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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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実戦との違い

「そっか、模擬戦って言っても、実際に戦うわけじゃあないんだね」

 目の前で展開する光景に、ゼクスに乗ったレイは小さく呟いて密かに胸を撫で下ろしていた。



 いよいよ近づいて来た敵役の部隊との接触がどんなふうになるのか分からず、実はかなり緊張していたのだが、実際の竜の翼の先端部分での敵部隊役の兵士たちの接触を見て、レイは密かに首を傾げていた。

 見る限り朝練の手合わせよりもはるかに静かで、何度か剣を軽く合わせる程度で簡単に勝敗が決まっているみたいだ。

「ねえブルー。あれってどうやって勝敗を決めているの?」

 我慢出来なくなって、小さな声で目の前の空中に向かって小さな声で話しかける。

 すると目の前にブルーのシルフが現れて笑いながら遠くを指差した。

『あの最前線にいる兵士達は、それぞれに一枚のカードを持たされている。相手と接触、つまり交戦状態となった場合、お互いのカードを見せ合って勝敗を決するのだよ』

「カードで勝敗が決まるの?」

 不思議そうにしているレイに、ブルーのシルフはまた笑う。

『いわばカードでのじゃんけんなのだよ。それぞれのカードには記号が一つだけ書いてある。1のカードは2には勝つが3には負ける。1ならば引き分け、と言った具合に、勝敗が決まっているのだ』

「ああ、そういう意味なんだ。へえ面白いね。それで負けたら戦線離脱?」

 見ていると時折手を上げた兵士が、場所を離れて外へ出て行く姿が見える。おそらくあれが負けた兵士達なのだろう。

『あの挙げている手には自分のカードを持っていて、それは負けました。の合図なのだよ。あのまま左右に設けられた指定の場所へすぐに行かなければならない。それらは死亡者や負傷兵、つまり戦力外になった兵士の数、というわけだ』

「あはは、負傷兵や死亡兵が自分で移動してくれるんだ」

 呆れたように小さく笑ったレイの言葉に、ブルーもシルフも笑っている。

『全くだな。本来であれば、負傷兵一人を前線から下げるのに最低一人か二人は必要だから、実質二人から三人の兵士を前線から一度に下げる事が出来る。実際の戦いにおいては、一撃で殺すよりも怪我を負わせる方法に重点を置かれる事が多い。つまり、足や顔を狙う』

 一転した真剣なブルーのシルフの言葉にレイが絶句する。

『とはいえ、今回はあくまでも部隊間の動きや連携、或いは上官の指示が的確に伝わっているかなどを確認するのが目的の訓練だから、接敵、つまり敵役との接触そのものはそれほど重要視されていない。なのでカードで勝敗を決めるような事をしている。これが実戦を兼ねた訓練の場合はもっと激しいものになるな。刃を潰した訓練専用の武器を使って実戦さながらの激しい手合わせする。これははっきり言って怪我人が続出するほど激しい訓練で、実際に負傷した兵士を運ぶのも訓練のうちだとされているくらいだ。まあ、今の皇王になって以降はあまり行われていない訓練なのだがな』

「へえ、今の皇王様になってからは行われていないって、どうして?」

 無邪気な質問に、ブルーのシルフは苦笑いして首を振った。

『今の皇王が即位する少し前に、隣国の先代の馬鹿王が先王を(しい)して即位している。何があったかは……まあ、推して知るべし、だな。それまでもこの国と隣国との間の歴史上国境での小競り合いは頻発していたが、先代の馬鹿王が即位して以降の派兵は異常なまでに多い。アメジストの主が大怪我を負った時のように、思わぬ大規模な戦いも頻発している。その為、無駄に兵士を疲弊させるような訓練はやらない方針になったのだよ』

 納得出来る理由に真剣な表情で小さく頷く。

『まあ、其方が直接指揮をする予定のあの部隊の面々は、確かに相当優秀なようだな。見る限り小隊ごとの動きに躊躇いがなく、しっかりと連携がとられている』

 嬉しそうなブルーのシルフの言葉に、レイも笑顔で頷いていた。



 とりあえず、今のところはしっかりと見学していろと言われて、レイはもう夢中になって、グッドマン大尉の指揮する兵士達の鮮やかな動きに見入っていた。

 普段、砦で第六部隊を管轄しているグッドマン大尉が、レイがいる側の総大将役で、つまり大尉もまたレイと同じように普段の自分の役割以上の訓練に参加しているという事になる。

 伝言の枝によって拡声されたグッドマン大尉の号令の下、まるで生き物が動いているかのように目の前の部隊が展開していくのだ。

 大勢の人達の無駄のない動きと一体感。成る程、彼らが優秀なのだと言われる理由が分かった気がした。

 しかし、果たしてこれを自分が出来るのだろうか。

 改めて指揮官としての視線で目の前の部隊を眺めて、ちょっと気が遠くなったのだった。

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