勝ち抜き戦の終了と表彰式
「いやあ参った。まだ目が回ってるよ」
ため息と共にそう言ったラスク少尉が、またその場にしゃがみ込みながら頭を押さえるようにして笑っている。
「えっと、ごめんなさい。投げ飛ばす時に全然加減が出来ませんでした。あの……大丈夫ですか?」
あの時はもう、とにかく必死になってラスク少尉を投げ飛ばす事しか考えていなかったのだけれども、冷静になって考えれば、確かにちょっとあまりにもひどい投げ方だった気がする。
迂闊な人にあの投げ技をかけていたら、下手をすれば怪我を負わせていただろう。
「上手く投げられてくれてありがとうございます。危うくお怪我をさせてしまうところでした」
「あはは、負けたのは俺が未熟だったからですのでお気になさらず。それにしても本当に見事な戦いっぷりでしたよ。竜騎士隊の将来は安泰っすね」
「ええ、僕なんかまだまだだよ。目標はヴィゴだからね」
「いやいや。今のレイルズ様なら、ヴィゴ様とでも対等に戦えそうっすよ」
「そんな無茶言わないでください!」
レイの悲鳴に顔を見合わせた二人は、ほぼ同時に吹き出した。
「はあ、なんとかめまいも治ったみたいっすね」
そう言ってゆっくりと立ち上がったラスク少尉は、その場で腕を伸ばして大きく伸びをした。
「悪かったな。もう大丈夫だから撤収してくれていいぞ」
ラスク少尉の声に驚いて振り返ると、何人もの白い腕章を付けた兵士達が、あちこちに散らばって白線を消して回っていたのだ。
「えっと、棒を折っちゃったけど……」
まだ地面に転がったままのへし折れた二本の棒を見る。
「いやあ、まさか金剛棒が真っ二つにへし折れるとはねえ。あんまり聞いた事無いっすよ」
呆れたようなラスク少尉の言葉に、棒を見ていたレイは驚いて振り返る。
「ん? どうかしましたか?」
「えっと……僕、今までにも朝練で、棒とか木剣を叩き折った事が……」
「あるんっすか?」
「えっと……」
誤魔化すように視線を泳がせるレイを見て、ラスク少尉はまたしても吹き出した。
「まあ、所詮は消耗品っすからね。耐久限界が来たんだって思っとけばいいっすよ」
笑ってバンバンとレイの背中を叩いたラスク少尉は、もう一度大きく伸びをしてからレイを振り返った。
「じゃあまあ、後は表彰式で本日の予定は終了! 夜は部隊ごとの宴会っすよ。ご馳走が出ますからお楽しみに」
笑いながら飲むふりをするラスク少尉の言葉に、レイも目を輝かせるのだった。
「おめでとうございます! ですが、もう見ているこっちの心臓が持つかどうか心配になるくらいでしたけれどね」
「ええ、ごめんね。でもすっごく楽しかったです!」
揃って部隊の皆のところへ戻り、ひとしきり大はしゃぎで手を叩き合った後、駆け寄って来たラスティに満面の笑みでそう言われてレイは思わず笑いつつも謝ってしまい、顔を見合わせて同時に吹き出したのだった。
「心配かけてごめんね。本当にすっごく勉強になったよ。確かにいろんな人と手合わせをした方が良いって言われていた意味が良く分かった! 帰ったらヴィゴと手合わせしてもらわないとね」
嬉しそうなその言葉に、聞いていた周りにいた第六部隊の兵士達は揃って拍手をしていたのだった。
「レイルズ様。準備が出来たみたいっすから表彰式に行きますよ〜〜!」
「はい、行きます! それじゃあラスティ、行ってくるね!」
笑顔で手を叩きあってから、駆け足でラスク少尉の元へ走って行くレイの後ろ姿をラスティは少し潤んだ目で見つめていた。
「本当に、この遠征訓練はレイルズ様にとって得難い時間となったようですね。第一部隊の方々との親交も深まったようですし、思っていた以上の素晴らしい成績を収めての凱旋ですからね。竜騎士隊の皆様がどんな反応をなさるか楽しみですよ」
嬉しそうにそう呟いたラスティは、早速始まった表彰式でオッターグル大佐から祝福の言葉と共に勲章をもらって胸を張って立っているレイを、眩しいものでも見るかのように少し目を細めつつ、何度か感極まったかのように口元を押さえながら見つめていたのだった。
用意された三段になった表彰台の上では、中央の一位と書かれた一番高い位置にレイが立ち、二位と書かれた位置にラスク少尉が、そして三位と書かれた位置にはグッドマン大尉とオリヴァー少尉がそれぞれ立っていた。
全員の頭には小さな花冠が載せられ、小さな勲章がそれぞれの胸に光っていた。
「この勝ち抜き戦でも勲章をもらえるんだね」
胸元につけられた紺白の勲章の半分くらいの大きさの勲章を見ながら小さな声でそう呟く。
「まあ、これも一応公式行事の中の一つっすからね。なんであれ勲章が無いよりは有った方がいい。くらいの意味っすよ」
「そうだよね。なんであれ無いよりは有った方が良いよね」
ラスク少尉の軽口に無邪気に同意して笑って頷くレイの言葉に、横で聞いていたラスク少尉とグッドマン大尉、そしてオリヴァー少尉は吹き出しそうになるのを必死になって堪えていたのだった。




