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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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問題行動とその結果について

「何も言ってこないね……」

 草地に座り込んだまま黙って座っているシルフを見つめていたのだが、とうとう我慢出来ずにレイは小さな声でそう呟いた。

 同じくシルフ達を黙って見つめていたラスティだったが、レイのその不安げな呟きに顔を上げると小さく笑ってレイの腕を優しく叩いた。

「もう間も無く何か言ってくると思いますので、どうぞご心配なさらずにお待ちください。まあ、とは言っても何も分からずにただに待つというのですから、不安になるのも仕方ない事なんですけれどねえ」

 あえて軽い口調で言ってくれたラスティの言葉に、レイも顔を上げて何とか笑顔を作った。

「そうだね。何をやっていたのか教えてもらわないと、気になって夜に眠れなくなっちゃったら困るよね」

「ああ、確かにそれは困りますねえ。ではしっかりと状況説明を求めないといけませんね」

 笑ったラスティの言葉に、レイも笑って肩を竦める。

 その時、シルフ達が一斉に立ち上がったのを見て二人は慌ててシルフ達に向き直った。

『大変お待たせ致しました』

『確認が済み』

『問題行動を起こした兵士達九名を』

『全員拘束しました事をご報告致します』

「拘束した?」

 レイの呟きに、ラスティは小さく頷いてレイの手をそっと撫でた。

「具体的には彼らは何をしていたのですか?」

 真顔のラスティの質問に、レイも息をひそめてシルフ達を見つめている。

『最終中継地点の木箱から取り出した木札の破壊』

『及び偽造木札の設置です』

『マティウス少尉からの指示があったと』

『複数名からの証言を得ております』

 思わぬ名前が出てきて、レイとラスティは無言で顔を見合わせる。

「マティウス少尉が何故そのような事を? 第一、彼は現在進行形でこの遠征訓練に参加していて個人走破の真っ最中なのでは?」

 マティウスが失格となって後送された事を知らないラスティの質問に、先頭の伝言のシルフがマティウスが初日に足を怪我して失格となり後送された事を簡単に説明する。

「それはつまり……マティウス少尉は自分の部隊の下級兵士達を使って、優秀な成績で前半の個人走破を終えるかもしれないレイルズ様の邪魔をしようとした。と、そう判断してよろしいのですか?」

『現在取り調べ中ですので断定は致しませんが……』

『そう考えて間違いないかと』

 嫌そうなため息と共に、先頭の伝言のシルフがそう言って小さく首を振る。

 もう一度無言で顔を見合わせるレイとラスティだった。



「もう出発してもかまいませんか?」

 ため息を吐いて立ち上がったラスティの質問に、先頭のシルフが大きく頷く。

『現在最終中継地点には』

『監視の為第四部隊の兵士が待機しております』

『そのまま進んで木札をお受け取りください』

『今回はレイルズ様側には落ち度はありませんので』

『この一件で減点や失格の対象とはなりませんのでご安心を』

「了解しました。ご配慮感謝します」

 大きなため息と共にラスティがそう答えると、敬礼した伝言のシルフ達は次々に消えていった。

「えっと……」

 消えていくシルフ達を見送り、立ち上がって軽い屈伸をしながらレイは困ったようにラスティを見る。

「とにかく出発しましょう。歩きながら説明致します」

 もう一度ため息を吐いたラスティの言葉に、レイは頷いて地面に置いてあった槍を持って荷物を背負い直した。



 改めて現在地と最後の中継地点の確認をしてから歩き始める。

 しばらくして、ラスティが口を開いた。

 しかし、話し始めたのは全く別の話だ。

「以前、この遠征訓練に参加なさっていたロベリオ様が、酷いお怪我をなさった事があります。その事はご存じでしょうか?」

「ええ、ロベリオが? ああ、確かに遠征訓練の資料を見せてもらった時に、確かに失格になったって供述があったね。ええ、特に怪我については書かれていなかったけど、そんな酷い怪我をしたって何があったの?」

 歩きながら思わず大声でそう尋ねて少し下がった隣を歩くラスティを振り返る。

「レイルズ様、足元を見てお歩きください。転んでも知りませんよ」

 即座にそう言われて、慌てて前を向く。

「その時のお怪我はかなり酷く、傷痕が残ったのだとか」

「今でも?」

「はい、左足の太ももに傷が残っていると聞いております。しかもその時の訓練はあくまでも個人、つまり今回のように従卒は同行しておらず、お一人での走破訓練だったんです」

 ラスティの話を聞きながら、レイは驚いてまた横を向いてしまう。

「ああ、前を向かないと。ええ、だけど一体どうして怪我をしたの?」

 前を向いて歩きながら質問すると、ラスティは一つため息を吐いて首を振った。

「その時の同じ士官候補生の中に、ロベリオ様のご実家と非常に仲の良くないお方がおられたそうです。当然ロベリオ様の事も嫌っておられた。ですが、それはあくまでも個人の感情なので、作戦行動中はロベリオ様は普通に接しておられました。ですが相手の方はそうは考えていなかったようで、とある行動に出ました」

 嫌そうなその言葉に、レイは無言で考える。

「えっと、間違ってたらごめんなさい。もしかして、たった今あったあれって……その話と繋がる?」

「はい、まさにその通りです。その方は、同じく配下の兵士達に命じてロベリオ様が進んでいる進路の先にあった茂みの中に、折れた刃物を複数忍ばせたのです。精霊達に一切の手出し無用と厳命していた為、ロベリオ様は知らずにその茂みへ足を踏み入れてお怪我をなさったのです」

 驚きに言葉も無いレイに、ラスティは大きく頷く。

「ですがそのまま怪我の応急処置をして、ロベリオ様は行軍を続けられたのです」

「ええ、そんな無茶な……」

「はい、その日は時間ギリギリに何とか到着なさいましたが、刃物の怪我は深く、その場で医師から訓練続行を止められたのです」

 無言になるレイに、ラスティは真顔でもう一度大きく頷く。

「その一件以来、我々従卒は誓いました。もう二度と主人に対してこのような事は起こさせないと。その後、軍本部と相談して、先ほど私が使った緊急問い合わせ用の精霊の小枝を従卒達は常に複数持つ事になったのです。また、第四部隊にも遠征訓練へ積極的に参加してもらい、各野営地や本部に詰めて遠征訓練地域の巡回任務を訓練を兼ねて担っていただいております。もしも何らかの異常があった際には、先ほどのように即座に精霊達を使って現場を確認していただく事になっているんです」

「へえ、初めて知りました。ううん、だけどそもそも刃物を使ってまでして人の邪魔をしようとするなんて……」

 黙々と歩きながら、レイは戸惑うように小さく呟く。

「ですが我々がこれだけの事をしていても、まだ何かやらかそうとなさる方がいなくならないのは、一体どういう了見なんでしょうねえ」

 またため息を吐いたラスティの呟きに、レイも眉間に皺を寄せながら何度も頷いていたのだった。

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