夕食と明日の話
「本当だね。確かにこれは美味しい!」
渡された夕食を元気よく食べながら、レイは嬉しそうに何度も頷いている。
「あはは、お気に召したようで何よりっす。まあ、じゃがいもとベーコンを焼いてチーズをかけるだけっすから、不味くなりようが無いってのもあるんですけどねえ」
隣に座ったラスク少尉の呆れたような言葉に、他の少尉達も笑いながらも頷いている。
「あはは、確かにそうだね。塩味のしっかり効いたベーコンに茹でたじゃがいもを混ぜてチーズで焼いてあるだけだもんね。確かにこれを不味く作れたらそれこそ才能かも」
「料理番に、その才能持ちは入れて欲しくねえっす」
レイの言葉に、ラスク少尉がしみじみと呟き、皆で顔を見合わせて同時に吹き出したのだった。
「思ってたんだけど、勤務地や勤務先ってどうやって決まるの? 料理係の人は、やっぱり料理の得意な人がなったりするのかな?」
堅パンを齧りながら、レイが小さく首を傾げながらそう呟く。
「その辺りって、どうなんっすかねえ? 少なくとも料理番になった奴で、元から料理好きだったって話を聞いた事なんて……無いなあ。お前らあるか?」
他の少尉に尋ねるラスク少尉の様子を、レイは興味津々で見つめている。
「いやあ、それは無いと思うなあ。だけどまあ、例えば元々料理人だった奴が志願兵で入隊したりしたら、本人が希望すれば前職の経験は配慮されるって話は聞いた事がありますね」
「へえ、そうなんだ」
ウェエントス少尉の呟きにラスク少尉が感心したように頷き、レイもその隣で話を聞きながら頷いていた。
「そう言えば、今回の遠征訓練にも参加している部隊の中に、凄腕の元料理人がいるって噂をこの間聞いたなあ。飯が異常に美味い部隊があるってね。いやあ、もしそれが本当ならご一緒してみたいもんだよなあ」
「ああ、それってもしかして!」
リム少尉の言葉に、レイは思わず食べていた手を止めて勢いよく振り返った。
「おう、びっくりした! どうかしましたか?」
「その、すっごく料理が美味しい部隊があるって話! 前半の個人走破が始まってすぐの時に、一晩だけお世話になったすっごく夕食の美味しい部隊があったんだよ。そこの事かも! えっと、鳥のもも肉が丸ごと一枚焼いてある夕食だったんだけど、ハーブが効いていて肉はふわふわで、あれは本当に美味しかったんだ。出来ればもう一度食べたいくらい!」
「ええ、それはすごい! へえ、やっぱりそうなんだ」
リム少尉の声に、皆も笑いながら自分達が食べている残り少なくなった料理を見た。
「まあ、これだけの大人数の食事を毎回作るのって、そりゃあ大変だろうからなあ。食うだけの奴が文句を言っちゃあいけませんね」
「そうだね。どんな料理でも残さずいただくよ」
レイが笑いながらそう言うのを聞いて、皆も苦笑いしつつも揃って同意するように大きく頷いていたのだった。
「それにしても、明日が楽しみっすね」
夕食を食べ終えた後は、篝火の近くへ移動してまた皆でこっそりスキットルを持ち寄り、交換して飲み交わしながらのんびりと話をしていた。
ラスク少尉の呟きに他の少尉達も笑っているのを見たレイは、スキットルの蓋をなんとなく締めたり開けたりしながら思わず首を傾げた。
「ええ、皆は明日何があるのか知ってるの?」
無邪気なその質問に、皆が一斉に振り返る。周りにいた一般兵達の何人かも同じように驚いてレイを見ていた。
「ええ? レイルズ様、明日何があるのかご存知無いんっすか?」
首を振るレイを見て、何故か全員が揃ってにっこりと笑う。
「あはは、そりゃあ良い。じゃあ明日をお楽しみに!」
「ですよねえ。ここはやっぱり知らないままで参加していただかないと!」
「だよなあ。俺はレイルズ様の全勝に賭けるぞ!」
「俺だって全勝に賭けるぞ!」
「ああ、そんなの俺だって絶対全勝以外賭けねえよ!」
「だよなあ。そんなの全勝以外ないよなあ」
なにやら揃ってうんうんと頷き合っている少尉達を見て、レイは戸惑うように右肩に座っているブルーのシルフを見た。
「ねえ、ブルーは何があるのか知ってる……よね?」
『もちろん知っておるぞ。だがまあ、あれらの言う通りで、其方ならば何も知らずにいた方が良かろう。大丈夫だよ。別に取って喰われるわけでなし。心配は要らぬ。所詮はお遊びだよ』
笑ったブルーのシルフにまでそう言われてしまい、さっぱり訳が分からないレイは戸惑うように肩をすくめて一つため息を吐くと、残っていた最後のベーコンとじゃがいもの塊を口に放り込んだのだった。




