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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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簡単な個人走破三日目と謎の小隊の出現

「ううん、やっぱり今日が当たりの日だったっぽいね」

「そうですねえ。昼食までにすでに三つ目の中継地点にまで到達していますから、残りはあと二つ。このまま進めばもう野営地が見えるのも時間の問題でしょう」

 二人はここまで順調に進み続け、小さな岩が転がる少し段差のある場所を見つけて昼休憩を取っているところだ。

 大きめの岩に座ったレイは、そう言って笑いながら携帯食を齧っている。隣の岩に座ったラスティも、同じく携帯食を齧りながら苦笑いしてうんうんと頷いていた。



 早朝、竜騎士隊本部付きの第二部隊の兵士達に見送られて野営地を出発したレイとラスティは、予想以上の速さで順調に中継地点を見つけ出して進み続けていた。

 ラスティだけでなくレイでさえも、本当にこんなに簡単で良いのだろうかと逆に勘繰りたくなるほどの順調っぷりだ。

「それなら早く野営地に到着して、もう今日はゆっくり休みましょう。明日は恐らく相当きつい一日になるでしょうから、朝練も軽い柔軟程度にしておく事をお勧めしますね」

 小さなため息を吐いたラスティの言葉に、水筒の水を飲んでいたレイが驚いたように振り返る。

「えっと、明日の指令って負傷兵運搬任務って書いてあるけど、もしかしてこれってラスティが言ってた……アレ?」

「はい、そうです。一般的な成人男性の平均体重に合わせて作られた等身大の人形を担ぎ、自分の荷物以外にその負傷兵の荷物とされる分まで持って進むのですよ。まあ今までよりは進む距離は遥かに短いですが、足場が悪い場所を通る事になると思いますから、相当キツイですよ」

「うわあ、それはちょっと聞いただけで大変そうだなあ。大丈夫かなあ」

 残りの携帯食を口に放り込んで何度も噛んだレイは、小さくため息を吐いて水筒の水を飲んだ。それから飲み終えた水筒の蓋をして軽く振る。もうそれだけで、水筒の中の水はレイが指定した位置まで増えてぴたりと止まっていた。

 黙ってラスティの水筒も黙って受け取り蓋をしてから渡す。受け取ったラスティが一礼して水筒を振り、そのまま荷物と一緒に置いた。

「水の心配をしなくて良いというのは有難いですね。本当に感謝します」

「いつも散々お世話になってるんだもん。これくらいお安い御用だよ」

 肩を竦めてそう言って嬉しそうに笑ったレイは、二人分の携帯食の包み紙を手にしたままであっという間に燃やしてしまった。

 もちろん、これは火蜥蜴が火の息を吐いて燃やしてくれたのだ。

 それからカナエ草のお薬を飲み、岩の上でお湯を沸かしてカナエ草のお茶を淹れる。

 岩に座った二人は顔を見合わせて笑い合い、いつもよりも少しだけゆっくりとカナエ草のお茶を楽しんだのだった。



「じゃあ、そろそろ出発かな」

「そうですね。片付けもすみましたし、頑張って早く今日の野営地に到着して明日に備えて休ませていただきましょう」

「でもその前に、あと二ヶ所の中継地点を見つけないとね」

「確かに。では頑張ってまいりましょう」

 荷物を背負ったラスティの言葉に、立ち上がったレイも大きく伸びをしてから置いてあった荷物を背負って槍を持った。

 顔を見合わせて笑顔で拳を突き合わせた二人は、そのままレイを先頭に平原を進んで行ったのだった。




「よし、これを見つければ、もう残りはあと一つだね」

 無事に岩場に隠されていた午後の一つ目の中継地点を見つけ出したレイは、取り出した木札を見て嬉しそうにそう呟いた。

 ベルトの小物入れに手に入れた木札を入れた時、ふと何かを感じて顔を上げる。

 すると、頭上にシルフ達が揃って何も言わずに前方を指差して怒った顔をしていたのだ。

「あれ? 平原の先に誰かいるね。あっちって確か野営地がある方角だし、最後の中継地点のある方角なんだけどなあ。何かの訓練中かな?」

 レイの呟きに、驚いたラスティも顔を上げて前方を見る。

 目を凝らして見ると、確かにレイが指差す平原の遥か先には、十名ほどの兵士達が何かを手にして地面を掘っている様子が見て取れた。半分ほどの兵士があちこちの地面を掘り、残りはおどおどと周囲を見回しているように見える。

「えっと……何をしてるんだろう?」

 不思議そうにそう呟き、伸び上がってもっとよく見ようとしたレイの袖をいきなりラスティが掴んで引っ張った。

 そしてそのまま、その場に伏せるようにして屈む。

「レイルズ様。頭を下げて屈んでください」

 突然の、その切羽詰まった様子に驚きつつ、レイも即座に言われた通りにその場に同じようにして屈み込んだ。

「ねえ、どうしたの?」

 何となく顔を寄せて声をひそめるレイに、真顔のラスティが黙ったままで首を振った。そして口元に指を立てる。

 静かに、の合図を見てレイが小さく頷いて黙る。

 それを見て小さく頷いたラスティは、おもむろに懐から一本の小枝を取り出したのだ。

「ええ、何してるんだよ。それって精霊の小枝でしょう? 僕、今日は失格になるの?」

 驚いたレイが大声でそう言いかけて慌てて口を両手で塞いで小さな声で質問する。

「大丈夫ですから、そのままお待ちください」

 優しく小さな声でそう言うと、ラスティは躊躇う事なく小枝を二つに折った。

 すぐにラスティの前に伝言のシルフ達が現れて並ぶ。


『はい、こちら本部です』


 立ったままの先頭のシルフが、事務的な口調でそう答える。

「こちら竜騎士見習いのレイルズ様付きの従卒のラスティです。緊急の質問ですが、前方に我々の進路上の地面を掘っている、小隊単位と思われる兵士達が見受けられますが、何か同時に作戦もしくは訓練中でしょうか?」

 早口なラスティの言葉に、レイは驚きに声も出ない。


『確認します』

『しばしお待ちを』


 即座に答えが返り、しばらく沈黙が続く。


『確認しましたが現在』

『そちらの第一部隊の第二中隊と第二部隊の第二中隊の合同部隊の野営地にて』

『小隊単位での訓練及び作戦行動は駐屯地外では行っておりません』

『至急第四部隊の兵士が確認いたします』

『御二方の現在地は把握しております』

『動かずその場にてお待ちください』


「了解です。このまま待機します」

 ラスティが頷きながらそう言うと、先頭のシルフは小さく頷いて消える事なくその場に座った。

「えっと、ねえラスティ……今のって……」

 小さな声で、横からラスティにそっと話しかける。

「後程詳しい説明を致しますので、どうか今しばらくお待ちください」

 振り返ったラスティは、怖いくらいに真剣な顔をしている。

 気圧されつつも小さく頷いたレイは、その場に荷物を下ろして座った。持っていた槍は地面に横向きにして置いてある。



 消える事なく黙ったまま座っているシルフ達を、レイは不安を押し殺しつつも黙って見つめていたのだった。

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