ラスティの立場
「だからね、ラスティは本当にすっごく頼りになるんだよ!」
「あの、レイルズ様。お願いですからもう勘弁してください……」
「ええ、どうして? 皆にもラスティの凄いところをもっと知ってもらいたいもん!」
「いえ、あの……本当に、もう……ありがとうございます……」
その夜、ラスティもレイの横に並んで座り、第六中隊の皆と一緒に夕食を食べた。
レイは終始笑顔で食事をしながら、いつもどれだけ自分がラスティにお世話になっているか、いかにラスティが頼りになる人なのかを嬉々として説明して、ラスティを真っ赤にさせる事に成功したのだった。
常に最前線に立つ第六中隊の下級兵士達にとっては、竜騎士は憧れの存在であると同時に、実際の戦場においては何よりも頼りになる最強の存在だ。
だが、竜騎士隊付きの従卒であるラスティは、基本的に自分達と関わる事のほとんど無い部署の人でもあり、いつも竜騎士様と一緒にいる後方支援の偉い人なんだろうな程度の認識でしかない。
そのラスティがレイと一対一で対決して勝てる程の腕の持ち主であった事や、いわば裏方である彼の仕事の一端を知った事は、彼らにとっても新鮮な驚きだった。
『おやおや、レイがあんなに嬉しそうにしているとはな』
『従卒の彼の事を主様はとても気に入っているからね』
『彼の良いところをもっと皆に知って欲しくて張り切っている』
『でも従卒の彼はちょっと困ってもいるみたいだね』
苦笑いするブルーのシルフの言葉に、並んでテントの屋根に座っていたニコスのシルフ達は、面白そうに笑いながらそう言って頷き合っている。
『確かに少々困っているようにも見えるな。んん? どういう事だ? あれは単に照れているだけではないのか?』
褒められているのに困る理由が分からなくて、ブルーのシルフは不思議そうにしている。
『だって彼は主様の前に出てはいけない立場だからね』
『だから彼自身が目立つのはあまり良くない』
『彼の立場は言ってみれば執事と同じ』
『あくまでも彼の仕事は主様を陰からお手伝いする事なの』
『だから自分に注目が集まるのはあまり喜ばしい事ではない』
『でも従卒の彼の立場からすれば』
『自分の仕えている主人から寄せられる全幅の信頼に勝る喜びは無い』
貴族の館でずっと執事をしていたニコスの一族と共に過ごした彼女達には、今のラスティの感じている困惑や少々の誇らしさ、そして自分をそこまで信頼してくれているレイに対する嬉しさや愛おしさまでもが、手に取るように分かる。
『成る程な。では逃げられる前に適当な辺りで止めてやらねばな。あの者はまだまだレイには必要な人物のようだからな』
ニコスのシルフ達の説明を聞いて納得したように笑ったブルーのシルフは、ふわりと飛んで行ってレイの肩に降り立った。
『レイ、気持ちは分かるが、そろそろ勘弁してやりなさい。其方の従卒が恥ずかしさのあまり茹で上がっておるようだぞ』
からかうように笑ってそう言うと、レイの頬にそっとキスを贈った。
「えっと……」
ブルーのシルフの言葉に驚いてラスティと振り返ると、彼はその言葉の通りに食事を終えたトレーを持ったままで、耳まで真っ赤になって苦笑いしながら自分を見つめていた。
「えへへ、ちょっと嬉しくて調子に乗っちゃったかな。ごめんね、ラスティ」
誤魔化すように笑ってそう言い、レイは自分のお皿に一欠片だけ残っていた、ちぎったパンを口に放り込んだのだった。
そこからはまた、第六中隊の皆の日常の様子や、緊急時の時の体験などを聞いたりして遅くまで過ごしたのだった。




