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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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シルフ達の楽しみ

『ふんふんふ〜〜ん!』

『ふんふんふ〜〜ん!』

『三つ編み三つ編み楽しいな〜〜!』

『楽しい楽しい』

『ふわふわ』

『サラサラ』

『楽しい楽しい』

『楽しいね〜〜〜〜!』

『三つ編み三つ編み』

『ブンブン!』

『三つ編み三つ編み』

『ブンブン!』

『あっちとこっちを』

『ぎゅ〜のぎゅ〜のぎゅ〜!』


 翌朝、すっかり日が昇った時間になってもラスティが起こしに来る事はなく、レイの部屋はまだカーテンが閉じられたままだ。

 熟睡しているレイの髪の毛は、集まってきた大勢のシルフ達の手によって芸術的なまでの仕上がりを見せていた。

 それでもまだまだ集まって来るシルフ達は、嬉々として楽しそうに即興の歌を歌いながら真っ赤な毛先をあっちへやったりこっちへ引っ張ったりしつつ、絡んだ髪の毛をさらに複雑に絡ませたり結んだりして遊んでいる。

 いっそ左右のこめかみの真っ直ぐに編まれた極細の三つ編みが不自然に見えるくらい、レイの髪の毛は複雑怪奇な絡まり具合になっているのだった。



 その時、カーテンの隙間から差し込む光に照らされていたベッドの膨らみがモゾモゾと動いた。

「ううん……」

 不意に大きく寝返りを打ったレイの周りから、慌てたようにシルフ達が一斉に飛び上がって逃げる。

 しかし向きを変えたきりまた眠ってしまったレイを見て、顔を見合わせたシルフ達はいそいそと降りてきてまたレイの周りに集まる。


『次はこっち側〜〜〜!』

『次はこっち側〜〜〜!』

『楽しい楽しい』

『ふわふわふわふわ』

『楽しい楽しい』

『大好き大好き〜〜!』


 時折、熟睡しているレイの頬や額にキスを贈りつつ、シルフ達は楽しそうにレイの残ったふわふな赤毛で飽きもせずにいつまでも遊んでいるのだった。



 午後の二点鐘の鐘が鳴り響く音に目を覚まし、ぼんやりと目を開いたレイは横になったまま大きな欠伸をした。

「ふああ〜〜えっと、今のって、二回、鳴った?」

 ぼんやりと天井を見上げたまま、空中に向かってそう尋ねる。

『おはようレイ。ああ、今のは午後の二点鐘の鐘の音だよ』

 レイの腕の上にふわりと飛んで来たブルーのシルフが答えてくれる。

「おはようブルー。ううん、すっかり寝過ごしちゃったね。だって、久しぶりのベッドなんだもん……すっごく、寝心地良いよね……ふああ……」

 横向きになり、そう呟いてまた欠伸をする。それから、横に置いてあった枕に抱きつくとそのまま眠ってしまった。

『おやおや、また眠ってしまったよ。ずいぶんとお疲れのようだな。それにしても……これまた頑張ったものだなあ。何がどうなっておるのか、見ただけではさっぱり分からんぞ』

 最後は笑いを堪えてのブルーのシルフの言葉に、集まっていたシルフ達が大喜びで手を叩き合って笑っている。

「レイルズ様、お目覚めですか?」

 話し声に気付いたラスティが、軽いノックの音とともに控えの部屋から入ってくる。

「おや、まだお休みのよう……です、ね」

 ベッドを覗き込んだラスティは、熟睡しているレイを見て下がろうとしたが、豪快に絡まり合う複雑怪奇な髪の毛を見てしまい、堪える間も無く吹き出して膝から崩れ落ちた。

「こ、これは……予想以上の、出来栄え、ですね……シルフの皆様……お見事、です……」

 眠っているレイを起こすまいと、必死になって笑いを堪えるラスティは、我慢し過ぎてプルプルと震えている。

 そんなラスティの言葉に、集まって見ていたシルフ達は大はしゃぎで得意げに胸を張って、一斉にラスティに投げキスを贈ったのだった。

 当然、シルフが見えないラスティは全く気が付いていないが、それでもシルフ達は大喜びで照れたように笑ってお互いを突っつきあってはしゃいでいた。

『まあ、何しろそれはそれは大張り切りで、夜明け前から遊び始めていた故なあ。我にも、ここまで来たら何がどうなっておるのかさっぱり分からんぞ』

「さようですか……増援を、要請して、おきます……」

 口を押さえて、必死に笑いを堪えながらのラスティの言葉に、ブルーのシルフは遠慮なく吹き出していたのだった。




「ううん、お腹空いたよ……」

 それからしばらくして三点鐘の鐘が鳴る前にまた目を覚ましたレイは、小さなため息と共に腹筋だけで軽々と起き上がった。

 まだ髪で遊んでいたシルフ達が、一斉に飛んで逃げる。

「おはよう、皆。えっと……それで僕の髪の毛は、どうなったのかな?」

 恐る恐る頭に手をやったレイは、そのまま無言になる。

「うん? これは何がどうなっているの? もしかして何かで固めた?」

 そう言うのも無理はない。

 いつものふわふわな髪の毛では無く、全体に妙に硬くてゴワゴワした不思議な手触りに、レイは首を傾げる。

「おはようブルー。ねえ、僕の頭って一体どうなっているの?」

 膝の上に座っているブルーのシルフに、小さな声でそう尋ねる。

『おはよう。挨拶をするのは二度目だな。なかなかに芸術的な出来上がりになっているようだぞ』

「あはは、確かに挨拶したね。ええ、それより芸術的って、何がどうなっているんだよ?」

 笑ったレイは、ベッドに座ったまま腕を伸ばして大きく伸びをする。

「ううん、よく寝た。疲れも取れてスッキリだね。お腹空いたから、起きて何か食べないと」

 そのままベッドから降りて洗面所へ向かう。当然のようにブルーのシルフを先頭に大勢のシルフ達がその後をついて行った。



「ええ〜〜〜! ちょっとこれ、何がどうなったらこんな事になるんだよ! ねえ、ブルー! いくら何でも途中で止めてよ。これ、何が何だか本当にさっぱり分からないじゃない!」

『いやあ、彼女達があまりに楽しそうでな。ついつい愛しくて眺めてしまったんだよ』

 笑ったブルーのシルフの言葉に、洗面台にすがりついて笑っていたレイは、そのまま床に座り込んで笑い崩れた。

「ラスティ! おはようございます! 緊急事態に付き、大至急増援要請を願います!」

 洗面所の扉を全開にしたレイは、笑いながら大声で助けを求める。

「はい、ただいま参ります!」

 笑ったラスティの返事がすぐに聞こえて、準備万端整えた三人の執事達と共に現れたラスティを見て、レイは堪える間も無く吹き出して、床に転がって大爆笑になったのだった。

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