おはようと今日の予定
『寝てるね』
『寝てるねえ』
『もう起こす？』
『もう起こすの？』
『どうしようかなあ』
『どうしようかなあ』
『どうする？』
『どうする？』
翌朝、そろそろいつもの起こす時間が近づいてきたところで、レイのテントに集まって来ていたシルフ達は、今日の争奪戦を勝ち抜いて三つ編みをせっせと編んでいる代表のシルフ達の邪魔をしつつ、楽しげに笑い合っては熟睡しているレイの前髪をこっそりと引っ張って遊んでいた。
「う、うん……」
その時、眉間に皺を寄せて小さく唸ったレイが寝返りを打って寝袋ごと横向きになる。
レイの髪を編んでいたシルフ達と、前髪を引っ張って遊んでいたシルフ達が急な動きに驚いて一斉に飛び上がる。
しかし、またすぐに眠ってしまったレイを見て、顔を見合わせて笑い合ったあとにまた一斉に集まって来て赤毛を撫でたり引っ張ったりし始めた。
無事に見事な三つ編みを編み終えたシルフ達は、大喜びで三つ編みを振り回して自分達の仕事ぶりを見せびらかしている。
『もうそろそろ、起こしてやってもいいのではないか？』
笑ったブルーのシルフが、横向きになって眠っているレイの肩をそっと押して仰向けに戻してやる。
『起こすんだって』
『起こすんだって』
『起こすの！』
『起こすの！』
『起きなさ〜〜い！』
『起きなさ〜〜い！』
ブルーのシルフの言葉に、様子を見ていたシルフ達が一斉に降りてきてまだ眠っているレイの前髪を引っ張ったり額を叩いたりし始める。
「うう、待って待って。起きるよ」
力一杯引っ張られた前髪を慌てて押さえつつ、笑ったレイがそう言って寝袋ごと起き上がる。
「ふああ、まだちょっと眠いや」
腕を伸ばして思いっきり伸びをしながら、大きな欠伸をする。
『相変わらず吸い込まれそうな大きな欠伸だな』
レイの頬にそっとキスを贈ったブルーのシルフが、笑いながらそう言ってレイの膝の上に降り立つ。
「おはよう、ブルー。えっと、今日のお天気は？」
『ああ、おはよう。少し雲は出ているが、まあまあ良いお天気だよ』
「じゃあ起きようかな」
昨夜も、大騒ぎの後にもう一度皆と一緒に楽しく夜更かしをして、オッターグル少佐やグッドマン大尉から普段の砦の様子や、兵士達がどんな訓練をしているかなどを詳しく聞かせてもらう事が出来た。
「皆、頑張ってるんだね。僕も頑張らないと」
小さくそう呟いてもう一度欠伸をしたレイは、モゾモゾと寝袋の中から這い出してきた。
『まるで地面に落っこちたミノムシのようだな』
笑ったブルーのシルフの言葉に、レイも笑いながら手早く身支度を整える。
剣帯は絞めずに鞘付きの剣を手にテントの外へ出る。
「おはようございます」
「おはようございます。えっと、今日もよろしくお願いしますね！」
予想通りに集まって来てくれたラスク少尉達と、手を叩き合い笑顔で挨拶を交わしてから一緒に自主練を行う。
と言っても行うのは、普段とは違って軽い柔軟体操と素振りだけだけれども。
「ふう、お疲れ様でした。じゃあ、また後でね」
パンの焼ける良い香りに笑顔で頷き合い、朝練を終えて一旦自分のテントへ戻る。
湯を用意してくれていたラスティにお礼を言って受け取り、テントの中で顔を洗ってから軽く汗を拭い、大急ぎで身支度を整える。
そのまま、また少尉達と一緒に食事をもらいに行き、第六中隊の兵士達も一緒に集まって朝食を食べる。
そんなレイの様子を、湯を捨てて手桶を返して来たラスティは、少し寂しそうにしつつも笑顔で見つめていたのだった。
「えっと、今日は何をするんだろうね。聞いていた訓練はもう全部終えたと思うんだけど、まだ日程には余裕があるよね」
食事を終えたレイが、指を折って日にちを数えながら小さくそう呟く。
「ああ、今日と明日は俺達の部隊は後方の控えで見学っすよ。レイルズ様と一緒に来ていたアイズナー少尉が、昨夜こっちへ来た別の部隊の指揮をするのを見学するんですって」
「ええ、そうなんだ。僕はずっと毎日部隊の皆と一緒の訓練があるんだと思っていたよ」
驚くレイに、周りの皆も苦笑いしている。
「まあ、ここでの遠征訓練も、実質後二日ですからねえ。一応、途中で後方待機の際の注意事項とかそういうのをグッドマン大尉から言われると思いますので、まあ寝ない程度に聞いて置いてください」
ラスク少尉の言葉に頷きかけたレイは、無言になって考えた後にラスク少尉の袖を掴んだ。
「うお？ どうしました？」
驚くラスク少尉の言葉に、まだ考えつつもレイが顔を上げる。
「ねえ、実質後二日ってどうして？ 最終日は帰る日だからまあ訓練は無いとしても、まだ、今日を入れてあと三日あるはずなんだけど？」
もう一度指折り数えたレイの質問に、ラスク少尉だけでなく周りにいた兵士達までが揃ってにんまりと笑う。
「まあ、それは当日のお楽しみって事にしておいてください」
ラスク少尉の言葉に、周りの兵士達も笑いつつウンウンと頷いている。
「ええ、何があるんですか？ でもまあ、それなら楽しみにしておきます」
ブルーのシルフやニコスのシルフ達も笑っているけれど何も言わないのを見て、聞き出すのを諦めたレイは笑ってそう言い、いつものカナエ草のお薬を取り出して水筒の水で飲み干したのだった。
