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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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手合わせ

「えっと……」

 立ち上がったままでにんまりと笑って、自分を見下ろすラスク少尉を見上げる。

「噂で小耳に挟んだんですが、なんでもレイルズ様は朝練でヴィゴ様に見事に打ち込み土をつけたのだとか。だとしたら相当な腕前とお見受けいたします。こんな機会はそうはありませんからね。是非とも一手お手合わせ願えませんでしょうか?」

「ええ、あれはルークと二対一で相手をしてもらった時で、しかもその前にヴィゴは僕の護衛をしてくれているキルートと、本気のやりとりをして見せてくれた直後だったんだから、きっとお疲れだったんだよ」

「何をおっしゃいますか。ヴィゴ様ならそれくらい何でもありませんよ。例え二対一であっても、あの方に正面から相対して打ち込めたのなら、それだけでもレイルズ様は相当な腕だと言って間違いないでしょうからね」

 満面の笑みでそう言ったラスク少尉は、腰に装備していた剣を鞘ごと取り外した。

「まあ、これはあくまでお遊びですからね。もちろん抜きませんよ。どうぞこのままで」

 そう言って鞘ごとの剣を軽く構えて見せる。

 周りにいた兵士達はそれはもう期待に満ち満ちた目でレイを見ている。

「まあ、鞘付きなら……」

 そう言って立ち上がったレイも、腰から自分のミスリルの剣を鞘ごと取り外した。

 タキスからもらった房飾りが軽く揺れる。

 立ち上がって向かい合った二人を見て、周りに円座になって座っていた兵士達が慌てて立ち上がって後ろに下がる。

 そして彼らを大きく取り囲むようにして大きな縁を描いて座り直した。

 周りにいた手の空いた兵士達も嬉々として駆け寄ってきて座る。



 あっという間に、レイとラスク少尉は大勢の兵士達に取り囲まれてしまった。



「おいおい、お前ら仕事しろよな」

 鞘付きの剣を肩に担ぐようにして周りを見回したラスク少尉は、呆れたようにそう言って笑いながらゆっくりと下がり、少し離れた位置で立ち止まるとゆっくりと振り返った。

「では、お願い致します」

 真顔になって構えるラスク少尉を見て、レイは小さく息を飲んでから鞘付きのミスリルの剣を構えた。

 相対した瞬間に分かった。彼は間違いなく強い。遊びだと思っていい加減な気持ちで受けたら、その瞬間に叩きのめされて終わるだろう。

 たとえ勝てないにしても、無様な負け方はしたくなかった。

「お願いします!」

 そう言って、鞘付きの剣を正眼の位置で構える。

 二人の構えた剣先がぴたりと止まる。

 そのまま暫し無言で見つめ合う。

 周りの兵士達は、息を止めて二人を見つめている。

 どこかでラプトルの鳴き声が聞こえた直後、先に仕掛けたのはラスク少尉だった。



「じゃあ遠慮なく!」

 一瞬で距離を詰めた少尉は、剣の根元の辺りで一度だけまともにレイの剣に打ち込みにいった。

 咄嗟に構えて防がれた直後、そのまま勢いをつけて横から払いに行く。

 当然下がるだろうと思っていたレイが、一瞬だけ驚きに目を見開いた直後に彼も前へ出るのを見てラスク少尉も驚きに目を見開く。

 二人が同時に打ち込んで重なった鞘ごとの剣が鈍い音を立てる。

 これで決めるつもりだったレイの渾身の打ち込みを、ラスク少尉は軽々と止めて見せたのだ。

 剣の根本で交差した状態のままで二人の動きが止まる。

 兵士達の間にどよめきが走った。

 しかし二人は動かない。いや、どちらも動けなかったのだ。



「ええ、何これ、すごい力! 少尉って僕より頭半分以上小さいのに、全然押し込めない!」

 ギリギリと必死になって押し込もうとするが、まるで地面に突き立った鉄の棒を相手にしているが如く、わずかも揺らぐ様子が無い。

 押し込みの力は相当鍛えているつもりだったレイは、全く押し込めないこの状況に密かに焦っていた。



「うええ、一体何なんだよ。この圧力は。絶対今ので剣を弾いてやるつもりだったのに、完全に受けられたぞ。マジかよ、めちゃめちゃ強えじゃねえか!」

 こちらもぎりぎりと全身の力を込めて押し込もうとしているラスク少尉だったが、レイの大きな体は地面に根が生えているかの如く揺らぎもしない。

 完全に拮抗した状態で、しばし剣越しに睨み合いが続く。



 周りの兵達は、それはもう息を殺して瞬きも忘れて成り行きを見守っている。

「これでどうだ!」

 その時、ラスク少尉が不意に力を抜き後ろへ跳んで下がる。

「うわあ!」

 力を込めた瞬間にはぐらかされて、勢い余ったレイが一瞬体勢を崩す。

「もらった!」

 そう叫んでものすごい勢いで振りかぶった剣を打ち下ろした。



 間に合わない!



 咄嗟に防ごうとしたが一瞬遅く、もうその時にはすぐ目の前まで打ち込まれた剣が迫っていて、レイは叩きのめされる覚悟を決めた。

 だが目は閉じない。



 しかし、覚悟した衝撃は来ず、目の前に寸止めで止められた剣の切っ先が見えて、大きく息を吐いたレイは、ゆっくりと剣を落として両手を上げた。



「参りました」



 静まり返っていた兵士達が、一斉に大声を上げてあたりは大歓声に包まれたのだった。

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