早朝の手合わせ
翌朝、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、潜り込んでいた寝袋から顔を出して大きな欠伸をした。
「ふああ、かなり冷え込んでるねえ」
寝ぼけた声でそう良いならが寝袋に収まったままゴロゴロと左右に転がり、少し身体を解してから寝袋から這い出してその場に座った。
今、寝ているテントはとても小さいので、レイはテントの中ではまともに立ち上がる事も出来ない。
「ううん、やっぱりちょっと体が痛いや。まあこれだけ硬い地面で寝てるんだから、仕方がないんだろうけどね」
小さくそう呟いて、大きく腕を伸ばして伸びをすると、寝汗をかいている下着を着替えて、手早く身支度を整える。
「これだって、本当なら自分で洗濯したり持って行ったりしないといけないのにね」
脱いで軽く畳んだ下着を見て小さく呟く。
これらは、そのままラスティを経由して担当の兵士に渡され、水の術を使って綺麗に洗濯されてレイの元へ戻されるのだ。
「裏で支えてくれる、たくさんの人達に感謝しないとね」
小さく深呼吸を一つしてからそう呟くと、中腰のまま立ち上がってテントの外に出た。
「ううん、今日も良いお天気!」
外に出て思いっきり体を伸ばして伸びをすると、まずは体を解すためにいつもの柔軟体操を始めた。
「おはようございます」
同じく身支度を整えてテントから出て来たラスティも、軽く何度か伸びをして身体を解してからレイに向き直った。
「お手伝いします」
そう言って、身体をほぐす柔軟体操の相手をしてくれた。
お互いの腕をゆっくりと引き合ったり、屈伸の際に背中を押してくれたりと、一通りの運動を終えてから改めて深呼吸をする。
「よし、基礎運動終わり! じゃあ向こうで軽く素振りをしてくるね」
テントの周りは広い空間があるので、ここでなら少しは素振りも出来そうだ。そう思って行こうとすると、にっこりと笑ったラスティに肩を叩かれた。
「輸送部隊の方からお借りして来ました。どうぞお使いください」
そう言って、テントの横に置いてあった訓練用の木剣を二本取り出してそのうちの一本を渡してくれた。
「ええ、凄い! 使っても良いの?」
「はい、訓練用の備品ですが、ここの敷地内であれば使っていただいても構わないとの事で、許可を頂いておりますからご心配なく」
その言葉に安心して笑顔で受け取り、軽く振ってみる。
「ちょっと軽めだけど、長さも良い感じだね。えっと、ラスティが相手をしてくれるの?」
考えてみたら、ラスティとは一緒に訓練をした事がないので、当然手合わせをした事もない。
「はい、私ごときではお相手は務まらないかもしれませんが、まあ、軽い運動程度は出来るでしょう」
にっこり笑ったラスティにそう言われて、満面の笑みで頷いたレイは早足でテント横の開いた場所へ移動した。
当然ラスティもついて来る。
そのまま二人は木剣を手に向かい合って一礼した。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
レイの声に、ラスティの声が重なる。直後に、レイが上段から力一杯打ち込みに行った。
タドラが防ぎきれなかった、上段からの打ち込みを、ラスティは軽々と受けて横に流した。
驚きつつも即座に返した手で横から払い打つ。
しかしそれも即座に跳ね返されてしまい、勢い余って大きく体勢を崩したレイが後ろに飛んで下がる。
「参ります!」
しかし、休憩する間を与えずラスティが即座に前へ出て木剣を突き出してきた。
さらに横に逃げて下から払う。そのまま激しい打ち合いになった。
「ラスティ、凄い!」
打ち合う剣は素早いが一撃一撃が重く、迂闊に受けると衝撃が肘までビリビリと響くほどだ。
「一応年長者として、早々見習いに負けるわけには参りませんからね!」
そう言って、上段から打ち込むラスティの一手を、レイは必死になって踏ん張りながら受けた。そしてそのまま力任せに押し返す。
「やるな!」
ニヤリと笑ったラスティがそう呟き、即座に懐に飛び込みながらの搦め手でレイの木剣を取りに来た。
「ええ〜〜〜! ちょっと待って!」
咄嗟に受けてしまい、まんまと剣に取られて弾かれてしまった木剣は、テントの屋根に当たって跳ね返り、そのまま地面に突き立って止まった。
「うわあ、参りました! ラスティすごい! 最後のは搦め手に来たって分かったのに咄嗟に受けちゃったよ」
両手を上げて降参のポーズをとりつつ目を輝かせたレイの言葉に、木剣を下ろしたラスティは苦笑いしつつ大きなため息を吐いた。
「いやあ、お噂は聞いておりましたが、レイルズ様の一撃も相当重いですね。腕が痺れていますよ」
改めて向き合い、深々と一礼した二人は満面の笑みで手を打ち合った。
そしてそれと同時に、周りから歓声が上がりどよめきと拍手が起こる。
「ふえ? なになに?」
驚いてレイが振り返ると。周りにいた一般兵達が揃って目を輝かせてこっちを見ていたのだ。
「レイルズ様。すげえ」
「ラスティ様もすげえ」
「どこが軽い打ち合いなんだよ。めちゃめちゃ激しかったよなあ」
目を輝かせて感想を言い合う兵士達を見て、レイとラスティは顔を見合わせて揃って苦笑いしながら肩を竦めたのだった。




