部隊への移動と再会
天幕を出ても足を止めないオッターグル少佐の後ろをそのままラスティと並んで歩き、少し離れた別の天幕の中へ入って行った。
入る時に、オッターグル少佐が軽く振り返って指で手招きした。
それを見て、レイとラスティも素直に一緒に天幕の中へ入って行った。
中には、二人の士官がそれぞれ書類を手に、立ったまま顔を付き合わせて真剣に話をしていた。
「ああ。ご苦労様です。いよいよですね」
「おお、おいでなすったかあ」
手前側にいた、明らかに文官と思しき細身の男性士官が笑顔で振り返って敬礼しながらそう言い、奥側に立っていた大柄な男性士官が、レイを見て嬉しそうにニンマリと笑ってそう言いながら敬礼した。
「ヴィンデル大尉です。初めまして古竜の主殿。第一部隊第一大隊所属、第五中隊の指揮を預かっております。今回、仮想敵として対決させて頂きますので、どうぞお手柔らかに」
にんまりと笑った細身の士官はそう言って右手を差し出してきた。
文官かと思ったら、まさかの最前線の中隊の指揮官。それは文字通り最前線で戦っている事を意味している。
「レイルズ・グレアムです。未だ勉強中の未熟者ですので、よろしくお願いします。どうぞ、気付いた事があれば何なりとお教えください」
握り返したその手のひらには優しげな外見にそぐわない程の硬いタコと、手の甲側には幾つもの傷があり、文字通り戦う事を知る手をしていた。
「グッドマン大尉だよ。よろしくな。古竜の主殿。第一部隊第一大隊所属の第六中隊を預かってる。ちなみに今回は俺んとこの部隊がお前さんが指揮してもらう部隊だ。うちの部隊は野生児どもが揃ってるから、まあ大変だとは思うけどしっかりやってくれや」
そう言って豪快に笑った大柄な士官は右手を差し出してきた。
その笑った頬には斜めにひきつれたような大きな傷跡があり、差し出された右手にも、幾つもの傷跡が見て取れた。
そして握った大きな手は、硬いタコと、これも幾つもの傷跡が残っていた。
ここでも同じように名乗ってしっかりと手を握り返した。
「今回、君が担当するのは、今聞いた通り、第一部隊第一大隊所属の第六中隊だ。ではしっかりやってくれたまえ。グッドマン大尉。あとはよろしく頼む」
オッターグル少佐の言葉に、二人が直立して敬礼する。レイも慌ててそれに倣った。
天幕から出たところで、ちょうど隣の天幕からも誰かが出てきたところだった。見知った顔に気が付きレイの足が止まる。
「あれ、アイズナー少尉だね!」
「ああ、レイルズじゃないか。お疲れさま。無事に個人走破を完走したみたいだな」
「うん、何とかね。アイズナー少尉は?」
「まあ、一応完走はしたよ。成績は散々だったけどな」
笑って肩を竦めるアイズナー少尉を見て、レイは笑っている。
「人形を運ぶのは、本当に大変だったね」
「確かに、あれは冗談抜きでもう途中で本気でやめたくなったよなあ」
苦笑いするアイズナー少尉の言葉に、後ろに控えていた彼の従卒と思しき兵士も苦笑いしていた。
「ほら、行くぞ」
グッドマン大尉に背中を叩かれて、慌てて返事をしたレイは大尉の後に続いた。
アイズナー少尉達も、まだ自分の装備を担いだままだ。
しかしそのままオッターグル少佐の指示で担当者からそれぞれにラプトルを受け取り、一同はそれに乗って野営地から出て行ったのだ。
どうやら先ほどの野営地のあった場所がこの地区の本陣らしく、ラプトルをしばらく走らせたところにまた別の部隊が陣を張っている場所に到着した。
「レイルズはそっちの天幕を使え。アイズナー少尉はその隣だ、荷物を置いたらここへ集合! ほら、とっとと行ってこい!」
グッドマン大尉にそう言って背中を叩かれた二人は、返事をして大急ぎで言われた天幕に飛び込んで行った。
「へえ、かなり広いね」
レイが立っても頭が当たらないくらいに天井が高い。
嬉しそうにそう言ったレイは、突き当たり奥に置かれていた、荷物置き用の台の上に自分のリュックを下ろした。
ラスティがその隣に同じく荷物を置き、手早く身支度を整えてすぐに外へ出ていった。
全員揃ったところで、そのまま歩いて敷地の奥へ向かう。
そこには、三百人近い兵士達が、部隊ごとに綺麗に整列して並んでいたのだ。
一つの団体が、そのまま一個中隊。
十人ずつ並んでいるのは、部隊の最低単位である班単位なのだろう。
それが五列単位で並んでいるので、あれが一個小隊、そして、その小隊が四つ。
あれが今回レイが指揮をするのだという一個中隊、つまり第六中隊なのだろう。
「うわあ、本当に大丈夫かなあ、僕」
思った以上の兵士の数の多さを前にして、平静を装いつつも内心では大いに焦っているレイだった。




