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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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語らい

「大切な仲間達に、乾杯。精霊王に感謝と祝福を」

 レイの言葉に、泣きそうな笑顔でひとつ頷いたラスク少尉もボトルを掲げてその言葉を復唱する。

 それから顔を見合わせて笑い合い、ウイスキーのボトルを大きく煽るようにして飲んだ。

「ああ、美味い!」

「ああ、これはキツイ!」

 二人の声が重なり、二人が同時に吹き出す。

「おやおや、お子ちゃまな子竜の主殿には、ちょっとキツかったかなあ」

 入っていたのは前回飲んだウイスキーよりもさらに酒精の強いウイスキーで、一応警戒して飲んだはずのレイだったが情けない悲鳴を上げてしまい、いきなり赤くなった顔を冷やすように口で息をしながらパタパタと空いた手で顔に風を送っていた。

「あはは、引っかかった引っかかった。何しろこっちは俺が飲んでいる中でも最強の一品っすからねえ」

「うわあ、頭がくらくらするよ〜〜! ラスク少尉は、こんなのを飲んでよく平気でいられますね」

 赤くなった顔を振りながら、レイが呆れたようにそう言って笑う。

「それが大人になるって事っすよ。まだまだ修行が足りんのう」

 ラスク少尉はにんまりと笑って大きく頷いてから、最後はどこの爺様だよと言いたくなるような口調で重々しそうな声でそう言い、二人揃ってまたしても同時に吹き出したのだった。

 しかし、レイの顔は遠目から見ても真っ赤になるくらいで、若干体がふらついている。

「ほら、しっかりしなさい」

 これは放置したら酔い潰れてしまうと判断したブルーのシルフがふわりとレイの右肩に座る。

 即座に、頭上にはシルフと光の精霊達が大勢集まってくる。レイの周りにはウィンディーネ達だけでなく、ノーム達の姿も見受けられた。

 もちろん、精霊の見えないラスク少尉には気配すら察知出来ない事ではあったのだけれども。



『頼む』

 ブルーのシルフの短い言葉の直後、精霊達は全員揃って一度だけ同時に手を叩いた。

 一瞬明るい光が溢れてすぐに消える。

「はあ、びっくりした」

 当然その様子は見えていたが、実は目が回り始めていた為に黙って大人しくしていたレイが、急激に消えた酔いに驚きつつも小さく笑って手にしていたボトルを見る。

 その平然としていて全く酔った様子すらないレイを見て、ラスク少尉が無言で目を見開いていた。

「ええ……この上酒まで最強ってか。ううん、唯一俺が勝てそうなところを攻めたんだけど、こっちでも完敗かよ。駄目だ。攻めるところが全く無いじゃねえかよ」

 小さな声でそう呟いたラスク少尉は、苦笑いしつつ手にしていたボトルをもう一度掲げて見せた。

「いやあ、恐れ入りました。酔いつぶして明日の朝に二日酔いになっているところを笑ってやるつもりだったのになあ」

 そう言いつつ、こちらも平然ともう一度ボトルを傾けて笑っている。

「あはは、そうだったんですね。残念でした〜〜! でも、さすがにもうこれ以上飲んだら冗談抜きで明日二日酔いで走り回る羽目になりそうなので、これはお返ししますね。美味しいウイスキーをご馳走様でした」

 笑ったレイが、持っていたボトルに蓋をして返そうとすると、笑ったラスク少尉は小さく首を振った。

「それはお近づきのしるしに差し上げます。ドワーフ作の蒸留酒を入れておく用のスキットルですよ。大人の男なら、一つくらいは持っておかないとね」

 実は、持っているだけで格好良さそうなので一つ欲しいと密かに思っていたレイは、その言葉に驚きつつも笑顔になる。

「良いんですか。すごく格好良さそうなので実は欲しかったんです。嬉しいです。ありがとうございます」

 あまりに素直なその言葉に、格好良いと言われて苦笑いしつつもまんざらでもなさそうなラスク少尉だった。



「だからまあ勇気なんてのは、たとえ俺みたいな怖がりの臆病者でもそれなりに必死で踏ん張って頑張っていれば、生き残りさえすりゃあ後からついてくる程度のものなんっすよ」

 また一口飲んで振り返った真剣なラスク少尉の言葉に、先ほどとは違う意味でまたレイの目が見開かれる。

「先ほどのレイルズ様の質問の答えですよ。実を言うと、新人の方はいつもほぼこれに近い質問を俺達最前線の砦にいる兵士達にして来られるんですよね。怖くないのか? その勇気はどこからくるんだ? ってな具合にね」

 笑って軽い口調で話しつつも、その表情は真剣そのものだ。

「実を言うと、見習い時代のタドラ様にも全く同じ質問をされた事があります。その時にも俺はこう言いましたよ。勇気なんてものは、生き延びさえすれば後からついてくるんだ。ってね」

 こちらも真剣な顔で頷くレイを見て、ラスク少尉も笑って頷く。

「それに、そもそも竜騎士様と俺達じゃあ戦場における役割そのものだって大きく違うでしょう? だから、俺が持っている勇気は俺の為のものであって、レイルズ様の為になる勇気とは違いますよ。そこを間違えてはいけません。正直に申し上げて、レイルズ様が今日のように最前線で徒歩やラプトルに乗って実際に敵兵と斬り合うなんて事、まず有り得ませんよ。竜の主が戦う場所は、竜の背の上で上空です。そこから俯瞰的に物事を見て、下で闇雲に走り回っている俺達に激励を飛ばし、あるいは進むべき道を示してしてくださるのが本来の役割です。もちろん精霊魔法を通じて戦って下さることもありますけれどね。そもそも竜騎士様の剣は剣ではあるけれども戦場において求められる役割はワンド、つまり術を発動する際に使う杖なんですよ。その為にご自身の伴侶の竜の守護石が必ず嵌め込まれている。場合によっては硬度が低くて本来であれば武器には嵌めないような柔らかな石であってもね」

 その言葉は、実際の戦場での竜騎士の存在の意味を思い知っている、ラスク少尉だからこそ言える言葉だっただろう。

「泥臭い戦いは、俺達みたいな生え抜きの兵士にお任せください。レイルズ様がやらなければいけないのは、それこそ明日の訓練みたいに、大勢の兵士達を俯瞰的に見て動かす事なんっすよ。だから、間違えないでください。ご自身が成そうとするその先をね」

 照れたのか少し赤くなったラスク少尉は、誤魔化すように笑うとボトルの蓋をしてゆっくりと立ち上がった。

「お時間をとらせて申し訳ありませんでした。明日に響くといけませんから、もう終わりにしましょうかね」

「そうだね。あの、すごく勉強になりました。本当にありがとうございます」

 同じく立ち上がったレイは、改めて居住まいを正すと直立して深々と頭を下げた。なぜか、敬礼よりもこちらの方がふさわしい気がしたのだ。

「少しでもお役に立てたなら光栄っす。それじゃあおやすみなさい」

 そう言って笑ったラスク少尉も直立して、こちらはお手本のような綺麗な敬礼をしてから自分のテントへ戻って行った。

 その後ろ姿を見送ってから、レイも自分のテントへ戻って休んだのだった。

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