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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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内緒話と信頼の意味

「お疲れ様でした。なかなかに思ってもみなかった楽しい展開になったみたいですね」

 医療兵から受け取った湿布を持ったラスティが、ベッドから起き上がって身支度を整えているレイの後頭部の髪の毛の跳ねを撫でてやりながら、そう言って笑っている。

「そうなの? ううん、あれでよかったのかなあ」

「最高でしたよ。私の予想以上のことを成し遂げてくださいましたね」

 頑固な後頭部の跳ねを苦労して撫でつけながらも、そう言って笑っているラスティは何故だかとても嬉しそうだ。

「まあ、確かに小隊長達とは仲良くなれたみたいだけどさあ」

 剣帯を締めながらそう言って笑っているレイの言葉に、ラスティは嬉しそうに頷いている。

「では戻ります。こんな時間にお世話になりました」

 立ち上がったレイは、片付けをしていた衛生兵達に向かってそう言って深々と頭を下げた。

 レイの額を治療してくれた医療兵の先生はもうここにはいない。

「い、いえ……大事なくて何よりでした」

 レイの言葉に驚いたように振り返った衛生兵の一人が、そう言って直立して敬礼してくれる。周りにいた衛生兵達も、それを見て慌てたようにそれに続いた。

「ありがとうございました!」

 レイは改めて背筋を伸ばして敬礼を返すと、笑顔でそう言ってから治療のためにお世話になった医療用のテントを出て自分のテントへ向かった。



 すっかり日が暮れて真っ暗になった空には、今夜も満天の星が瞬いている。

 思わず足を止めて空を見上げたレイの隣で、にっこりと笑ったラスティも足を止めて空を見上げた。

「レイルズ様、おそらく理解していらっしゃらないでしょうから、テントの横で座って、今夜の事を少し解説して差し上げましょう。内緒話になりますのでその際には結界を張っていただけますか?」

 驚いたようにラスティを振り返ったレイは、笑顔で頷き早足でテントを張ってある場所まで一緒に戻った。

 そして、テントから敷布を取り出して地面に敷き、そのまま並んで座った。

 それを見たブルーのシルフが、何も言わずに軽く指を鳴らした。一瞬で、強固な結界が張られて、すぐそばにある篝火の爆ぜる音さえも聞こえなくなる。

 周りを見回して満足そうに頷いたブルーのシルフは、それからレイの肩に座って、いつものように笑ってレイの柔らかな頬にそっとキスを贈った。

『大騒ぎだったな、お疲れ様』

 レイが、笑顔で右肩に座ったブルーのシルフを見る。

『まあ、我が説明するよりも、そこの従卒の方が分かりやすく教えてくれるだろうさ。しっかりと聞いておきなさい。それに、確かに内緒話をする時には結界が必要だな』

「ありがとうね、ブルー。えっとラスティ、ブルーが結界を張ってくれたよ」

 黙って隣に座るラスティを見て、レイが満面の笑みでそう告げる。

「そうでしたか。蒼竜様、お手間をとらせて申し訳ございません。さて、どこからお話しましょうかね」

 軽く咳払いをしたラスティが、少し考えてから話し始めた。



「昼間にも内緒話をした際に少しお話しいたしましたが、現場の兵士達は、特に実力主義とでも申しましょうか、そういう部分が多々ありますからね。本当ならば駄目なのでしょうけれども……特に今回のような上司となる士官が初心者の訓練の場合は、たとえ竜の主であろうとも武術が全く駄目という方が指揮をされると、まあ……上手くいかない場合も多々あるのですよ」

 何となく言いにくそうに話すラスティだったが、聞いていたレイにもこれは言いたい事が分かって真剣な顔で大きく頷いた。

「えっと、つまり……昼間に聞いた実際の戦場で戦う兵士達は、感情を持った人間だって話と根っこは同じだよね。つまり……最前線で戦う兵士達は、自分の命を預けるに足る上司かどうかっていうのを見る際に、本人の持つ武力、つまり強さを判断材料の一つとして考えている?」

「おお、素晴らしい。ええ、その通りです。ですので、今夜のレイルズ様がなさった事は大きいのです。実質現場に出る小隊長達の信頼を得られたというのは、かなり有利に働くでしょうからねえ」

 嬉しそうにしみじみとそんな事を言われて、首を傾げたレイは不思議そうにラスティを見た。

「えっと、それってつまり……例えば、全く同じ言葉で同じように指揮をしたとしても、指揮をする人によって兵士の動きが違う?」

「まあ、そうですね。有り得ない事ではありませんよ」

 真顔で頷くラスティの言葉に、目を見開いたレイはそれはそれは真剣な顔で考え込んでしまった。

「逆の立場になった場合を考えてくだされば、分かりやすいのでは? 例えば、レイルズ様が最前線の砦の中でも、有事の際には真っ先に戦場に立つ部隊の小隊長だと考えてください。当然自分の腕には自信がある。今まで何度も攻めてくる敵国の兵士達をやっつけてことごとく撃退しているのですからね。自分が面倒を見ている下級兵士達の事も、素晴らしい兵士達だと思い、信じてもいるし信頼もしている」

「例え話だね。うん、もしも僕がそんな立場だったら……きっと、自分の仕事に誇りを持って取り組んでいるだろうし、部下の兵士達の事もきっと可愛がっていると思うな」

 少し考えてから、顔を上げたレイは嬉しそうにそう言ってうんうんと頷く。

「ええ、そんな時に部隊ごとちょっと面倒な訓練に駆り出されました。ああ、この場合の面倒というのは実際の移動の事、という意味ですよ。だって考えてみてください。国境の砦からここまで、実際に兵士達はさまざまな方法でここまで来ているんですよ。特に下級兵士達は必ずしもラプトルに乗って移動するわけではありません。大勢で一緒に荷馬車に乗ったり、荷物と一緒に運ばれたりもします。最悪の場合、徒歩で来る事だってありますよ」

「ここまで? うわあ、それはちょっと大変そう」

 驚くレイに、苦笑いしたラスティも頷く。

「散々苦労してようやく辿り着きそこで始まった訓練で、不慣れで未熟な上司から意図の分からない指示や、明らかに失敗するであろう部隊展開を命じられたとしたら、どう考えますか?」

 その言葉に、一瞬言葉に詰まったレイは、嫌そうに口を尖らせて首を振った。

「きっと、嫌だと思うだろうね。こんなところまで俺様を来させておいて、する命令がそれかよ! みたいな感じかなあ……」

 実はこの台詞は、少し前に読んだ放浪の傭兵の物語の中で、優秀な傭兵である主人公が無能な上司に向かって毒づく場面に書かれていた台詞そのままだ。

 しかし、予想以上の言葉がレイの口から出てきて、ラスティは一瞬言葉が出ないくらいに驚いた。

「お、おお……素晴らしいですね。ええ、まさにその通りですよ。ですがレイルズ様は、先ほどその小隊長達と互角の戦いっぷりを見せ、彼らの信頼を得たのです。その意味がお分かりいただけましたか?」

 ようやく納得したレイが、それはそれは真剣な顔で何度も頷くのを、ラスティは安堵のため息を吐きつつ嬉しそうに見つめていたのだった。

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