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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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お疲れ様でした!

「やったあ〜! 逃げ切ったっぞ〜〜〜〜!」

 リム少尉の腕を掴んで投げる直前で止まったレイは、嬉々としてそう叫んで掴んでいた手を離して拳を突き上げた。

「うああ〜〜まさかの二連敗〜〜〜」

 投げ飛ばされた体勢のまま、頭を抱えて叫ぶラスク少尉。

 周りで見ていた兵士達は、もう大喜びで手を叩いて笑っていた。



「いやあ、お見事。ちょっと報告書に書きたいくらいに見事な逃げっぷりだったな」

 いつの間にか見学の兵士達に紛れ込んでいたグッドマン大尉の嬉しそうな言葉に、腹筋だけで起き上がったラスク少尉が大きなため息を吐いてもう一度頭を抱えた。

「いやあ、予想以上のすごい逃げっぷりでしたねえ」

「ご苦労だったな。なかなかに面白いものを見せてもらったよ。それに、お前さんがあそこまでまともに投げられるのも初めて見たな」

「しかも思いっきり庇われていましたからねえ。これは結構屈辱っすよ」

「まあ、上には上がいるって事さ。お前らにとっても、いい勉強になったろうさ」

 苦笑いしつつも何故か満足気に頷く少尉達を見て、こちらも満足そうに大きく頷いたグッドマン大尉はゆっくりと立ち上がって、息を整えているレイの背中を思い切り叩いた。ものすごく大きな音が辺りに響く。

「なかなかに楽しませてもらったよ。明日の訓練でもこれくらい活躍してくれよな。期待しているぞ」

 無言で仰け反り悶絶しているレイを見て声を立てて笑ったグッドマン大尉は、そのまま手を上げて自分のテントへ戻って行った。

 慌てたように座っていた兵士達が立ち上がって敬礼して大尉を見送り、それ見たレイ達も、慌てて直立してそれに倣った。

「はあ、それじゃあまあ、明日はせいぜい頑張ってくれよな」

 笑ったラスク少尉にまで背中を叩かれてしまい、レイは予想以上の痛みにまたしても無言で悶絶するハメになったのだった。




「お疲れ様でした。今夜も大騒ぎでしたね」

 嬉々としてテントに戻ってきたレイを出迎えたラスティは、そう言って苦笑いしつつ用意してあった湯の入った大きな桶を見せた。

「まずは汗を拭ってお着替えをお願いします。そのままでは体が冷えてしまいますからね」

 笑ったラスティの言葉に笑顔で頷いたレイは、テントに潜り込んで手早く服を脱ぎ、もらった手拭いをお湯に浸して絞り、せっせと汗を拭い始めた。

『なかなかの大騒ぎだったな。二連勝おめでとう』

 こめかみの細い三つ編みが汗で湿ってなかなか解けなくて苦労していると、レイの手の上に笑ったブルーのシルフが現れて軽く三つ編みを叩いてくれる。

「ああ、これで解けたね。ありがとうブルー」

 嬉しそうにそう言って、濡れた手でこめかみの辺りを撫でてから乾いた布で汗を拭う。

「すっごく楽しかった。思い切り体も動かせたしね。よし、これで体は綺麗になったね。着替えは……ああ、これだね」

 ちゃんと新しい着替えが一式畳んで用意してくれてあるのを見て、嬉しそうに急いで袖を通していく。



「ラスティ、お湯をありがとう。これ、どうしたらいいですか?」

 着替えを終えて剣帯を手にしたまま、テントの垂れ幕を上げて外にいるであろうラスティに声を掛ける。

「はい、桶は返して参りますので、そのまま渡してください」

 湯の入った桶を受け取り、お湯はテントの裏の空き地に撒いてから桶を返しに行く。

 テントから出たレイは、もう一度服を整え襟元を確認してからミスリルの剣を装着したままの剣帯を締めた。

 改めて大きく伸びをして一つ欠伸をする。確かに体は疲れているが、なんともいい気分だ。

 まだ眠くはないので星の観測でもしようかと思いテントに戻りかけた時、こちらに向かって歩いて来る足音が聞こえた。

「お疲れ様でした。いやあ、完敗でしたね」

 近くまできて立ち止まり笑ったラスク少尉は、あのウイスキーの入った小さなボトルが何故か二本手にしている。

「お疲れ様でした。僕も楽しかったです。でも最後は結構ギリギリでしたよ」

 笑顔で応えるレイに苦笑いしたラスク少尉は、手にしていたボトルを一本、何も言わずにレイに向かって放り投げた。

 慌てて空中で掴んだボトルを手に、レイは驚いてラスク少尉を見る。

 受け止めたボトルはかなり重いので、おそらく満杯までウイスキーが入っているのだろう。

「せっかくですから、ちょっとお時間をいただいても?」

 笑って手にしたボトルを軽く振りながらテントの裏を指差すラスク少尉の言葉に、レイも笑顔で大きく頷く。

 そのまま二人並んでテントの裏の空き地に転がしてあった丸太に並んで座った。

「逃走術の達人殿に乾杯」

「二連敗の敗者殿の健闘に敬意を込めて、乾杯」

 ボトルの蓋を開けたラスク少尉の言葉に、レイも笑ってボトルの蓋を開けてから重々しい口調でそう言ってやった。

「あはは、いやあ、事実なだけに反論出来ねえなあ」

 大きくボトルを煽ったラスク少尉の笑い声を聞きながら、レイもボトルに口をつけた。



 いつの間にか現れたブルーのシルフだけでなく、ニコスのシルフ達までが笑ってレイの膝の上に座って、仲良く並んでボトルを傾けている二人を楽しそうに眺めていたのだった。

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