二勝二敗!
「お願いします!」
剣帯を外して上着を脱ぎ、身軽になったレイの言葉に、構えていたテネシー少尉は嬉しそうに大きく頷いた。
「よし、来い!」
大柄なテネシー少尉は、そうやって構えると相当な迫力がある。
身長はレイには届かないだろうが、目線がほぼ互角に近い事を考えると190セルテは確実にあるだろう。そして横幅は確実にレイよりも大きい。胴回りも腕も足も、がっしりとした筋肉に覆われているのが服の上からでもよく分かった。
腰を落とした構えに全く隙は無く、組手も相当な腕前と見た。
しかし、何故だかその時レイは奇妙な懐かしさを覚えて密かに首を傾げていた。
しばし無言で見つめ合ううちに気が付いた。
道理でどこかに見覚えがあるはずだ。テネシー少尉は、顔こそ全く違うが、ドワーフで背が低かったギードを人間と同じくらいに大きくしたみたいに感じたのだ。
理由は分からない。しかし、ギードと同じ気配を感じたのだ。
だとすれば、もう行くしかない。文字通り胸を借りるつもりで戦えば良いだけだ。
見つめあったままで動かなかった両者だったが、先に動いたのはレイの方だった。
離れた位置で構えていたのだが、そのまま一気に前へ出て、当然のように掴みにきた両手を自分の両手で即座に受け止めた。
互いの手を頭上で握り合ったまま、ごく近い位置で顔を突き合わせて握り合わせた両手で力比べとなる。
「ぎ、ぎ……」
テネシー少尉の食いしばった歯からうめくような声が漏れる。
「う、う、う……」
全く同じ体勢で手を握っているレイの口からも、堪えきれないうめき声がもれる。
周りの兵士達はもう、全員が固唾を飲んで見守っている。
「やる、な……」
「少尉、こ、そ……」
ごく間近で睨み合いつつも、口角を上げたテネシー少尉の言葉に何とかレイも口角を上げて答えて見せた。
ギリギリと音を立てそうなくらいに互いに握り合った手がわずかに押し合い前後しているが、勝負はつかずにただただぶるぶると震えているだけだ。
「おいおい、テネシーの野郎と正面から組み合って互角だと?」
ラスク少尉が半ば呆れたようにそう呟く。
「マジかよ。すげえ」
「うわあ。こりゃあ俺が弾き飛ばされるわけだ」
リム少尉が嬉しそうに笑いながらそう呟く。周りで見ている兵士達も、それに同意するみたいにうんうんと揃って頷いている。
彼らは皆、リム少尉やテネシー少尉がどれだけ強くて力持ちなのかをよく知っている。その二人と互角に戦い、ましてやレイはリム少尉を力比べで圧倒して倒しているのだ。
「レイルズ様。すげえ……」
「噂は本当だったんだなあ」
「まだ十代だぞ。どれだけ強くなる気だよ」
感心するような呆れたような兵士達の呟きが聞こえて、ラスク少尉は苦笑いしつつ何度も頷いていたのだった。
ある意味好き勝手言いながら見学している周囲の兵士達と違い、当の二人はもうそれどころではない。
全く周囲の声など聞こえず、お互いの目を見合って必死になって握った手を押し返そうとしていた。
「ならこれでどうだ!」
踏ん張って構えていたテネシー少尉が、いきなり力を抜いて足払いにきたのだ。
レイの目が驚きに見開かれ、払われそうになった足を必死で踏ん張る。
「でやあ〜〜〜!」
そのまま勢い任せに握った手ごとテネシー少尉を引き倒したのだ。
どよめきが走る。
仰向けに倒された少尉は、しかし即座にレイの腹を下から蹴り上げ、そのままくるりと背後に一回転して起き上がった。
蹴飛ばされて仰向けに倒れかけたレイも、一瞬地面に手をつき無理やり腹筋を使って即座に起き上がる。
そのままガッチリと胸を合わせて組み合う。
テネシー少尉がレイのズボンのベルトを掴んで投げにくる。しかし、レイも腕の長さを生かして覆いかぶさるようにしてテネシー少尉のズボンのベルトを掴んで踏ん張る。
「どりゃああ〜〜〜!」
今度も仕掛けたのはテネシー少尉だった。
レイのズボンを掴んだまま、何と仰向けに自ら倒れ込み、引き寄せられて体勢を崩したレイの大きな体をそのまま背後に放り投げたのだ。
見ていた兵士達から悲鳴が上がる。
しかし、放り投げられたレイは、即座に反応して着地の瞬間に綺麗に一回転して地面を転がり、何事もなかったかのように起き上がって振り返った。
またしてもどよめきが走る。
「あはは、最高だよあんた!」
目を輝かせたテネシー少尉の叫び声と共に、再びガッチリと互いの手を正面から握り合って再び力比べが始まる。
力が拮抗する中、間近で睨み合っていたテネシー少尉がにんまりと笑うのが見えたレイは、咄嗟に首をすくめて足を更に踏ん張った。
何故かは分からないが、頭突きが来ると分かったのだ。
少し頭を後ろに引いた少尉が、力一杯額を打ち付けてくる。
しかし辺りに響き渡るような鈍い音がした直後、膝をついたのはテネシー少尉の方だった。
「あ、すみません! 大丈夫ですか?」
慌てて手を離して、額を抑えて座り込んだテネシー少尉を覗き込む。
「お前一体どれだけ硬い頭してるんだよ! 俺を殺す気か!」
しかし、そう叫んで顔を上げたテネシー少尉の額と、覗き込もうとしていたレイの額がまたしても音を立ててぶつかる。
今度は全く身構えていなかったレイが、勢い余って後ろへ吹っ飛ぶ。
そして当然、二度目の頭突きを食らったテネシー少尉も、そのまま後ろへ倒れた。
「うう、まさかの頭突き……しかも二回……」
しばしの沈黙の後、額を抑えたレイのうめき声で、呆気にとられて固まっていた周囲の兵士たちが一斉に吹き出したのだった。
「我が中隊一の鋼の頭蓋骨を誇るテネシー少尉が、頭突きで負けたぞ!」
ラスク少尉の叫び声に兵士達はもう一度吹き出し、額を抑えて転がる二人も吹き出してその場は大爆笑になったのだった。




