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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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個人走破二日目の終了

 まだ日が高いうちに無事に広い草原を渡りきり、遠くに見えた林の横に今日の目的地である野営地を発見したレイは、嬉しそうに立ち止まって大きく伸びをした。

 もう、あそこならゆっくり歩いても半刻もかからないだろう。



「よし、今日の課題はやっぱり楽勝だったね」

「ああ、無事に到着ですね。ですがレイルズ様はそう仰いますが、今日の課題は決して楽勝と言えるようなものではありませんでしたよ」

 立ち止まったラスティに苦笑いしながらそう言われて、地面に突き立てていた槍を引き抜いたレイは驚いたように隣に立つラスティを振り返った。

「ええ、そうかなあ。特に難しいところなんて無かったと思うけど?」

 心底不思議そうにそう言うレイを見て、ラスティは呆れたようにため息を吐く。

「レイルズ様。コンパスが効かない時点で、殆どの方は方角を簡単に見失いますよ」

「ええ、だってこれだけ見晴らしの良い平原で、常にあれだけ綺麗に竜の背山脈が見えているんだから、方角なんて見失いようが無いし、太陽の位置とあの山の形を地図で見れば、進んでいる方角や自分の位置は簡単に分かるよ?」

 当然のようにそう言って首を傾げるレイを見て、ラスティは手にした地図帳を示した。

「ですから、レイルズ様はいとも簡単にそれをなさいますが、特に今回参加している士官候補生と言えば、ほぼオルダム在住の貴族、もしくは地方貴族のご子息の方です。ですから、地図など見慣れておられないのが普通です。目的地など、従卒や執事が分かっていればそれで良い。なんて考えている方は大勢おられますよ。もちろん軍属となった時点で一通りの勉強はなさいますが、それを実践出来るかどうかは、また別の話です」

「ええ、それはちょっと……そうなの?」

「もちろん、しっかりと勉強なさって使いこなされる方もいらっしゃいますけれど、地図を見るのは苦手だと仰る方は多いですね」

「ええ、だけど実際の行軍の際にはこれって必須の知識……じゃあないの?」

「もちろん必須です。ですが、だからと言って全員が得意という訳ではありませんからねえ」

 苦笑いして肩を竦めるラスティを見て、レイは小さくため息を吐いて頷いた。

「そっか、その場合は従卒の人が手伝ってくれるわけだね」

「まあ、平たく言えばそうなりますね」

「この平原みたいに?」

「そうですねえ。確かにこれくらい平たく言えばそうかもしれませんねえ。レイルズ様が優秀なお方なので、私は楽が出来て有り難いですねえ」

 しみじみと頷きながらそんな事を言うラスティと顔を見合わせて、遠慮なく吹き出したレイだった。



「よし!無事に到着だ!」

 遠くに見えていた野営地へほぼ一直線に早足で進み続け、予定時刻よりもかなり早く到着する事が出来た。

「えっと、誰に報告すれば良いのかな?」

 手にしていた槍を持ち直しつつ、周囲をキョロキョロと見回す。

「レイルズ様! どうぞこちらへ!」

 聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこには顔見知りの竜騎士隊本部付きの第二部隊の兵士達が数名、整列して出迎えてくれていたのだ。

 いつも、ラプトルの世話をしてくれたり、訓練の際に装備を運ぶのを手伝ってくれたりした事もある兵士達だ。

「ああ、お疲れ様です! ええ、竜騎士隊の本部からも僕以外に遠征訓練に参加している人達がいたんだね」

 なんだか嬉しくなって満面の笑みでそう言って彼らの元へ駆け寄り、整列している兵士達と順番に手を叩き合った。

「無事の到着、お疲れ様です! 受付担当士官の元へご案内します!」

「はい、お願いします!」

 顔見知りの曹長の言葉にこれまた満面の笑みで頷き、その後について大きな天幕へ向かった。



「竜騎士見習いのレイルズ、および従卒のラスティ、指令書に従いただいま到着しました!」

 天幕に入ったところで直立して大声でそう言うと、なぜか天幕内にどよめきが走った。

「えっと……?」

 まさか天幕を間違ったのだろうか? しかし、案内してくれた顔見知りの曹長は笑顔でレイを見ている。

「ええ、もう到着したのか?」

 その時、大柄な第二部隊の制服を着た中尉が、書類を手にしたまま大声でそう叫んでこっちへ向かって走って来た。

「おお、本物だ。ええ、こりゃあとんでもない。無事の到着お疲れ様であります!」

 その中尉には見覚えは無かったが、相手はレイの顔を知っていたらしく本気で驚いているみたいだ。

 笑顔でそう言ってくれ、手にした書類に目を落とす。

「途中の中継地点の木札はお持ちでしょうか?」

「はい、これです」

 ベルトの小物入れから取り出した木札をまとめて渡すと、またしても中尉の目が驚きに見開かれた。

「ううん、これは凄い。まさか、全部集めて来たとは」

 小さな呟きだったが、天幕中の注目を集めていたのでほぼ全員に聞こえたらしく、またしてもどよめきが走る。

「レイルズ様、凄いです!」

「さすがだなあ」

「平原走破で全部の木札を回収して、しかもこの時間!」

「最高記録達成だよな」

「凄いよ」

「だよなあ、凄いって」

 顔を寄せ合って凄い凄いという兵士達を、レイは不思議そうに眺めていたのだった。

「えっと、これは褒められたと思って良いのかな?」

「そうですね。その認識で間違っていないと思いますよ」

 なぜか満面の笑みのラスティにそう言われて、照れているのを誤魔化すように小さく肩を竦めたレイだった。



 昨日と同じように地図帳に割り印をもらって完了の報告を済ませると、そのまま曹長の案内で今夜のテントを張るための場所へ連れて行ってもらった。

「こちらの敷地内であれば、どこでもテントを張っていただけます、必要ならお手伝いいたしますが、いかがいたしましょうか?」

「えっと、大丈夫だと思います。でも、ありがとうございます」

 荷物を下ろしながら笑顔でそう言い、ラスティと手分けして昨日と同じようにそれぞれのテントを張った。

 皆、何か手伝う事はないかとばかりに遠巻きにレイ達の様子を窺ってくれているみたいで、レイはラスティと顔を見合わせて小さく笑い合うのだった。

 その夜は顔見知りの兵士達と一緒に美味しい夕食をしっかりと頂き、その後は、彼らが今回の遠征訓練でどんな事をしているのか、また他の部隊の様子も少しだけれど聞く事が出来た。

 レイは分け隔てなく色々な人に声を掛けては、嬉しそうに知らない話を聞いていたのだった。



 篝火に照らされた小さなテントの上では、ブルーのシルフとニコスのシルフ達が、笑顔で楽しそうに一般兵達の話を聞いているレイの様子を愛おしげに見つめていたのだった。

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