、肩の辺りがプルプルと震えている。
「もういいって……これを笑わないのは、拷問だよ……許す!」
笑い過ぎて出た涙を拭いながらの、ルークの雄々しい宣言と同時に三人の執事達までもがとうとう吹き出してしまい、いつもよりも狭く感じる洗面所は全員揃っての大爆笑になったのだった。
『成功成功!』
『大成功〜〜〜!』
『皆笑ってるね!』
『笑ってるね!』
『楽しい楽しい!』
『楽しい楽しい!』
『主様の髪は〜〜〜!』
『大好きなの〜〜〜!』
いつまでも笑い崩れている一同を見ながら、集まって来たシルフ達は自分達の仕事に大満足して、大はしゃぎで笑いながら手を取り合って踊り始めていたのだった。
『おやおや、本当に大騒ぎになったようだな。だがまあ、あれだけ長い期間ちゃんと我慢したのだから、これくらいは当然よな』
笑ったブルーのシルフのしみじみとした呟きにシルフ達は大喜びで笑い転げ、ニコスのシルフ達も楽しそうに笑いながらも揃って何度も頷いていたのだった。




