激闘の決勝戦
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
正眼に棒を構えたレイの大きな声に、笑ったラスク少尉も大きな声で応えてくれる。
「どうした。打って来いよ」
にんまりと笑ったラスク少尉と棒越しに目が合ってそう言われたが、構えたままのレイは動く事が出来ない。
軽く力を抜いて構えているだけのように見えるラスク少尉だが、ヴィゴと相対している時のように全くどこにも隙が無いのだ。
間違いなく打ち込んだ瞬間にどこを攻撃しても確実に弾き返されるのが分かってしまい、レイは攻めあぐねていた。
「ならこっちから行くぜ」
笑顔のままでそう言い、一気に前へ出て真正面から打ち込まれる。
「うわあ!」
予想以上の強い打ち込みに、咄嗟に棒を弾かれそうになりつつも半歩下がっただけで必死で踏ん張って凌いだ。
前回と同じように互いの手元で合わさった棒がギリギリと音を立て、その場で無言の押し合いになる。
「この、相変わらずの、馬鹿力め……」
「少尉だって、相当……です、よ……」
棒越しにごく近い位置で顔を突き合わせるようにして、お互いに必死になって相手を押し込みつつ聞こえたラスク少尉の呟きに、歯を食いしばりつつも何とかそう答える。
「でも前回とは違うんだよ!」
レイが大きな声で叫んで、一気に横に棒を倒すようにして一瞬だけ力を抜いて引いた直後に反対側へ跳ぶ。
前回は、これでレイは完全に体勢を崩してしまったが、さすがにラスク少尉は簡単には引っかかってはくれない。
「いいぞ。もっと考えろ」
平然と受け流して体制を整えると何故か嬉しそうな声でそう言われた直後、横から飛んできた鋭い払いに咄嗟に棒を立てて防ぐ。
「あ、これ駄目だよ!」
そう叫んで、立てた棒を弾くようにして反対側に向きを逆にして立てる。
直後にその棒にラスク少尉の棒の反対側が勢いよく打ち込まれる。
「へえ、引っかかったかと思ったのに、やるじゃないか!」
そこから棒の全てを使っての、上下左右に激しい打ち合いになる。
「さっきの対戦でグッドマン大尉がやって見せてくれましたからね!」
ものすごい速さの打ち込みを必死になって捌きつつ、笑ったレイがそう言って一気に前へ出る。
しかし、上段からの打ち込みを軽く交わされて少し距離が開く。
動きが止まると一気に汗が噴き出てきて心臓が速くなる。
何とか必死になって息を整えようとするが、肩が上がってしまい構えた棒が僅かに揺らぐ。
「そろそろ限界かな?」
からかうようなラスク少尉の声に、棒をぐっと握りしめたレイはやや低めに構えた棒を一気に突くようにして前に出た。
「いいねえいいねえ。その諦めない目。最高だよ!」
嬉しそうにそう言われて、下から掬い上げるようにして受けられた棒が弾かれる。
「負けないんだ!」
一瞬だけ棒から手を離して直後に力一杯握りしめて踏ん張る。
これで、弾かれた衝撃は一気に消えて握り直した棒で横から全力で払う。
「どええ! 今、何やったんだよ!」
当然これで終わりだと思っていたラスク少尉の慌てた声と、棒が激しく重なる鈍い音が響く。
「痛い!」
「痛ってえ!」
レイとラスク少尉の悲鳴が重なった直後、同時に二人の手から離れた棒が音を立てて地面に落ちる。
レイは反動を押し殺せず、仰向けにひっくり返ってしまう。
目の前に青空が見えたのに一瞬遅れて気が付き、声を上げながら地面を転がって一回転して必死になって起き上がる。
まだ両手は痺れているが、あのまま地面に倒れていたら確実に打ち込まれて終わっていただろう。
「まだまだ! ……って、あれ?」
勢い余ってもう一度転びそうになりつつも、必死になって足を踏ん張って前を向く。しかし、どうやらラスク少尉も起き上がった直後だったらしく、息を整えてはいるがこっちに攻撃してくる様子がない。
「あぁあ、この馬鹿力。棒を叩き折っちまったぞ」
呆れたようなその声に、目の前に落ちた棒を見る。
二本とも真ん中あたりでへし折れてみるも無惨な有様だ。
「どうする? こっちでやるか?」
にんまりと笑ったラスク少尉が、素手のままで腰を落として構え、指で手招きしてみせる。
「お願いします!」
目を輝かせたレイが同じく腰を低くしたまま一気に前に出て腕を掴みに行く。
体格で言えば明らかにレイの方が有利だ。
しかし、腰を低く構えたラスク少尉は平然と掴まれた腕を逆手で払って掴み返しにきた。
「そうはさせませんよ!」
動きを読んでいたレイが、頭を低く構えて突進する。
「うおっと!」
胸の辺りにレイの頭が突っ込んで来て、慌てたラスク少尉がレイの肩を掴んで踏ん張る。そのまま胴体部分を長い腕で抱き締めるみたいにして力一杯掴む。
「でやあ〜〜〜〜!」
大声と共に、膝の反動と背筋を総動員して自分の背後へ向かって思いっきり放り投げる。
ラスク少尉の悲鳴を聞きつつレイも仰向けに倒れ込み、横に転がって逃げる。
「あはは、すっげえ!あの体勢から投げにくるのかよ!」
勢いを殺すように転がったラスク少尉は即座に起き上がりながら笑っている。そのままもう一度突進しようとしたところで、レイの足が止まる。
「参った。こりゃあたまらん」
苦笑いしたラスク少尉が両手を上げてそう言い、そのままその場に座り込んだのだ。
「えっと……大丈夫ですか?」
戸惑いつつも慌てて駆け寄り、ラスク少尉の腕を掴んで引っ張って起き上がらせる。
「待ってくれ。冗談抜きで目が回ってるよ……」
苦笑いしつつもレイの腕にしがみつき、まだ片膝をついているラスク少尉の言葉がようやく頭の中に届いて、レイは戸惑いつつも周りを見回す。
その瞬間、広場はまるで雷のような大歓声と沸き起こった拍手に包まれたのだった。




