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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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順調な個人走破二日目

「ふう、この携帯食にも慣れてきたね。食べる時に口に入れる丁度いい水の量が分かるようになってきた気がする」

 水筒の蓋を締めて軽く振りながら、レイがそう言って笑う。

「確かに最初に勿体無いからと言って少なめにすると、口の中で妙に膨らんでしまって、結局後から沢山水を飲む羽目に陥りますからねえ」

「だよねえ。僕、これを初めて食べた時、知らずにそのまま食べたら口の中がボソボソになっちゃったもん」

 笑いながら包み紙を丸めるレイの言葉に、ラスティも思わず吹き出す。

「それは携帯食を初めて食べた方が、ほぼ皆様仰いますねえ。口の中がボソボソって」

「そうだよ。本当にそれ以外に表現のしようが無いんだもん!」

 笑って断言するレイの言葉に、ラスティはもう遠慮なく大笑いしていたのだった。



 今、二人は真っ平らな草原に向かい合わせに座って、昼食を食べ終えてカナエ草のお茶を淹れるためのお湯を沸かしているところだ。

 足首ぐらいまでの丈の短い草が生い茂るこの平原では、普通は迂闊に火を焚くと大変な事になる。

 しかし、レイは当然のようにノームにお願いして草地の真ん中に火を使う為の砂場を作ってもらい、そこに、これもお願いして取り出してもらった大きめの石を組み合わせて、砂場に即席のかまどを作ったのだ。

 かまどが出来上がれば、手持ちの小さな木炭を取り出して火蜥蜴に頼んで火をつけて貰えば簡単にお湯を沸かす事が出来る。水は当然ウィンディーネにお願いして出してもらっている。

「こればかりは、精霊魔法を使える方が羨ましいですねえ。一般人がこれを郊外でやろうとすれば、最低でも金属製の簡易かまどとバケツ一杯分の木炭、大きめの水筒の水。草地では火事防止のために最低でも地面の土が出るまで、かまどの周囲までの草を掘り起こさなければなりませんからそれを行う道具も必要になります。到底個人で持ちきれる量ではありませんね」

「へえ、そうなんだね」

 無邪気に感心するレイを、ラスティは苦笑いしながらも嬉しそうに見つめていた。



 ここへ来るまでに、本日最初の中継地点をいとも容易く見つけ出して木片を確保し、昼食前には草地に埋もれるようにして隠されていた二個目の中継地点も、無事に見つけて同じく木片を確保している。

 通常よりも重い鋼の槍を与えられても不平一つ言うでなく真面目に進み、コンパスの案内無しでも的確にコース取りを行ってここまで来ている。

「このままでは、本当に個人走破の新記録の成績を打ち立ててしまうかもしれませんねえ。これは楽しみです」

 今のところ彼の唯一の欠点とも言っていい、人付き合いの不慣れさや未熟さは、個人で動く課題故に逆に全く問題になっていない。始まるまでは色々と心配していたラスティだったが、それらが今のところ全て杞憂に終わっている事に、密かに安堵しているのだった。



「ん? どうかした?」

 自分を嬉しそうに見つめているラスティの視線に気づいたレイが、茶葉の入った缶の蓋を開けながら不思議そうに振り返る。

「いえ、なんでもありません。はい、これはレイルズ様には必要ですね」

 笑顔でそう言って、荷物の影で転がっていた蜂蜜の瓶を拾ってレイの前に置いたラスティだった。

「ああ、それは僕には必須だね。はいどうぞ。じゃあこれを飲んだら午後のルートをもう一度確認しないとね」

 しばらく待ってじっくりと蒸らしたカナエ草のお茶を並べたカップに残らず注ぎ、ラスティにカップを渡す。

「ありがとうございます」

 ラスティはお礼を言ってカップを受け取り、自分のカップにたっぷりの蜂蜜を落とすレイを笑顔で眺めながらハチミツ無しのカナエ草のお茶をゆっくりと口に含んだのだった。

 ラスティは、普段は少しくらいはハチミツを入れる事もあるが、別にハチミツが無ければ飲めないわけではない。特に、今は持っているハチミツは全てレイに使ってもらう為に、彼はカナエ草のお茶をそのままで飲んでいる。

 初日に、私には必要ありませんからハチミツはレイルズ様が使ってください。と言って断り、ハチミツはレイに持たせているのだ。実はもうひと瓶、ラスティも蜂蜜の瓶を持っているのだが、彼が持っている事をレイは知らない。



「今日の槍を持っての行軍ってさ、もっと大変かと思っていたんだけど、ここみたいな平地だと杖代わりに使えるから逆に持っていると楽だよね」

 地面に突き立ててある二本の槍を見ながら、ため息を吐いたレイがふと思いついたようにそう呟く。

「重くはありませんか?」

「ええ、そりゃあ何も持たないで進む時よりは重いけどさあ。言ったみたいに杖代わりに出来るから、案外楽だなって思ってるくらいだよ」

 そう言って、笑いながら右手で地面を突く振りをする。

「レイルズ様くらいの腕力があれば、鋼の槍でも問題無いのですね。普通は、鋼の槍は重くて嫌がられるんですけれどねえ。そんな風に言ってもらえたら、あの槍も喜んでいるかもしれませんね」

「何度も現在地の確認をするのはちょっと面倒だけどさ。僕としては、今日の課題は楽させてもらってると思ってるよ」

「それならば良かったです。さて、午後からはどうなるでしょうかね?」

 お茶を飲みながら地図帳を広げたレイの横から、ラスティも一緒になって地図を覗き込むのだった。



 この後、午後からも順調に進み続け隠されていた中継地点を見事に発見して木片を全て回収したレイは、二日目の目的地である野営地へ、まだ日も高いかなり早い時間に到着して担当士官を驚かせる事になったのだった。

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