レイ対少尉達の対戦再び!
「うん、今日も美味しい!」
大勢の兵士達の輪の中に入り密かな注目を集めているレイは、ご機嫌でそう言って笑うとお行儀悪くフォークに突き刺した鶏肉を大きく開けた口に放り込んだ。
「そりゃああれだけ走り回れば、腹も減るだろうさ」
呆れたようなラスク少尉の言葉に、あちこちから吹き出す音や笑いながらそうだそうだ、誰かさんのおかげで腹が減ってぺこぺこだよ! と囃し立てるような笑い声が聞こえてきて、レイも声を上げて笑った。
すっかりご機嫌でテントまで戻ってきたレイは、用意された夕食のお皿を渡したラスティが何も言わないうちに、自分からお皿を持って嬉々として皆のいるところへ走って行き、昨夜とは違って兵士達の中へ当然のように入って行って座ったのだった。
周りの兵士達もそれを当然のように受け入れ、隣に座ったラスク少尉に早速何か言われて小突かれて、悲鳴を上げながらも楽しそうに笑っていた。
「おやおや、あんなに甘えん坊だった雛鳥の巣立ちがあまりにも早くて、親鳥役の私は、なんだか置いて行かれたみたいな気分になりますねえ」
篝火に照らされて楽しそうに笑っているレイの後ろ姿を眺めていたラスティは、手付かずの自分のお皿を手にしたまま小さな声でそう呟いて、苦笑いで誤魔化しながら密かにため息を吐いたのだった。
「ご馳走様でした」
ご機嫌でカケラも残さずに完食したレイは、他の兵士達と一緒に食器を返しに行って、またそのまま戻って一緒に輪になって座って、今日の出来事を飽きもせずに語り合っては、何度も何度も楽しそうに同じところで笑い合っていた。
「なあ、じゃあもしもここでするなら、どんな風に逃げる?」
その時、ラスク少尉がいい事思いついたと言わんばかりに目を輝かせながら無茶な事を言い出した。
「ええ、今ここで?」
驚きつつも、レイはしばらく真剣に周りを見回し無言になった。
「ううん、昼間よりは逃げやすいと思うな。だけど、ここで昼間みたいに大勢で走り回ったら篝火を倒す危険があるから無理だけどね」
ここでやろうと言われては大変なのでそう言ったのだが、何故かラスク少尉は嬉しそうにうんうんと頷いている。
「成る程成る程。じゃあ少人数でならどうですか?」
「ええ、僕一人に?」
「そうです。例えば、四、五人程度ならいかがですか?」
「まあ、それなら多分大丈夫だと思うけどなあ」
すると、またしてもラスク少尉はにんまりと笑った。
「言いましたね。大丈夫だって言いましたね! お前らも聞いたよな!」
そう言って立ち上がったのはラスク少尉だけではなく、リム少尉にウェントス少尉、そしてテネシー少尉の四人だった。
「ええ、もしかして……」
「はい、そうですよ。俺達は再戦を希望します。それじゃあこの砂が落ちる間、逃げ切ればレイルズ様の勝ち。それまでにレイルズ様を確保出来れば俺達の勝ち。どうです?」
取り出したのは、試験の時などに使っているのよりも小さめの砂時計だ。
「これ一つで六分の一刻。いかがです?」
周りの兵士達は、それはもう目を輝かせて二人の会話を聞いている。
「いいですよ。場所はどうしますか? 無制限に逃げていいのなら僕は真っ暗な外へ一直線に走って行きますけど?」
こちらもにんまりと笑ったレイの言葉に、ラスク少尉もこれまた笑顔になる。
「成る程。それじゃあこうしましょう。俺達の中隊が使っている敷地が、西側のあの大きな篝火から配膳担当の大きなテントまでなんで、向こう側はそこまでにしましょう。こっち側も同じく奥に見える大きな篝火のある場所です。南北は、ちょうど草地が途切れているあの場所が境界線です。いかがですか?」
四方を指差しながらラスク少尉は簡単にそう言ったが、かなり広いので端から端まで走ったら相当ありそうだ。
「そんなに広くていいんですか? 僕が有利な気がしますけど」
自信有りげなその言葉に、聞いていた周りの兵士達から驚きの声が上がる。
「あれ、広すぎますか?」
「そうですね。僕はそっちの配膳のテントの辺りからなら、こっち側はあの黄色いテントの辺りまでくらいで考えていたんですけれどね。南北もそれくらいの広さで」
無言になったラスク少尉が確認するように辺りを見渡す。それはちょっとした運動場くらいの広さしかない。
「へえ、そんなに小さくていいんですか?」
「うん、だって小さいけど木も生えているし、あちこちにテントがあるから身を隠すにはもってこいだしね」
「いいですねえ。じゃあそれで行きましょう。おおい、誰か今言ったくらいの距離で適当な位置で線を引いて場所を決めてくれるか」
「了解です。しばしお待ちを!」
何人かの兵士達がどこからかロープを持って来て走って行き、あっという間にレイが言った辺りの地面に線を引いて回った。そして輪になって座っていた兵士達が、線の外へ走っていって見学する体勢になる。
それを見て、何事かと他の部隊の手の空いていた兵士達までが集まって来た。
「じゃあ、行きましょうかね」
軽く飛び跳ねて体を解していたレイを見てラスク少尉がそう言い、他の少尉達も揃ってにんまりと笑って頷く。
「僕はいつでもいいですよ」
こちらもにんまりと笑ったレイは、丸椅子の上に置かれていた砂時計をそっとひっくり返した。
「では開始!」
そう言って一気に走り出したレイのあとを、歓声を上げた四人の少尉達が嬉々として追いかけ始めた。しかし、レイの足は本当に早くて誰も追いつけない。
それを見た周りの兵士達は、大喜びで拍手喝采となり、早速右に左に逃げ回るレイに大歓声を送っていたのだった。




