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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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休憩室にて

「ううん、声を聞く限りそれほど心配するほどでは無かったみたいだな」

 持っていた水割りが入ったグラスをゆっくりと揺らしながら、消えていくシルフ達を見送ったルークは小さな安堵のため息を吐いてから、グラスに入っていた残りのお酒を飲み干した。

「どうだろうな。レイルズの事だから、無理をして元気に振る舞っている可能性もあるぞ」

 少し心配そうにそう言ったヴィゴの言葉に頷き、ルークは手にしていた空になったグラスを机に置くと、隣にいたヴィゴの空のグラスも受け取って、それぞれのグラスに新しい氷を落としてからウイスキーを氷の上にゆっくりと注いだ、

「確かに、しばらく気をつけておきます。はいこれどうぞ。それより、ラスティの体調は大丈夫なのかな? 心配だし一度連絡を取ってみるか。シルフ、ラスティを呼んでくれるか」

 ヴィゴにグラスを渡したルークがそう言い、机の上に何人ものシルフ達がまた現れて座った。周りの皆は、黙って座るシルフ達を見つめている。

「ラスティ、ルークだよ。今大丈夫か?」

『ルーク様』

『はい丁度今連絡しようとしていたところです』

「おうご苦労さん。こっちは休憩室で、殿下以外は全員いるよ。それでさっきレイルズから聞いたんだけど、体調はもう良いのか?」

『はいお恥ずかしい限りですが』

『軽い脱水症状だったようです』

『もうお陰様で全快しております』

 先頭のシルフが、そう言って頭を下げるのを見て皆が安堵するように笑った。

「そうか。まあ、大事なくて良かったよ。外では無理は禁物だぞ」

『はい一層気をつけるようにします』

『ですが今回の私の不調のおかげで』

『嬉しい発見もございました』

「嬉しい発見?」

 飲みかけていた手を止めたルークが、不思議そうにそう言ってシルフ達を見る。

『思った以上に体調が悪く』

『足場の悪い箇所で何度も転んだ私を気遣い』

『途中からレイルズ様が』

『私のリュックから重い荷物を一部取り出して』

『代わりに持ってくださいました』

『それも当たり前のように』

『自ら申し出てくださいました』

『今日ほどレイルズ様が頼もしく感じられた事は』

『ございませんでしたね』

 嬉しそうなラスティのシルフが語る内容に、聞いていた一同から感心した声が上がる。

「へえ、あいつそんな事は一言も言ってなかったぞ」

 横からカウリが感心したようにそう言って並んだシルフを見る。

「まあ、レイルズらしいんじゃない?」

「自分の事は、あまり言わない」

「特に善行はね」

 若竜三人組の言葉に、大人組も苦笑いして頷いている。

「まあこれも経験だ。極限状態にあって、それでも自分が人を助けられるというのは大きな自信になるだろうからな」

 マイリーの言葉に、皆が揃って頷く。

「確かに。俺は負傷兵運搬の走破訓練の時に、周りを気遣う余裕なんて全く無かった」

「僕は、それどころか疲れすぎて何度も転んでボロボロになって、ヘルガーに思いっきり迷惑かけて、最後は人形を担いだまま肩を貸してもらった事ならある」

「俺も似たようなもんだったなあ」

 しみじみとしたロベリオの呟きに、タドラが情けなさそうなため息と共にそう白状して顔を覆い、ユージンも隣で自分の時の事を思い出して遠い目になっている。

「まあ、特に初めての場合は大抵酷い目にあってるよな」

 マイリーも苦笑いしながらそう言い、ヴィゴもそれを聞いて苦笑いしながら何度も頷いていた。

 その後、レイの日常の様子をラスティから詳しく聞き、仕事を終えたシルフ達は、一礼してからそれぞれくるりと回って消えていった。



 黙ってシルフ達が消えるのを見送っていた一同だったが、ルークが感心したように笑ってグラスを掲げた。

「って事は、レイルズは予想通りといえばそうだが、個人の能力はかなり優秀って事だな。レイルズの頑張りに乾杯だ」

「乾杯。そうだな。こうなると後半戦が楽しみになってきたな」

 マイリーもそう言って、自ら用意したウイスキーをたっぷりと注いだグラスを掲げる。

「だよなあ。あの連中を相手に、どんな奮闘ぶりを見せてくれるのやら。不謹慎かもしれないけど、レイルズが後半戦で何をやらかしてくれるのか、俺、楽しみで仕方がないんだけどなあ」

 笑ったカウリの言葉に、若竜三人組が揃って笑いながら大きく頷く。

「いや、皆楽しみにしているから、それは別にいいんじゃないか?」

 大真面目なマイリーの言葉に、全員そろって吹き出して大爆笑になったのだった。



「それで、例の馬鹿息子のその後は?」

 一転して真面目な顔になったルークの問いに、マイリーがため息を吐く。

「ああ、開始早々に怪我をして初日から失格になった後、後方送りになって走破訓練に参加出来ない代わりとしての幾つかの資料作成の課題を命じられたそうだが、それを期限内に提出出来ずに、本日、正式に失格となって帰還命令が出たそうだ」

「あぁあ、って事は、肝心の後半の模擬戦に参加させて貰えなかった訳かよ」

「これは恥ずかしいよなあ」

「どの面さげて、送り出してくれた砦へ戻るつもりなのかねえ」

 若竜三人組の言葉に、ヴィゴとカウリも嫌そうに頷いている。

「それから、下級兵士達の取り調べの方は順調に進んでいるそうだから、結果が判明次第、マティウスは間違いなく責任を取って除隊になるだろうな。不名誉除隊になるか、お父上の顔を立てて、あくまでも自主的な除隊となるかはまだ現時点では不明だけどな」

「どっちにしても、強制労働くらい付くんじゃないんっすかね?」

 嫌そうなカウリの問いに、マイリーも嫌そうに首を振る。

「そっちは、恐らくだがお父上の命で除隊後に個人的に課せられるだろうさ」

「ウィニー准将は公正を尊ぶお方だからな。このような卑怯な手段を取ったと知れば、例え身内とて容赦はすまい」

 マティウスの父親であり、軍人でもあるウィニー准将を個人的に知っているヴィゴの言葉に、あちこちから溜息と共に同意するような声が上がる。

「まあ、自分の蒔いた種は自分で収穫しろって事だよ。たとえ中身が腐っていようともな」

「それは腹を壊しそうだなあ」

 ロベリオの呆れたような呟きに、皆も苦笑いしつつ頷いていたのだった。

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