皇族の方々からのお祝いの品
「さて、それでは夕食会を終える前に、これを渡しておこう」
ゆっくりと立ち上がった陛下の言葉に、レイは驚いて顔を上げる。
即座に執事が持って来たのは、真っ白な布に包まれた剣と思しき品だ。
「素晴らしい成績を収めた竜騎士見習いのレイルズの健闘を讃え、我々から贈り物を。私からはこれを贈らせてもらう」
そう言った陛下が、執事から布に包まれたそれを受け取り笑顔でレイに差し出す。
「え、えっと……」
まさか陛下からお祝いをいただけるなんて考えてもみなかったレイは、戸惑い助けを求めるみたいにルークを見た。
ルークが笑顔で大きく頷いてくれたのを見て慌てて立ち上がったレイは、今度は笑顔で差し出されたそれを両手で受け取る。
陛下が笑顔で自分を見つめる中、レイは受け取った品物を包んでいた真っ白な布をそっと外した。
「うわあ、すごい……」
現れたのは、それは見事な一振りのミスリルの剣だ。今使っている、以前陛下からいただいた剣よりも細工も細かくかなり大きくて長い。
「少々大きいように感じるかもしれんが、今の其方ならばこれくらいは大丈夫なはずだ。慣れれば問題無く使えるだろうから、普段からこれを使うようにしなさい」
そして渡された剣の柄には真っ青なラピスラズリが嵌め込まれていた。
「はい、かしこまりました。ああ、これはラピスラズリですね」
ブルーの石を見つけて、レイが満面の笑みになる。
「素晴らしい剣を本当にありがとうございます。大事に、大事に使わせて頂きます」
両手で捧げるように持って、真剣にそう答える。
レイは分かっていなかったが、竜騎士達にはこの贈り物の意味が分かっていた。
間違いなくロッカの工房では、もうレイの為の竜騎士の剣が製作に入っているのだろう。
今渡されたそれは、恐らくその為の試作で、レイ自身にあらかじめあの長さの剣を扱い慣れさせる為に渡されたものなのだろう。
何となく竜騎士同士で無言の目配せが交わされる。
「私からは、これを贈らせてもらうわ」
マティルダ様が差し出してくれたのは、先ほどと同じような真っ白な布に包まれた品でかなり小さい。それを両手で受け取ったレイが、ゆっくりと布を剥がす。
「うわあ、これもすっごく綺麗なナイフですね。ありがとうございます。大事に使わせていただきます!」
現れたのは、鞘まで全てミスリル製のそれは見事な細工の入ったナイフだった。
見ていた竜騎士達からも感心するような声がもれる。
「私からはこれね」
そう言って、笑顔のサマンサ様からもリボンがかけられた小さな包みが渡される。
「ありがとうございます。拝見させていただきます」
両手で捧げるように持ってから、ゆっくりとリボンを解く。
包みの中から出てたのは、先ほどのナイフと同じ模様の細やかな細工の入った鋏だ。これも当然ミスリルの輝きを放っている。
「うわあ、なんて綺麗なんだろう」
レイの手のひらにすっぽりと収まるくらいの小さな鋏は、しかし見事な輝きを放っている。
「これはどちらかというと、実用品と言うよりはコレクションとしての色合いが強い品ね。でも貴方なら、刺繍をする時に使ってもらえると思うから、どうか遠慮なく使ってね」
内緒話をするように、声を潜めてレイの耳元で小さな声で教えてくれる。
「そうなんですね。このような細工物は蒐集品としても価値もあるのですか。でも、僕はせっかくですから使わせていただきます」
「ええ、もちろん。でも、とてもよく切れるから指を切ったりしないでね」
「はい、気をつけます」
顔を寄せて仲良く笑顔で話をする二人を、周りの皆も笑顔で見つめていたのだった。
「では、私とティアの二人からはこれを贈らせてもらうよ」
笑ったアルス皇子がそう言って立ち上がり、レイのすぐ側まで歩いて来て執事から受け取った大きな包みを渡してくれる。
「はい、ありがとうございます。拝見させていただきます」
両手で受け取ったレイが、一旦机の上へ置いてから包みを開く。
「うわあ、弓と矢ですね。これもすごく綺麗ですね」
弓本体の綺麗な弧を描く鳥打と呼ばれる上下部分には金とミスリルの細工が施されている。弓の中心にある握りと呼ばれる部分には、同じく細やかな細工の入ったミスリルが当てられていて、握った時に滑らないようになっている。
弓の上下の端の部分にも金とミスリルの細工が施されている。全体に武具とは思えない程にとても華やかだ。
「これは、魔除けの意味があるトネリコの木で作られた儀礼用の弓と矢だよ。正式な竜騎士となったら、神殿での公式の行事の際に司祭と同等の立場で参加する事もある。これはその際に持つ、いわば飾りの為の武具なんだよ。もちろん射る事は出来るけれども、これを実際に使って矢を射る事は無いね」
アルス皇子の説明に納得したレイは、手にしたその美しい弓に、うっとりと見惚れていたのだった。
「ありがとうございました。はい、大事にします。これを持って儀式に参加するのが楽しみです!」
ようやく我に返ったレイは、満面の笑みでアルス皇子とティア妃殿下にお礼を言うのだった。
『ほう、これは良きものを頂いたな。どれもとても美しい光を放っている。よかったな』
優しいブルーのシルフの声に、笑顔で頷きもう一度手にした美しい弓をそっと撫でるレイだった。




