回復と信頼
「ほらラスティ、見て! まだ遠いけど今日の野営地が見えてきたよ」
「ああ、そうですね。いやあ、今日は長かったです」
少し息を切らせつつも顔を上げたラスティも心底ほっとしたように笑って立ち止まり、担いでいた人形を軽く揺すって持ち直した。
午後からずっと体調が悪く、何度も転ぶラスティを心配したレイが、彼の荷物の一部を持ってやった事で、荷物が軽くなったラスティも何とか歩き続ける事が出来たのだ。
特に、林の中の足場の悪い箇所を抜けると一転してなだらかで足場のしっかりした草原地帯へ出たので、歩く速度も速くなり、何とか規定時間の上限である日暮れまでに野営地へ到着する事が出来そうでレイも安堵していた。
実は、こっそりブルーがラスティにもう一度かなり強めの癒しの術をかけていて、そのおかげでラスティの脱水症状はかなり改善していたのだ。
「だけどその前に、もう一回休憩しよう。無理は禁物だからね」
立ち止まったレイが、人形を地面に落として前側のリュックも下ろしながら振り返った。
「そうですね。ではもう大丈夫ですから、お預けしていた荷物を戻していただきましょう。本当に助かりました。ありがとうございます」
同じく立ち止まって人形を落としたラスティの言葉に、背中側のリュックを下ろしたレイは驚いて声を上げた。
「無理は駄目だって。僕なら全然平気だよ」
まあ、確かに予定外に増えて重くなった荷物は、担いだだけでも背骨が軋むようだし、肩や腰にずっしりとした重みがかかっている。だが、歩いているほぼ全ての時間中、それらの荷物はシルフ達がリュックで遊んでくれている事で、まるで宙に浮くかのように少しだが重さが軽減されているのだ。
「いえ、かなり体調も楽になりましたし、実を言うと、途中ではちょっと熱があったみたいなんですが、もうそれもすっかり引いて平熱になりましたから」
誤魔化すように笑って肩を竦めるその言葉に、レイは呆然とラスティを見つめた後、慌てたように駆け寄って彼の額に右手を当てた。
しばし無言でそのままじっとしていたが、熱がないことを確認してから安堵のため息を吐いて右手を外した。
「もう、びっくりさせないで! だけど、確かに平熱に戻ってるみたいだね。本当に大丈夫? 嘘は嫌だよ?」
真顔のレイの言葉にラスティは泣きそうな顔で笑って、そっとその右手を取った。
「はい、レイルズ様が助けてくださったおかげで何とか無事にここまで来る事が出来ました。本当にありがとうございます。それから、ラピス様にも心からの感謝を」
「ええ? ラピスって……ねえブルー、何かしたの?」
驚いたように目を瞬いたレイは、空中に向かって話しかける。
『なに、大した事はしておらんよ。単なる気まぐれだ』
不意に現れたブルーのシルフは、素知らぬ顔でそれだけを言って、またすぐに消えてしまった。
「もう、ブルーったら。でもありがとうね。ラスティを助けてくれて」
小さく笑って、ブルーのシルフが消えた場所に向かって手を振ったレイは、小さく深呼吸をしてからリュックを下ろして、中からラスティのリュックから移動させたテントと敷布を取り出した。
「じゃあ返すね。だけど本当に大丈夫?」
念を押すようにそう言い、笑ったラスティが頷いて荷物を受け取り、自分で荷物を詰め直すのを黙って見ていた。
見る限り、もうほぼ息切れもしていないようだし、足元がふらついたり顔が赤くなっているような事もない。
どうやら本当に大丈夫のようだ。
そう判断したレイは安堵のため息を吐いて、自分のリュックの中を確認した。
荷物の詰め方に偏りなどがあると重さが均一ではなくなるので、担いで歩いていると体幹のバランスが悪くなったりもするので荷造りは結構重要なのだ。二人はそれぞれ自分の荷物を簡単に整理して、しっかりと水を飲んでから出発する事にした。
体の前後に荷造りし直したリュックを担ぎ、さらにその上から人形を担いで槍を持つ。
立ち上がったレイとラスティは、どちらからともなく拳を出して付き合わせた。
「では、目的地の野営地まであとひと踏ん張りだね。無理せず行こう!」
「はい、よろしくお願いします」
笑顔でそう言って頷き合った二人は、はるか先ではあるが、もう目視出来る距離にまで近くなった今日の野営地へ向けて、ゆっくりと歩き始めた。
「いつの間にか、こんなに頼もしくなられて……人を気遣い助ける余裕さえあるのですね。本当に、立派になられた……」
少し前を歩く頼もしい後ろ姿を、顔を上げたラスティは感極まったように見つめながらそう呟いて、重くなった荷物を担ぎつつもしっかりとした足取りで進んで行ったのだった。




