お祝いの相談
「ああご苦労さん。そこへ置いておいてくれるか」
資料の山を運んで来てくれたルークに気づいたマイリーが、顔を上げて隣の机を指差す。
「了解。マイリー、いくらなんでもちょっと片付けた方が良いのでは?」
無理やり開けた場所に書類の山をねじ込みながら、呆れたようなため息を吐いてルークがマイリーの腕を突っつく。
「大丈夫だ。どこに何があるかは分かっている」
真顔の答えにもう一度呆れたようなため息を吐いたルークは、わざとらしい仕草で天井を見上げた。
「レイルズ。お願いだから早く帰って来てくれ。俺じゃあこの散らかし魔王を止められないよ」
「勝手に人を魔王扱いするな。だがそれは同意見だな。俺の整理担当がいないとついつい何でも後回しにしてしまうよ」
大真面目にそう言ったマイリーと顔を見合わせて、ルークはもう一度これ以上ないくらいの大きなため息を吐いたのだった。
「だあ! この散らかし大魔王!」
もう一度叫ぶルークを横目に見たマイリーは、鼻で笑った。
「そう言えば、いよいよ帰ってくるなあ。俺の大事な整理担当が」
「勝手にあいつを自分のもの扱いしないでください。いやあ、それにしても素晴らしい成績ですよね。歴代の竜騎士達の中でも最高記録じゃあないですか?」
「だな。優秀だとは思っていたが、ここまでとはなあ」
ルークが持って来た書類に目を通していたマイリーが、ふと顔を上げて嬉しそうにそう言ってルークを見る。
「そう言えば、お前は祝いの品は決めたのか? 陛下が新しい剣を、マティルダ様はミスリルのナイフを、殿下はティア妃殿下と連名でこれも儀礼用のトネリコの弓と矢をご用意くださっているそうだから、贈るならそれ以外だぞ」
「ああ、それはヴィゴから聞きました。いくつか候補はあるんだけど、正直ちょっと決めかねているんですよね。それで皆はどうしているのか聞きたくてね」
「若竜三人組は、儀礼用のミスリルの装飾品を一揃え連名で贈るらしいぞ。ティミーとジャスミンは、同じく連名で万年筆を贈るそうだしな」
「それもさっき聞きました。それでマイリーはヴィゴと二人で何か贈るんでしょう?」
ルークの問いかけに、顔を上げたマイリーは笑って頷く。
「おう、俺とヴィゴは二人で儀礼用のミスリルの盾を贈る予定だ。まだ決まっていないなら、お前はカウリと二人で俺達が贈る予定の盾と揃いのミスリルの槍を贈ってやれ。お前が参加しないなら、俺達三人の連名で両方を贈る予定なんだけどな」
「あれ? 儀礼用のミスリルの装備は正式に竜騎士になってからかなって思っていたんですけど。先に渡すんですね」
自分の机の上に積み上がった未処理の書類を捌きながら、ルークが驚いたように顔を上げる。
「まあ、あれだけの成績を収められては、そこらの物で済ますのはなあ」
「確かに。それじゃあ是非とも俺も参加させてください。ちょっとカウリと相談して来ます」
「儀礼用の一式は、ロッカの工房から届いたのが隣の部屋に置いてあるから見てみろ。どれも素晴らしいぞ。今ならカウリがそっちにいるから、お前も参加するって言って来てくれ」
「ああ、そうなんですね。了解。じゃあちょっと見に行ってついでに相談してきます」
急ぎの書類が無い事を確認したルークが、笑ってそう言いながら立ち上がる。
「ああ、頼むよ。さっき俺も見せてもらったが、本当に素晴らしい出来栄えだったよ。成績次第ではミスリルの盾と槍は叙任式の際の贈り物になるかと思っていたんだけどな」
「確かに。じゃあ、叙任式用のお祝いも考えておかないとなあ。さて、何が良いかね」
笑いながらそう言ってルークが事務所から出て行くのを、マイリーも苦笑いしながら見送る。
「さて、明日にはレイルズも戻ってくるわけだし、これでようやく全員集合だな。この後は、順番に楽しい休暇が待っているぞ。まあ、俺は関係無いけどな」
平然とそう呟くと、マイリーは机の上へ広げた書類を真剣な顔で読み始めた。
『マイリー貴方にも休暇はあるんですからね』
『実家へ帰れとは言いませんからせめてゆっくり休んでください』
積み上がった書類の上に座っていたアメジストの使いのシルフの言葉に、書類から顔を上げたマイリーは困ったように笑って首を振った。
「アンジー、じゃあその間は俺に何もするなって言うのか? そんな事になったら、それこそ退屈で息が止まるよ」
『マイリー』
呆れたような咎めるようなその言葉に、マイリーは誤魔化すように軽く咳払いをして、その後は知らん顔でメモを取り始めたのだった。




