奇襲と圧勝!
「突撃!」
右手を突き上げたレイの大声に、鬨の声を上げた兵士達が騎兵を先頭に一斉に走り出す。レイも、ゼクスに軽く合図を送り一気に駆け出した。
いつもよりも相当に重いテネシー少尉を一緒に乗せているが、ゼクスの走る様子には戸惑いも迷いも遅れもない。
「接敵、用意!」
騎兵部隊中央にいるレイの大声に騎竜に乗っていた重装歩兵達が騎竜が止まると同時に飛び降りる。それを見て即座にすぐ近くを走っていた別の騎兵が、それぞれに預かっていた大楯を重装歩兵達に渡す。
飛び降りて大楯を手にした重装歩兵達が左右に展開していた歩兵達に対して二つに分かれて向き合い、それぞれに密集隊形を取り構えると、同じく左右に分かれて展開した歩兵達と共にそのまま一斉に突撃して行った。
そして騎兵達は、乗せていた重装歩兵達が降りたのを確認すると、これも即座に陣形を整え直してレイを中心に真正面にいる相手の騎兵達に向かってそのまま勢いよく突撃していったのだ。
それは、到着からあっという間の出来事で、こちらの部隊を指揮していたアーク少尉は、呆然としていて全く反応出来なかった。
「ま、まさか重装歩兵を騎兵で前線まで運んで来るなんて……そんな無茶、有りなのかよ……」
しかし左右に展開していた自軍の歩兵は、突撃してきた重装歩兵隊と歩兵達の波状攻撃を受けて既に総崩れとなりかけているし、真正面からぶち当たった騎兵隊も苦戦を強いられている。
「こ、後方にいる重装歩兵達、今すぐに突撃だ!」
慌てて我に返り、悲鳴のような声で叫ぶ。
こちらも半ば呆然と見ていた重装歩兵達が、その指示に即座に返事をして進み始める。
とは言っても、向こうから攻撃してくるのを待っていて受けるのが本来の彼らの役割であって、後方からいきなり突撃の命令を受けても、即座に足並みは揃わない。
レイの部隊の場合は、先にその指示を受けていたために理解している兵士達がお互いにくっつき合った状態のままで突撃出来たのだ。
若干バラけた状態のままで、各自の足並みが揃わないままに突撃していったところでレイの率いる騎馬兵達と接敵した。
「重装歩兵達が出てきたぞ!」
レイの大声に、騎兵達が即座に相手の重装歩兵達を各個撃破していく。
また、残った歩兵の相手をラスク少尉とリム少尉の率いる歩兵達に任せた重装歩兵達が、レイの声を聞いて左右から再突入して来たのだ。
レイの率いる第六中隊の一斉攻撃に、仮想敵役の第五中隊が総崩れとなるまで、さほどの時間を必要としなかった。
「いやあ……ここまで威勢よく負けると、いっそ清々しいぞ。おい」
ここまで黙って見ていたウィンデル大尉が、第六中隊の騎兵と重装歩兵達に取り囲まれて総出で叩きのめされた挙句に荒縄で縛られているアーク少尉を苦笑いしながら眺めていた。
「敵将を捕らえたぞ〜〜!」
騎兵を率いるウェントス少尉の声に、第六中隊の兵士達から喝采の声が上がり、逆に第五中隊からは悲鳴と共にカードを手放す兵士達が続出した。
部隊での戦いにおいて、指揮官が倒されてしまってはもう勝ち目はない。
あちこちに呆然と座り込む第五中隊の兵士達の姿があり、しばらくして一斉に笑い声と大きな拍手が沸き起こったのだった。
「勝負あった! そこまでだ! 全面的にうちの負けだよ。お見事」
右手を上げたウェンデル大尉の声に、ゼクスに乗ったレイが進み出て来て、ウィンデル大尉から赤いリボンの付いた指揮棒を受け取った。
「お疲れ様でした」
笑顔でその指揮棒を受け取ったレイは、改めてウィンデル大尉に向き合って敬礼してからそれを高々と掲げて見せる。
第六中隊の兵士達はもう、大喜びでレイの名前を呼びながら拳を振り上げて足を踏み鳴らしたり拍手をしたりしていたのだった。
「で、それ……返してもらってもいいか?」
泥と草まみれの哀れな姿で縛られたまま地面に転がされているアーク少尉を指差しながら、苦笑いしているウィンデル大尉がそう言ってレイを見る。
「えっと……」
『返してあげて良いわよ』
『これはあくまでも訓練であって実際の戦いとは違うからね』
『わかりましたどうぞって言って笑って返してあげればいよ』
まさか敵軍の指揮官を捕虜に出来るとは思っていなかったので、こんな時にどうしたら良いのか聞いていない。
戸惑っているとゼクスの頭の上に現れたニコスのシルフ達が笑いながら教えてくれた。
ブルーのシルフも現れて一緒になって笑顔で頷いている。
「分かりました。どうぞ」
レイの言葉に、アーク少尉の周りにいた兵士達が苦笑いしつつ縄を解いてから下がる。
「ほら、起きろ。解放してくれたぞ」
思い切り口を尖らせたアーク少尉は、無言のままで手をついてゆっくりと起き上がる。
そして、顔を上げてレイを睨み付けるなりいきなり掴みかかって行ったのだ。
しかし彼は地面に立ったまま、レイはゼクスの鞍の上だ。
当然軽くレイがゼクスを下がらせただけで届かずに勢い余って転んだアーク少尉は、怒りに真っ赤になった顔で拳を握りしめて大声を上げて立ち上がると更にもう一度殴りかかった。
しかし今度はレイは逃げもしない。だが、アーク少尉の拳がレイに届く事は無かった。
突然、不自然な体勢で動きを止めたアーク少尉が驚きに目を見開く。
『我が主に八つ当たりをするな。この未熟者が』
耳元で聞こえた、その怒りを含んだ低い声にアーク少尉の顔がいきなり真っ青になる。振り上げた拳はガタガタとみっともないくらいに震えている。
そして、唐突に金縛りが解けたアーク少尉は、悲鳴を上げてその場から転がるようにして走って逃げて行ったのだ。
「おいおい、いくらなんでもみっともなさすぎるだろうが。ああ、躾がなってなくて悪かったな、古竜の主殿」
呆れたように逃げて行く後ろ姿を見送ったウィンデル大尉の言葉に、苦笑いしたレイが首を振る。
「えっと、もう撤収して良いんですよね?」
敢えて先ほどのアーク少尉の行動については触れずに、周囲を見回してからウィンデル大尉にそう尋ねる。
「ああ、実際の戦闘なら俺も捕虜になってるところだけどな。お疲れさん。いやあ、俺も勉強になったよ。まさか騎兵で重装歩兵を運ぶ奴がいるとはね」
完全に面白がっている口調のその言葉に、レイも苦笑いしつつも大きく頷いて一礼した。
「撤収!」
指揮棒を持ったレイの大声に第六中隊の兵士達は元気よく返事をして、今度はゆっくりと重装歩兵達の歩く速さに合わせて自分達の陣地へ引き返して行ったのだった。




