カウントダウン!
「だ〜か〜ら〜〜!なんでそんなに速えんだよ! 猿かよ!」
まだ四人の中では一番善戦しているラスク少尉の叫ぶ声に、走りながら振り返ったレイは舌を出しながら両手を顔の左右に上げてパタパタと振って見せた。
見学している兵士達からドッと笑いが起こる。
「この野郎! 絶対捕まえてやる!」
笑いながらそう叫んだラスク少尉が一気に加速して迫ってくる。
「絶対に捕まらないもんね〜!」
ラスク少尉の動きを見切っているレイは笑いながらそう叫んで、わざと届く直前まで待ってから伸ばして来た手から軽々と身を躱した。そのまま目の前に迫ったテントを軽々と一飛びで飛び越えて見せる。
「うわあ!」
テントから激突寸前でなんとか身を交わしたものの、無理な減速をしたためにせっかく詰めた距離を大きく引き離されてしまう。
「障害物クリアー!」
軽々と地面に降り立ちポーズまで取ってみせるレイに、もう見学の兵士達は大喜びだ。
「ああ、でかい図体のくせしてちょこまかちょこまかと逃げ回りやがって!」
悔しそうにそう叫んで掴み損ねた手を振り回しながら、ラスク少尉が右から回り込もうとする。
「いいぞ、こっちへ追い込め!」
「まかせろ!」
リム少尉がそう叫んで、ラスク少尉と呼吸を合わせて左右から挟み撃ちにする作戦に出た。追い込む先にはテネシー少尉が大きくて長い手を広げて待ち構えている。
大柄なテネシー少尉はどうやら長距離走は苦手らしく、無理に走り回って追いかける事はせずに、中央付近の広い場所に陣取っていて、逃げるレイが近付く度に襲いかかってくる作戦みたいだ。だが、今のところ残念ながらレイの体にかすりもしない。
「見え見えの罠にはハマりませ〜〜ん!」
これもわざとらしくそう叫んで、左右から襲いかかってくるラスク少尉とリム少尉の手を掻い潜って逃げ続ける。
「もう一人いるのを忘れてもらっちゃあ困るんだけどな!」
その時、大きなテントの影からウェントス少尉が飛び出して来ていきなり横からレイに掴みかかった。
驚いたレイが即座に身を交わして横へ逃げる。
「よし!」
しかし、そこには走り込んできたリム少尉がいてレイは逃げ場を失う。
「捕まえた!」
左右からウェントス少尉とリム少尉が飛びかかるが、レイは冷静にその場から大きくジャンプして逃げる。唐突に目標がいなくなった二人は止まる事が出来ず、真正面から抱き合うみたいにしてぶつかり合ってそのまま一緒に転がってしまった。また、見学の兵士達から笑いが起こる。
しかし、今度は地面に無事に着地したところに回り込んできたラスク少尉が襲い掛かってきた。しかも、ラスク少尉はレイの胴体ではなく袖を掴みにきたのだ。
てっきり、胴体にタックルが来ると思っていたレイの目が驚きに見開かれる。
「残念でした!」
間一髪、掴まれそうになった腕を一瞬早く引いたレイがラスク少尉から逃げたところに、今度は駆け込んできたテネシー少尉が横からタックルをかけてきた。
予想外の事に一瞬目を見開いたレイは、しかし冷静に掴みかかってきたテネシー少尉の肩に手を当ててそのまま勢いよくテネシー少尉の肩を駆け上がって背中側へ飛び降りたのだ。
まるで羽が生えているかのようなその動きに、驚きのどよめきが走る。
また周囲で見学している中には、数名の第四部隊の兵士もいて、彼らは揃って、精霊達はレイルズ様に誰も触れていないんだと、何度も何度も必死になって言い続けていた。
「ええ、精霊の助け無しに、あの身軽さ?」
「それこそ有り得ないだろう? どんな体幹しているんだよ」
「あの身長で、あの身軽さって……」
見学している兵士達は、もう好き勝手に感想を言ってはうんうんと頷き合っていたのだった。
しかし、決めた敷地内を走り回っているレイ達には、それを見て文句を言っている余裕は無い。
テネシー少尉までが参加して完全に四対一になった追いかけっこは、もう砂時計の砂が半分以上落ちていて、そろそろ時間切れになりそうだ。
「そろそろ時間切れだぞ〜〜〜!」
いつの間にか、一般兵達に混じって一緒になって見学していたグッドマン大尉の声にラスク少尉達が揃って悲鳴を上げる。
「10!」
「9!」
「8!」
砂時計の減り具合を見た兵士達が、揃ってカウントダウンを始める。
「うああ〜〜!」
「待ってくれ〜〜〜!」
情けない悲鳴を上げたラスク少尉が、破れかぶれで両手を広げてレイに飛び掛かってくる。
「7!」
「捕まらないもんね〜〜〜!」
「6!」
さすがに少々息が切れてきたレイが、笑いながらそう叫んで飛び掛かってきたラスク少尉の腕を掴んだ。
「5!」
レイの方から反撃に出たのは、これが初めてだ。
当然、掴んだ腕ごと力一杯引き寄せられたラスク少尉は、そのまま豪快に投げ飛ばされてしまった。
「4!」
しかし、投げ落とす時には完全に背中を下にしていて腕は掴んだまま。なので頭はしっかりと庇われて守られている。
「3!」
「お見事! これは決まったな」
笑ったグッドマン大尉の声の直後に、レイが振り返って砂時計を乗せた丸椅子を見る。
「2〜!」
「ああ〜〜〜間に合わない〜〜〜!」
リム少尉がそう叫んで飛び掛かってくる。
「1!」
レイも笑って一緒に数えてリム少尉の腕を掴む。
「ゼロ〜〜〜!」
砂時計の最後の一粒が落ちたと同時に全員がそう叫んで、笑いと拍手にその場は包まれたのだった。




