ラスティとの手合わせ
「お願いします!」
「お願いします!」
嬉々とした笑顔のレイの大声に、ラスティも大声で応える。その顔は、先ほどまでと違って真剣そのものだ。
「すっごく強い、ねえ……ラスティ様は、俺達みたいな兵科に所属している戦闘員と違って、基本的には戦闘に参加しない後方支援の士官扱いのはずなんだけどなあ」
「だけど、あのレイルズ様がわざわざ強いっておっしゃるくらいだから、生半可な腕じゃあねえって事だよなあ」
「だよなあ。やっぱりそうなるよなあ」
見学しているラスク少尉の呟きに、隣に並んで座っていたリム少尉とテネシー少尉がこちらも不思議そうにしつつ頷き合っている。
他の兵士達も、どちらかと言えば間近でレイの戦い振りを見たくて集まって来ているのだ。
しかし、レイが大声で挨拶して上段から力一杯打ち込みに行ったそれをラスティが易々と受けて打ち流したのを見て、ほぼ全員が真顔になった。
「受け流されるのは予想通りだもんね!」
目を輝かせたレイがそう叫んで、今度は横から打ち込む。だが、即座に立てた剣に防がれ払われてレイの大きな体が勢い余って大きく後ろに跳んで下がる。
「参ります!」
真顔のラスティがそう言って、レイが下がった分一気に前へ出る。
そこから激しい打ち合いになったが、ラスティはレイと互角に戦っている。
「うええ、マジかよ」
「あれで後方支援とか、俺らの立場ねえじゃんか」
「すっげえ、レイルズ様が強いっておっしゃるはずだよ」
「うわあ、冗談抜きですげえ」
感心するような少尉達の呟きに、もう言葉も無く呆然と頷きつつ二人の戦いを見ている兵士達だった。
「これでどうだ!」
剣を打ち合わせる鈍い音がして、剣の根元で交差した状態のままで力比べになる。
しかし、体格でも力でも勝るレイが、歯を食いしばりつつもジリジリと押し返して少しずつ優位に立つ。しかし、ラスティは受けた体勢のままで反撃してこない。
「もう良いですね!」
少し優位に立ったと見たレイが思い切り押し返した時、不意にラスティがニンマリと笑ってそう呟き、一瞬だけ力を抜いてレイの剣を横に弾く。
「うわあ〜!」
力を抜かれて弾かれたその一瞬で、大きくバランスを崩したレイの悲鳴が聞こえた直後、レイの袖口を左手で掴んだラスティが、なんと自分よりも大柄なレイの体をそのまま引き寄せて力一杯投げ飛ばしたのだ。
「ふええ〜〜!」
悲鳴を上げつつも、咄嗟に受け身を取ったレイが吹っ飛んで転がる。
周囲で見学していた兵士達が、吹っ飛ばされて転がるレイを見て慌てたように左右に逃げる。幸い、誰にもぶつかる事なく二回転してから起き上がったレイは、目を輝かせて立ち上がるなり大きく拍手をした。
「ラスティすごい! また負けたよ!」
剣を下ろして大きなため息を吐いたラスティが、こちらも笑顔で下げた両手を振りながら苦笑いしている。
「レイルズ様こそ、相変わらず一撃一撃がとんでもなく重いですねえ。ちょっと冗談抜きで腕が痺れてきましたよ」
「僕だってそうだよ。ねえ、それより今の最後の投げの時、僕の腕を左手で掴んだよね。あれもう一度やって見せてよ!」
「無茶言わないでください。最後のは咄嗟だったので、出来た自分に驚いているんですから!」
目を輝かせて今のをもう一度やって見せてと言うレイの言葉に、必死になって首を振るラスティだった。
「おお、こりゃあすごい。まさかレイルズ様に勝っちまうとはね」
「ラスティ様、すっげえ……」
半ば呆然と拍手をしながらのラスク少尉とリム少尉の呟きに揃ってブンブンと頷きつつ、楽しそうに笑顔で話をしているレイとラスティの二人を、見学していた全員が尊敬の眼差しで見つめていたのだった。




