グッドマン大尉との対決!
「グッドマン大尉! どうぞよろしくお願いします!」
「おう、よろしくな」
笑顔で駆け寄ったレイの言葉に、掲示板を見ていたグッドマン大尉も笑顔になる。
「いよいよだな。得物は何でする? 選ばせてやるよ。どれでもいいぞ」
掲示板の下には、今回の勝ち抜き戦に使われている武器が、それぞれ整理して木箱に入れられている。
「木剣、棒、トンファー、あるいは素手の格闘対決でも構わないぞ」
「えっと……」
まだ手にしたままだった木剣を見て、それからグッドマン大尉を振り返る。
「じゃあ、棒でも構いませんか?」
「おう、もちろん。棒術は全ての武術の基本だからな。それじゃあ棒にするよ」
グッドマン大尉は、近くにいた白い腕章をつけた兵士にそう言って持っていた木剣を渡した。
「はい、ではこちらから好きなのをどうぞお選びください!」
その兵士は、そう言いながらレイが持っていた木剣も受け取り、掲示板の下の木箱に突っ込まれている何本もの棒を示す。
「えっと、どれにしようかな」
用意されているそれらは、普段朝練の時に使っている訓練所にもあるような白樫や黒樫の棒だ。レイが使っている赤樫の棒は見当たらない。
しかもここに用意されている棒はどれもかなり使い込まれているらしく、左右の先端に近い部分には細かな傷が多数あるが、持ち手の部分が黒光してツヤツヤになっている。迂闊なものを選んだら、折れる危険だってあるかもしれない。
自分の力を知っているレイは、真剣な顔で一本一本を手に取っては慎重に棒の状態を見て、普段使っているのに近い長さと重さのものを選んだ。
そんなレイの様子を後ろから黙っておもしろそうに眺めていたグッドマン大尉は、レイが自分の棒を選び終えるのまで待ってから、無造作に自分の近くに突き刺してあった一本を掴んで引っ張り出した。
軽く振り回してから問題ない事を確認して頷く。
「よし、悪くない」
そのまま指示された場所へ行って、先に来ていたレイと向かい合わせになって棒を構える。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
それぞれに棒を正面に構えて向かい合った二人の声が重なる。
「はじめ!」
審判役の白い腕章をつけた士官が、右手を上げて開始の合図を送る。
その声と同時に、レイは一気に前に出た。
敵わぬまでも、せめて一撃! グッドマン大尉を相手では、守りに入っていては絶対に勝ち目はない。
「よし来い!」
しかし、嬉しそうにそう言ったグッドマン大尉は、レイの渾身の一撃を正面から軽々と受けて横に流した。
勢い余ってそのまま横に流されそうになった体を脚力と腹筋と背筋を総動員して何とか踏ん張り、そのまま横からもう一撃反動と腕力を利用して叩き込む。
「いいぞ! どんどん来い!」
これ以上ないくらいの笑顔になったグッドマン大尉は、その打ち込みも軽々と受けて弾いた。
「ああもう!」
咄嗟に一歩大きく後ろに飛んで、何とか体勢を整え直す。
「どうした、もう終わりか?」
「そんなわけありませんよ!」
煽るようにそう言われて、声を上げながら正面から突きに行く。
思いきり横に払われたが、そのまま棒の反対側をぐるっと回して返して打ち込む。
「おお、なかなかやるなあ。だけど、それはこういう風にするんだぞ!」
なぜか嬉しそうにそう言ったグッドマン大尉は、横に払った棒を一瞬で回して、少し横向きになったレイの死角になっている左横側斜め下から跳ね上げるようにして打ち込んで来た。
「うわあ!」
咄嗟にその場に膝を折って仰向けにしゃがみ込んで仰け反るみたいにして躱す。直後に、仰向けになっている顔のすぐ上を棒がものすごい勢いで通り過ぎていった。
「危ない!」
そのまま転んで咄嗟に地面に棒をついて必死になって何とか立ち上がる。
「おお、今のすげえな。めっちゃ身体柔らけえ!」
「褒めても何も出ませんよ!」
グッドマン大尉の軽口に笑って返しながら、上段から全力で体重を乗せて打ち込みに行くも、今度は軽く下がって躱されててしまい空振りに終わる。
「じゃあ、今度はこっちから行くぞ!」
嬉々とした宣言の後、まるで嵐のような早い打ち込みが襲ってきて、レイは悲鳴を上げつつ必死になって下がりながら受け続けた。
もう何度目か分からないほどの打ち込みを受け流した瞬間、周囲の景色に違和感を感じて慌てて足元を見る。
「まずい!」
もう後半歩も下がれば、白線を踏んでしまい場外だ。
「ええ、こんなの絶対無理だって!」
そう叫びつつも、膝を一瞬軽く曲げて一気に前へ出る。
そのまま持っていた棒の下側を返すようにしてグッドマン大尉の棒を下から払い上げる。
「うわっと!」
おそらく反対側から打ち込むつもりだったのだろう。突然のレイの動きにグッドマン大尉が一瞬踏みとどまり、その際につまずいたように足元が乱れ、咄嗟に棒を地面に突き立てて倒れそうになった身体を止める。
「今だ!」
目を輝かせたレイが、グッドマン大尉の体重がかかっているであろう棒の根元を、自分の棒で思い切り払い、そのまま返す手首で上から叩きつけるみたいに攻撃する。
「どわあ〜!」
悲鳴と共に、咄嗟に棒を手放したグッドマン大尉が、そのまま仰け反るようにしてレイの攻撃を交わして後ろへ転がって逃げる。
「参った! お見事!」
空になった両手を上げて、苦笑いしつつもグッドマン大尉が負けを認める宣誓する。
自分が勝った事が信じられずに目を見開いてその場に棒を構えた体勢のままで立ち尽くすレイを見て、グッドマン大尉が笑顔で拍手をする。
一瞬のどよめきの後、その場は兵士達の大歓声と拍手に包まれたのだった。




