おやすみなさい
「それじゃあ、明日と明後日はお休みにしてあるから、ゆっくりするといいよ」
「お疲れだろうからね。ゆっくり休んでね」
笑ったルークとロベリオの言葉に、レイも苦笑いしつつ頷く。
レイの頭上には、呼びもしないのに勝手に集まって来たシルフ達が、揃ってキラキラの瞳でレイの頭を見つめている。
「待ち構えているみたいだから、早く寝てやれよな」
「ルーク酷い!」
レイの悲鳴に、ロベリオ達が揃って吹き出し、シルフ達は大喜びしている。
「うう、お手柔らかに願います〜〜〜!」
頭を押さえつつそう言うと、小さなため息を一つ吐いて顔を上げた。
「まあ、ちゃんとお願いした通りに遠征訓練中は悪戯するのを我慢してくれたんだもんね。約束通りに明日の朝はシルフ達のおもちゃになって来ます。僕の髪で遊んで彼女達が満足してくれるのなら……うう、少しくらい大変でも我慢します!」
「素晴らしき自己犠牲の精神だな。それなのに感じるこの情けなさは何なんだろうなあ」
腕を組んだロベリオの呟きに、廊下にいた全員が揃って吹き出し大笑いになったのだった。
「それじゃあ、おやすみなさい。明日の朝練はお休みさせてもらいますね」
「ああ、冗談抜きで自覚している以上に疲れていると思うから、明日はゆっくり休むといいよ。おやすみ」
「おやすみ〜〜」
「はあい、おやすみなさい」
笑って手を振ったレイが部屋に戻ると、控えていたラスティも一礼して一緒に部屋に入っていく。
「まあ、明日はさすがに疲れてぐったりだろうな。落ち着いたら明日か明後日には休暇の予定の説明をしてやらないとな」
「久しぶりの帰郷だからな。きっと大喜びするんじゃないか?」
ルークの呟きに振り返ったロベリオが笑う。
「だな、カウリも蒼の森へ行くのを楽しみにしているみたいだしな」
少し離れて見ていたヴィゴの呟きにマイリーも苦笑いしつつ頷いている。
レイとラスティが部屋に入ったのを見て、他の竜騎士達もそれぞれの部屋に入って行った。
「はあ、湯を使うのも久しぶりだね。ゆっくり温まって来ようっと」
着替えを持って嬉々として浴室へ向かったレイの後ろ姿を見送り、ラスティは安堵のため息を吐いた。
「無事に戻って来られましたね。しかも見事な成績で。本当に嬉しい限りです」
そう呟いて久し振りの部屋を見回す。
留守の間もしっかり掃除はされていて埃の一つも無く椅子の位置まで完璧だ。
部屋の隅に用意されていたワゴンには、湯上がりに飲んでもらう為の冷やしたカナエ草のお茶とグラスまでが用意されているし、いつもならラスティが行うベッドメイキングもすっかり終わっている。
仲間達の細やかでさりげない気遣いに密かに感謝しつつ、ラスティも自分の荷物を別室へ持っていった。
「ああ、久し振りにゆっくりお湯に肩まで入って、すっごく温まったや」
ふわふわの赤毛に負けないくらいに真っ赤になったレイが、ご機嫌で部屋に戻ってくる。
「湯に入るとお疲れも取れるでしょうからね。冷たいカナエ草のお茶がありますので、どうぞ」
「うわあ、ありがとうラスティ。えっと、僕も休むから、ラスティもゆっくり休んでね。疲れているのはラスティだって一緒でしょう?」
心配そうなレイの言葉に、ラスティが驚いて目を見開く。
「ありがとうございます。そうですね。レイルズ様がお休みなられたら、私も湯を使ってから休ませていただきます」
笑顔のラスティの言葉に、レイも笑顔で大きく頷く。
「じゃあ、明日の朝……えっと、ゆっくり休ませてもらうからお昼くらいかなあ。髪の毛を解くのはお任せします!」
二杯目のカナエ草のお茶を飲み干したレイの言葉に、とうとうラスティも我慢仕切れずに横を向いて吹き出す。
「明日は、しっかりと増援をお願いしておりますので、どうかご心配なく。我らが完璧に戻して差し上げます」
胸を張るラスティの言葉にレイも吹き出し、顔を見合わせて揃ってもう一度吹き出したのだった。
『ワクワク〜〜』
『ワクワク〜〜〜!』
『楽しみ楽しみ!』
『楽しみ楽しみ!』
『我慢したんだもんね〜〜〜〜!』
『いっぱい我慢したもんね〜〜〜〜!』
『我慢我慢』
『まあ、遊ぶのは構わんが解く時には手伝ってやってくれよな』
苦笑いしたブルーのシルフの言葉に、笑ったシルフ達は一斉に頷き、揃って手を取り合って踊り始めた。
『すっかりお祭り騒ぎだな。まあ楽しんでいるのならよしとするか』
苦笑いしたブルーのシルフは、ベッドに潜り込みラスティとおやすみの挨拶をするレイを、愛おしくて堪らないと言わんばかりの、とろけるような優しい眼差しで見つめていたのだった。




