注目の的?
「レイルズ様、お疲れ様でした。これにて遠征訓練に関する手続きは全て終了致しましたので、もうこのまま本部へ戻りますよ」
手にしていた書類一式をいつも使っている書類専用の封筒に入れたラスティは、自分を見ているレイに気付いて笑顔でそう言って自分のラプトルに飛び乗った。
「うん、これでやっと帰れるんだね。僕お腹空いたよ」
笑ったレイも、ゼクスをラスティの乗ったラプトルの側へ寄せる。
「確かにお腹は空きましたね。ですがいくつかサインをしていただかないといけない書類が有りますので、まずは本部の事務所へ戻ってそれを片付けてしまいましょう。夕食はその後ですね」
「そうだね。早く皆に会いたいよ」
「見事な成績を収めての凱旋ですからね。どうぞ胸を張ってお戻りください」
優しい笑顔でそう言われて、思わず自分の胸元を見る。そこには、ここを出発した時には無かった二種類の略綬が輝いている。
「これの事?」
「はい、そうです。お戻りになられたら、恐らくそのまままずは陛下のところへ帰還の報告に行く事になると思いますね」
にっこり笑ってそう言われて、思わず目を見開く。
「ええ、陛下に報告って……」
「難しく考える必要はありませんよ。無事に戻って参りましたとの報告です。ですがまあ……あまり良い成績でなければ、それなりに居心地の悪い思いをするでしょうね」
苦笑いしながらのラスティの言葉に、レイも何となく納得して頷く。
「皆、いろいろ大変だったって言っていたのは、もしかしてそれも込み?」
頷きながらとうとう我慢出来ずに笑い出すラスティを見て、レイも小さく吹き出す。
「そっか、じゃあ陛下に無事に戻って参りました。すごく勉強になりました。って、そう報告すればいいんだね」
「ええ、そうです。実際にとても勉強になったし楽しかったでしょう?」
「うん、すっごくすっごく楽しかった!」
ラスティの乗るラプトルと並んでゆっくりとゼクスを歩かせながら、レイは密かに小さくため息を吐く。
「いかがなさいましたか?」
何だか駐屯地まで戻って来た頃から少し元気が無い気がして、心配になったラスティがレイを見ながらそう尋ねる。
「えっと、見られてるなって、思っただけです」
一瞬、何を言っているのか分からず目を瞬いたラスティだったが、不意にその意味に気が付いて何だか申し訳なくなった。
「成る程。確かに見られていますね」
遠慮がちなラスティの言葉に、レイは困ったように笑ってもう一度ため息を吐いた。
遠征訓練の期間中。前半はほぼ無人の平原や森の中をラスティと二人で進んでいただけで、日が暮れた後は早々にテントに戻って休んでいた。
早朝の朝練の際などでは確かに周りの注目を集めてはいたが、あまりあからさまにこちらに個人的に近寄って来る者はほとんどいなかった。
後半は、すっかり仲良くなった第六中隊の兵士達とほぼ一緒だったから、レイにしてみれば本部にいるのに近いくらいの、気心の知れた仲間達といるのとそれほど変わらない時間だったのだろう。
だがここでは皆レイルズの事を、竜騎士見習いのレイルズとして見ている。
好奇心を隠そうともしない遠慮の無い目。羨望の目。密かな、あるいはあからさまな嫉妬の目。さまざまな感情のこもった視線がレイに集中しているのだ。
彼もそんな視線にももう慣れたと思って油断していたが、どうやらかなり自由に振る舞えたこの遠征訓練期間の間で、そのあたりの感覚がすっかり元に戻ってしまったらしい。
苦笑いして密かにため息を吐き、無言のままラプトルの歩みを早くしたラスティだった。
「レイルズ様! おかえりなさい!」
「おかえりなさい!」
「素晴らしい成績を収められたのだと聞きました!」
「紺白の新星、おめでとうございます!」
懐かしい竜騎士隊の本部へ戻って厩舎へラプトルを連れて来たところで、何人もの顔馴染みの兵士達から大歓迎を受けた。
歓声を上げて手を叩き合うレイを見て、ラスティは少し下がってレイが戻ってくるのを黙って待っていたのだった。




